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サントノーレ 作者:奈備 光

5章

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49 隠された意図

 アヤは、自分が情報部の隊長になった、と説明した。
 隊員は自分を含めて六名。
 既に配置を決め、活動をスタートさせている。
 情報の伝達手段や、情報収集や交換頻度などのルールも決めた。
「盗聴されないように、脚が基本になるんだけど、緊急の場合の暗号も決めたよ」
 各隊の呼び名、タールツー軍の呼び名から始まって、レイチェルやンドペキなど主要人物の呼び名、エリアREFやシェルタなどの呼び名、エネルギーパットや弾薬、食料、飲料水、医薬品などを指す言葉など。

「お父さんの暗号名は、ハウス。面白くなんともないけどね」
 と、アヤは声を上げて笑い、暗号リストを二枚取り出した。
「今、リストを、隊員が各部隊の隊長に配布して回ってるところ」
 アヤは、自分の拠点をンドペキの作戦室、つまりコリネルスの司令室にしたと言った。
「さっきのユウお姉さんの話、コリネルスには私から伝えておくね」

 すでにアヤは立ち上がりかけている。
「家族の取り決めだけ、しておこう」
 イコマはそう提案し、アヤを玄関まで送りながら早口に言った。
 毎晩、この時間帯、午後十時前後にここに集まる。
 ただし、時間に余裕がある場合のみ。無理は禁物。
 フライングアイは、チョットマと行動を共にする。ブラインドされた門と街を往復する必要のある間は。

 マンションの部屋の玄関に置いてある手回しオルゴール。
 中学生だったアヤが、ユウの誕生日に贈ったもの。
 トロイメライを、一回だけ回してから、アヤは飛び出していった。


 ユウは、自分でもオルゴールを回しながら、
「ノブの記憶の断片のことなんだけど」と言いだした。
「ん?」
「海に漂ってる断片」
 リビングに戻ったユウは、浮かない顔をしている。
「すべてを拾い集めるには、まだ時間が掛かるのよ」
 パリサイドはそんな作業も始めているという。

「これも、ノブを優先して、なんてことはできないから」
「いいよ、そんなこと」
「太陽フレアが海を干上がらせるような事態になる前に、終わらせたいんだけど」
 情報を海に蓄積していることを、パリサイドは想定していなかった。
「始めてからもう一月も経つんだけど、さすがに膨大で」
 作業開始に手間取ったことに加えて、断片のアーカイブに慎重を期しているのだという。


「海が干上がれば、お手上げってことになるな。まあ、そんなときは、もう人間が住める星じゃないけどな」
 そうなる前に、人類は地球を離れざるを得なくなる。
 この星を離れられないアギは消滅だ。
「そこまでいかなくても、海水温が上がれば、アギの記憶情報は吸い上げられなくなるのよ」
 平均海水温で一度、沿岸部や水系で五度も上がれば、限界。
 情報はさらに細分化されて、しかもそれが誰の記憶なのかを判別するタグが外れてしまうのだという。

「なるほどねえ」
「だから急いで、アギの実体化計画を進めているんだけど」
 パリサイドの肉体を持つプラン。
 イコマの順番はまだ回ってこない。
「ごめん。口出しできないのよ。あくまでランダム、ってことになってて」
「気長に待つよ」


 イコマは、エリアREFの地下深くに押し込めてあるアギについて、聞いてみたいと思った。
 なぜ、パリサイドのコロニーではなく、街に出現したのか。
 どこで作られ、どうやってあそこに出現したのか。
 また、彼らはパリサイドとしての能力を、どの程度有しているのか。
 つまり、空は飛べるのか、宇宙光線からエネルギーを得ることはできるのか。自由に姿形を変えることはできるのか。
 そして今後、彼らはどうなっていく、あるいはどうしたい、とパリサイドは考えているのか。
 パリサイドが彼らに、ある働きかけを開始しているというが、それはどんなことなのか。

 知りたいこと、聞いておかねばならないことが多すぎる。
 パリサイドの体を持ったアギのことなど、本当は些細なことだ。
 関心がそこにあるわけではない。
 もっと根源的な疑問。
 それははユウのこと。
 ひいては、パリサイド自身のこと。

 パリサイドが地球に帰還した本当の理由。
 人類を救うため、とユウは言うが、それが間違いではないとしても、隠された意図はないのだろうか。
 そもそも、パリサイドがどういう方法で地球に降り立ったのか、ということさえまだ知らないのだ。
 そして、ユウの言葉によれば、コロニーにいるパリサイド以外に、地球近辺あるいは太陽系近辺の宇宙空間に駐屯しているパリサイドがいるということになる。
 それが、どんなものなのか、どの程度の規模なのかも知らない。
 神の国巡礼教団は解体したというが、その後、どうなったのか。
 今、地球近辺にいるパリサイドは教団解体後の組織の本体なのか、そうではないのか。

 ユウは、自分はニューキーツにコロニーを築いたパリサイドのリーダーみたいなものだという。
 では、ユウが属する組織とは?
 それらを統括する組織がどういうもので、ユウはどんな立場にいるのかも。

 こういったことを聞くには、覚悟と時間が必要だった。
 短い会話で終わらせるべきではない。いつかじっくり話をしてくれる機会がきっと訪れるだろう。
 そのとき、神の国巡礼教団と共にユウが宇宙に旅立った経緯も語られるだろう。
 そして、この数百年の間にユウに起きた出来事も。


「ところで、サブリナっていうパリサイド、知ってるかい?」
 イコマは、ロア・サントノーレの稜線で耳にした名を話題にした。
「知ってるよ」
 ユウが怪訝そうな顔をした。
「カイラルーシのパリサイドのひとり。でも、ノブには関係ない人だと思うけど……」
「それなら、それでいいんだ」
「さっき、カイラルーシに帰ったわ」
「そうか」

 サブリナが何者なのか、何のためにニューキーツに来たのか、イコマは知らない。
 スジーウォンが帰って来れば、話してくれるだろう。


「そうそう、サブリナで思い出した。暗いニュースがあるよ」
「聞きたくないな」
「まあね」
 サブリナを神の国巡礼教団に引きずり込んだ張本人、オーエンの妻、サーヤ。
 この女も地球に帰ってきているという。

「実はさ、ニューキーツにいるの」
「ほう! で?」
 宗教に狂った女のことなど、大して興味はない。
「オーエンに会わせた」
「えっ」

「彼女は心の底から、宗教に嵌ってしまったことを後悔しているわ」
「そうかねえ。オーエンは許さなかっただろ」
「なぜわかるの?」
「自分以外の男に教祖サマ、なんて言ってついて行ったんだぞ。身も心も捧げて」

「そうよねえ」
「追い返されるのが落ちだろ。オーエンの気性だ。喜んで迎えるはずがない」
「そのとおり……。俺を愚弄する気か、って怒鳴って、その場で……」
「ん?」
「彼女の体、その場で真っ二つに」
「なっ」


 そんなタイミングで、ンドペキと同期した。
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