挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
サントノーレ 作者:奈備 光

5章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

49/118

48 パリサイドの画策

 しばらくして、今度はコンフェッションボックスからアヤが入ってきた。
「フライングアイより、やっぱりこっちの方が、楽しいし」
 と、自分の指定席に座った。大阪福島のマンションの一室、アヤのお気に入りの白いチェア。
「目玉親父じゃ、味気ないか」
「まあね。今みたいな時は、特にね」
 互いに顔を見ながら話したい。
 当然のことだ。

 例によって、念のためまずは四方山話。
 街の上空に展開していたパリサイドが、最近、撤収したみたいだね、とか。
 店で売られているパンが、なんとなく美味しくなったように感じる、とか。
 イコマはアヤのために、コーヒーを入れた。

「わあ、いい匂い!」
 と、ユウが部屋に入ってきた。
「お、これは珍しい。示し合わせたみたいだな」
 数週間前まで、ユウはコンフェッションボックス経由で会いに来てくれていたが、ここしばらくはエリアREFの部屋が家族の部屋だった。
 諜報機関から傍受されないことになっているとはいっても、なんとなく不安があったからだった。
「コーヒー、入れようか」
「うん」


「もう絶対に大丈夫」
 ユウが胸を張った。
「ノブの思考は、完全に切り離したわ」
「どうやって?」
「アギの思考システムはパリサイドが運営することにしたの。それを経由して、政府の諜報システムに繋がってる。そこからノブの分は抜いておくことにしたのよ。もちろん秘密裏にね」
「僕の思考は、ニューキーツにあるんじゃないけど?」
「うん、世界中のシステムをね。かなり時間、掛かったけど、やっと、って感じね」
「それって……」

「地球人類に対する敵対行為?」
「どう考えても、そういうことになるよな」
 アギ自身、そしてアギに繋がるすべての思考、つまり情報をパリサイドが乗っ取ったということだ。
 しかも、その中から選別した情報を地球人類に渡す。
 さらに、そうなっていることを、地球人類側は知らないということである。


「まあね。でも、違うよ。人類を助けるため」
「もちろん、そうなんだろうけど」
「じゃ、簡単に説明するね」
 アギの思考を司るシステムのデータベースに、海や水系を使うアイデアはすばらしかったわ。
 でも、そのシステムを動かすエネルギーシステムは脆弱なまま。 
 地球の中心部にいくらでもあるエネルギーを使っていても、それを送るのは、相も変わらず送電線なんて、陳腐すぎて。

「昔さ、宇宙の暗黒物質とか、暗黒エネルギーとか、言われてたもの。その一端が分かったことで、私達は宇宙空間を自由に旅することができた」
「ああ」
「もうひとつ、宇宙には無限の時空があるよね。今ここにも、無数の次元が存在していて、それらは何らかの接点を持って繋がっている」
「多次元宇宙論ってのが、もてはやされた時期があったな」
「そう。そこを介してエネルギーを送ればいいのよ。本当はエネルギーだけじゃなくて、情報もね」
「なるほど。地球人類にはまだ難しい技術だな」
「もっと言えば、そこからエネルギーを得ることだってできるでしょ。それこそ無尽蔵のエネルギー。人類が使うエネルギーの量なんて、宇宙規模で言えば、無いのと同じ」


「わかった。アギの思考については、そういう方法で、システムダウンだけは免れることになったんだな」
「まあね。まだ全面的に移行はできてないけど」
 もっと聞きたいことはある。
 どんなケースで、アギの思考は停止するのか。
 しかし、今まさに、政府建物への侵攻作戦が開始される。
 アヤも、自分の仕事に取り掛からなくてはいけないだろう。
 のんびりと技術談を交わしているときではない。

 イコマは話を先に進めた。
「でも、この小部屋の会話そのものは傍受されるだろ。このバーチャルな空間は、政府のシステムを使ってるんだから」
「そこも、少しだけ小細工したよ」
「どんな? 簡単に説明してくれ」
「この前まで、システムに侵入して、別の会話を聞かせることにしてたんだけど、いっそのこと、無かったことにしてしまえ、ってことで」
「つまり?」
「アヤちゃん、それからノブの大好きなチョットマがアクセスしてきた場合だけ、パリサイド側のバーチャル生成装置に繋がるように変えたのよ」


「パリサイドの装置?」
「急いで作ったのよ。私は元々、政府のシステムを経由してないけど、アヤちゃんとチョットマの場合は、自働的に切り替えることにしたのよ」
 政府のシステムに残るアクセス記録は、エラーという記号だけだという。
「なるほど。それにしても、パリサイドってのはすごいな」
「すごい? というより、宇宙空間で生きていくために、進化せざるを得なかった、ということね」

 イコマはパリサイドのコロニーを脳裏に思い浮かべた。
 あのシリー川の会談のとき、ちらりと見たのは、森の中に木造の建物がパラパラと建っているだけだった。
 あれからまだ、一月ほどしか経っていないのに。
 世界中にはもっと大規模で、高度な技術を駆使できるコロニーがあるのだろうか。

「どの街のコロニー? そんな大層な装置を造ったのは」
「はあ?」
 ユウが、目を剥いた。
「ノブ、しっかりしてよ! あるわけないやん!」
 久しぶりにユウの口から、大阪のイントネーションが出た。
 リラックスしている証拠だ。
「だから説明してくれ」
「はあ!」


 気持ちは急くが、やはり聞いておきたかった。
 ユウも同じなのだろう。
 早口でまくし立てた。

「あそこは私達が住んでいるだけやん! 街としての本体は、別のところにあるねやんか!」
「あ、そうか。エネルギーも情報も、自由に空間を結べるんやったら」
「そういうこと!」
 ユウが、ふうっと溜息をついた。

「ついでに言うと、私達が地球に戻ってきた本当の理由。地球人類の救出」
「だろうな」
 アギにパリサイドの肉体を与えていくというプラン。
 それは紛れもなく、その作戦の一環。
「なぜ私達が、地球の各街の近くにコロニーを構えたか。また地球に住みたいです、ていうだけなら、そんなふうに分散する必要ないやん」
「うん。今や、無人の荒野も、鳥しか生息していない無人島もいくらでもあるしな」
「そういうこと。地球人類を監視したり、脅しをかけたりするためと違う」


 ますますユウは早口になってきた。
 すでに、パリサイド側は準備完了。
 地球人類を受け入れるための空間も、必要な物資も。
 後は、その時を待つだけ。
 実は、アギのパリサイドには、既にある働きかけを始めている。

「ということで、情報が漏れる漏れないということに関しては、もう何の遠慮も要らないよ」
「ユウ、助かるよ」
「なに言ってんのよ! ついでに言っとくと、エリアREFのンドペキの作戦室の隣にある寝室。あそこもノブの部屋と同様に、すべての通信を遮断しといた」
「そうなの!」と、アヤが目を輝かせた。

「政府やアンドロ軍に聞かれたくない重要な打ち合わせは、そこですればいいよ。あ、そうそう。フライングアイも安全。ノブだけやけど」
 装置としてのフライングアイは、政府のシステムで作られたものだから、エネルギーはその仕様のまま。
 ただ情報は、パリサイドのシステム経由に切り替えたというわけだ。
「だから、電力が遮断されたら、フライングアイも落ちるわ。だけど、メインブレイン同様、何を考えようが、話そうが、大丈夫ってこと」

「ということで」
 と、ユウが話を切り替えた。
「アヤちゃんの話は? 聞かせて。当面の動きは?」
 すでにアヤは、そわそわしていた。
cont_access.php?citi_cont_id=706025280&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ