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サントノーレ 作者:奈備 光

5章

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47 膨大なリスト

「パパ! お部屋、貸してね!」
 チョットマが駆け込んできた。
 チョットマの作戦室として、今後、ここを使わせて欲しいという。
 もちろん、うれしいことだ。
 リーダーに選ばれたのはついさっきのことなのに、ずっと考えていたかのように、チョットマは淀みなく指示を出している。

「作戦開始は、午前零時。ンドペキが突入する三時間前とします。避難してくる職員は少ないと思うけど、誤って市民を撃つことのないように、くれぐれも頼むね」
 などと、念を押している。
「コリネルスも言ったように、私達の仕事は、街を掌握すること。そして、タールツー軍が街に入り込むことを阻止すること。門を攻略し、攻め入ることが目的じゃないです」
 チョットマのハートマーク作戦に参加する隊員は、百名となった。
 五隊に分けたので、各隊概ね二十名ということになる。
 手薄な門であれば攻略も可能だろうが、無理をするつもりはない、とチョットマはいう。

「むしろ難しいのは、ブラインドされた門にたどり着き、互いの連携をとること。そして撤収すること」
 政府建物がブラインドされているということは、そこに何らかの装置が作動していて、その境界を踏み越えていかねばならないということだ。
「ブラインドされたエリアから出てくるところを押さえるという手もあるんだけど、きっと難しいと思う」
 タールツー軍が出てくるポイントは、この建物とこの建物といつも決まっているが、必ずしもそこだけが出入り口とは限らない。
 分散されたら、手の打ちようがなくなる。
 まさに水際作戦となって、漏れれば街への侵入を許すことになるだろう。


「たどり着けないとわかった時点で、細かい作戦は変更するけど、まずはチャレンジよ」
 チョットマは集まった隊長達に意見を求めたが、それぞれが既に腹を括っていたようで、大筋合意ということになった。
「じゃ、細かいことを話すね」
 と、街のマップと、ブラインドエリア内の道順を記したペーパーを配った。
「道順は四班それぞれ違います。道順は頭に入れてね」

 一口にブラインドエリアと言っても、二通りある。
 市民には見えない政府建物内と、そこに至る緩衝エリア。
「建物内は普通に行動できる空間だと思うけど、緩衝地帯が問題です。SPによれば、濃霧の中のような空間で、たくさんの光のラインが走っているんだって」
 チョットマが配ったペーパーには、侵入する建物から門に至るまで、どのラインをなぞっていくのかが書かれていた。
「つまり、まずは右六十度へ百十メートル進み、そこに交差している光のラインを左にとり、五十五メートル進む。というように見ればいいんだな」
 と、隊員が聞いた。
 曲がるポイントの距離と方向のリストが、細かい文字でずらりと記載されてある。膨大な数の数値と記号を睨んで、絶望的な顔の隊員もいる。
「そのとおり。光のラインはものすごくたくさんあって、それに、てんでばらばらな方向に伸びているから、一箇所でも間違うと、取り返しがつかなくなるみたい。戻ってくることもできなくなるんだって」
「俺、記憶力ないんだよな」
「ペーパー、失くさないでよ」

「門にたどり着くまで、ざっと計算すると、距離にして四キロほどだな。慎重に進んで、十五分ってところか」
「ううん。もっと時間をかけて。確実に。一時間はかけていいから」
「了解だ」
「ペーパー無しでも戻って来れるように」
「うえっ、そりゃ無理だ」
 隊員が笑った。
「俺の班に、記憶力のいい奴がいてることを祈るよ」


 チョットマがそれぞれの門の担当を決めていった。
「私は正門を固めるけど、一番遠い門へは一緒に行くつもり。ブラインドエリアがどんなところか知りたいから。到達したら、ひとりで帰ります」
「チョットマ、来るのはいいけど、リーダーをひとりで帰すわけにはいかないよ」
 最も遠い門の担当に決まった隊員が、難色を示した。
 シルバックである。
「気遣ってくれてありがとう。でも、邪魔はしないから」
「そんなことじゃなくて!」

 チョットマは、以前、シルバックを煙たい存在だと感じていた。
 それどころか、嫌いだったといってもいいだろう。
 相手にとっても、それは同じこと。
 変われば変わるものである。
 ハートマーク隊の中で、チョットマが最も信頼を寄せているのはシルバック。
 イコマには、それがわかった。

「私達、いがみ合ってたよね」
 と、シルバックが言い出した。
「でも、いつからかなあ。私が、チョットマってすごい、って思い始めたのは」
「ちょっとちょっと、そんなこと言い出さないで」
 シルバックが首を振った。
 透明感のある白銀の髪が、さらさらと音を立てるかのように揺れた。

「あの洞窟でさ。息が詰まりそうな毎日。でも、チョットマはいつも」
「ねえ、シルバック、その話、今度にしよ」
「うん、そうね。でもさ、これだけは言わせて」
「なに?」
「ありがとう」
「なにが」
 シルバックは、他の隊員に、ごめん、勝手な話をして、とぺこんと頭を下げた。
「でも、チョットマをひとりで放り出すことなんて、できるわけないと思うでしょ。わけのわからないブラインドエリアの濃霧の中に」


「そう思う。それに、俺もチョットマに言いたいことがある」
 と、隊員達が口々に言い出した。
「皆、待って! 後で聞く! 作戦について、まだ言っておくことがあるんだから!」
 イコマは決めた。
 フライングアイとして、アヤと行動するか、チョットマと行動するか、レイチェルを探すニニと行動するかを決めかねていたのだが。
「チョットマ、僕も一緒に行くよ。シルバック、それでどうだい。一応、記憶力だけはいい方なんでね」

 ところがチョットマが反発した。
「ダメ! パパはアヤと一緒じゃなきゃ! でないと、作戦の全体像が掴めないでしょ」
「掴めなくていいよ」
「ダメ! ンドペキに助言してくれなきゃ!」
「いいや、もう決めたよ。ブラインドエリアに入る君達全員が、無事に帰って来れるように。それこそ僕の役割だねって」
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