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サントノーレ 作者:奈備 光

5章

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 約束の時間よりかなり遅れて、マリーリとニニが連れ立ってやってきた。
 チョットマの出立まであまり時間はない。
 イコマは早速、話題に入った。

「マリーリに教えて欲しいことがあります。あなた自身のことですが、気を悪くしないで」
「すみません。遅くなって。ライラとの話が長引いてしまって」
 とニニが、謝った。
「ヒカリはまだライラと話しています」
「すみません。お呼びだてしてしまって。どうぞそこに」
 椅子を勧めたが、マリーリは座ろうとはせず、狭い部屋の入口に立ったままだった。

「セオジュン、アンジェリナ、ハワード失踪の件について、力を貸して欲しいのです」
 もうひとつの事柄、レイチェルの生死についても聞きたいことがあったが、これはマリーリの作戦の内容に踏み込むことになる。
 ライラと揉めていないなら、口を出すことではない。
 むしろ、作戦開始の前に問えば、マリーリはいい気はしないだろう。

 実のところ、イコマは、レイチェルは生きているのではないかとも思い始めていた。
 レイチェル騎士団の持つジャイロセンサーの件もあるが、SPの動きが不自然だと思うようになったのである。
 レイチェルが死んでいるなら、彼らは解雇となって、別の仕事があてがわれるのではないかと。
 いや、表向きの仕事はそれぞれ別にあるので、SPとしての立場が自然消滅するだけのことかもしれないが。
 いずれにしろ、SPという仕事に、誰の指示によって配属され、どのように始まるものかを知らない。
 そこを聞いてみたかったが、SP自身が答えられる種類のことではないかもしれない。


 ニニはともかく、マリーリは警戒している。
 かすかに微笑んではいるが、相変わらず戸口に立ったままだし、フライングアイを凝視している。
 彼女の見つめる癖、はいつものことだが、その瞳の中に今日は特に頑迷さが宿っているように感じた。
 ハワードがそうであったように、アンドロではありながら、マリーリも複雑な感情を持っているだろう。
 ただ、どんな人間にでもできる感情のコントロールが、アンドロの習性上、上手くないのかもしれない。
 逆に、思っている以上に、理知的な彼女なら上手に嘘もつけるかもしれない。

 そして、そもそもマリーリのSPとしての主たる任務は何だろう。
 ハワードの任務は、サリやチョットマを守ることだったという。
 アンジェリナは、レイチェルの恋人探し役だったという。
 マリーリは、彼女達よりかなり年齢が高い。
 美人の部類には入るが、どちらかといえば厳しい顔つきで、人を寄せ付けない雰囲気を持っている。
 恋人探し役などという妙な任務ではなく、もっと中身の濃い内容だったはず。
 ただこれも、マリーリの口から聞き出すのは難しいだろう。

 イコマは、答えにくいことを冒頭に聞くことを回避した。
 やはり、ハワードやアンジェリナの件から聞き始めるのが穏当だ。
「確認したいのですが、ハワードやアンジェリナが職場を変えたということはないですよね」
「ないです」
「彼らの行方、心当たりは?」
「残念ながら」


 イコマは心積もりをしていた質問を投げ掛けた。
「単調直入に聞くけど、アンドロであるあなたの仕事、つまり長官のSPという役割は、かなり以前から続いていること?」
 もしそうなら、マリーリは政府内のありとあらゆることに精通していると思っていいかもしれない。
「つまり、レイチェル以前の各長官にも仕えていた?」
 マリーリはハワードやアンジェリアのことを最もよく知っているだろうし、姿を消した理由にも、本当は心当たりがあるはずだ。

「そうよ」
 マリーリは躊躇することなく、そう答え、ようやく椅子に手を掛けた。
「じゃ、ハワードやアンジェリナは? 彼らもそうかな」
「いいえ。ハワードがSPになったのは、前長官のキャリーから。アンジェリナは三代前の長官から」
「なるほど。ということは、マリーリ、あなたは政府内の生き字引といってもいいわけだ」


 イコマは、自分が感じているハワードの人となりについて、話した。
 正義感が強いこと。これはアンドロなら当然のことだろう。
 そして、もうひとつ。愛や友情という感情に強い興味を持っている。もっといえば、そういう情念を持った人間になりたいと考えていること。
「マリーリもニニもアンドロだけど、人を愛する、男女の関係における愛情という意味だけど、そんな感情を持ってるよね」

 ニニについて、それは確実である。
 マリーリがその感情を持っているのか、表に現れた事象からは判断できない。
 しかしイコマは、ハワードがそうであったように、マリーリについてもそれは確実だと感じていた。
「男女の関係における愛情、って難しい言い方をするのね。それに、アンドロにとってはタブーの話」
 ニニが文句を言ったが、機嫌を損ねたわけではない証拠に、
「私、人を愛しているのかどうか、自分ではよくわからない」と、にこりとした。
「本物の愛っていうのかな、経験ないから」
 と、目を輝かせて。

 イコマはマリーリの言葉を待った。
 しかし、仄かに見せていた微笑も消し、無表情が顔を覆っている。
「どう思う?」
 イコマは、矛先を変え、ハワードの心情について、マリーリがどう思うかと聞いてみた。
「彼が姿を消した理由は、そのことに関係していると思う?」


 マリーリがかすかに首を振った。
「わからないわ」
 いつになく言葉少なだ。
「わからないって、ハワードの心情? それとも、失踪した理由?」
 ニニが助け舟を出してくれた。
「私は、ハワードはそんな気持ちを持っていたと思うなあ。いなくなった理由は分からないけど」
 ニニの感想にも、マリーリは表情を変えなかった。

 フライングアイはふわりと浮かんで向きを変え、ニニに聞いた。
「相手、誰って、思う?」
 彼女の口から、ヒントが出てくるかもしれない。
「そうねえ」
 ニニは考えるそぶりを見せて、マリーリをちらりと見てから、
「レイチェル」という名を挙げた。

 予想していた答である。
 イコマ自身も、かつてそう感じたこともあった。
 アヤの名が出なくてよかったが、もちろんそれを披露する気はない。
 マリーリは、内心を悟られまいとするかのように、目を閉じてしまった。

 アンドロにとって、しかも長官のSPという立場の者が、自分が仕えるべき相手に特別な感情を持つことは、どんな気持ちだろう。
 ハワードにとっても、同僚であるマリーリにとっても。
 許す許せない以前に、理解できることなのだろうか。
 今、マリーリは見かけは平静を保っているが、その無関心さが逆に、心の動揺を表しているのではないか。


「じゃ、いなくなった理由は、レイチェルに関係している?」
 ニニがまたマリーリを見た。
「わからない・・・・・・。ありえなくはないけど・・・・・・。」
 ニニも、これ以上は自分の口からは言えない、というように口をつぐんでしまった。

「なにか思い出すことがあったら、僕にも教えてね」
 まるで刑事の聞き込みみたいだと、イコマは自嘲しながら、矛先を変えた。
「マリーリ、さっきの話だけど、ずっとSPをやっていて、ニューキーツの街やエリアREFにもよく来ていた?」
「ええ、それなりに」

「じゃ、ライラとも会ったことある?」
「何度か」
「ライラと、なぜうまくいってないんです?」
 マリーリからそう聞いたことはないが、ライラがそう言っている。
 なぜそんなことを聞くのかというように、マリーリの瞳が揺らいだ。
「昔、なにかあったとか?」
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