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サントノーレ 作者:奈備 光

5章

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45 ひとりの思考

 イコマは自分の部屋でひとり考えていた。
 多くの謎が謎のまま、とうとうアンドロとの戦闘に突入していくことになった。
 解けた謎はといえば、レイチェルのシェルタへ至る符号の意味がわかったことのみ。
 セオジュンの行方も知れなければ、アンジェリナの行方も知れない。
 ハワードが消えた謎に至っては、手がかりさえもない。
 もうひとつ。アンドロ軍の不可解な動きの謎。
 政府建物への侵攻の前に掴んでおきたいことだったが、SP達からの報告は常に「建物内に兵の姿がない」というのみ。


 イコマは、少なくともセオジュンの行方だけは知りたいと考えるようになっていた。
 アンドロ軍については、攻めていきさえすれば、おのずと知れるだろう。
 しかし、セオジュンの行方については、こちらが動かなければ真相が向こうからやってくることはない。
 真実に近づき、チョットマを少しでも笑顔にしてやりたかった。

 その手がかりを掴むため、マリーリやニニに聞いてみたいことがあった。
 二人を部屋に呼んでいた。
「私も話があるんです。今からいきましょうか」
 別れ際、ニニはそう言ってくれたが、マリーリは乗り気ではなかった。
 レイチェルに関係したこともあるので、と納得はさせたが、果たして約束の時間に来てくれるだろうか。


 ふと、ンドペキのことを思った。
 微妙な気分だった。
 今はまだシェルタで、最後の作戦会議を開いていることだろう。
 同期した意識が、こんなふうに途切れるのは初めての経験だった。
 ンドペキが睡眠に入ったときに感じる空虚感とはまた違う。
 通信機器がコネクトを探してトライを続けているような、ザワザワとした感触なのだ。


 むっ。
 突如として、ンドペキと同期し、ンドペキの思考が流れ込んできた。
 今まさに話し合われていたこと。
 明日からの作戦の詳細と、準備のためにしておかなければならないこと。
 ンドペキの意識の中に、チョットマにいつ歌を披露してもらおうか、というのがあって、イコマは少しおかしかった。
 と同時に、ンドペキに余裕が感じられてうれしくもあった。

 シェルタにいるンドペキにとって、詰めておくべきことはたくさんある。
 他の隊員は各自の準備のために、エリアREFに戻ってきている者も多い。
 しかし、ンドペキやパキトポーク、コリネルスは作戦開始まで、自由になる時間はないようだった。
 それでもンドペキは、電波の通じるところまで出てきて、わざわざイコマと同期させたのだった。

 その理由は、よくわかる。
 イコマ自身にも、ユウにも、アヤにも、今後の作戦行動の全体像を知っておいて欲しいと思っているからだった。
 そして、居残り部隊となったチョットマを見守るという意味でも、イコマに状況を把握しておいて欲しいと思ったからだった。


 イコマは次に、ライラのことを心に思い浮かべた。
 むろん、レイチェル探しに協力することに、ライラはいい顔をしなかった。
 マリーリに対して良い感情を持っていないという理由もある。
 それ以上に、ライラにとって重要なことは、チョットマの身の安全だったからだ。
 彼女は、チョットマの姿が見える場所にいたいと思っていたのだと思う。
 昔の夫だからって、こんなときに亭主風を吹かすんだから、などと愚痴ったものである。

 ライラは、ブロンバーグと結婚していたことがあるのか……。
 何かそこにヒントが……。
 しかしイコマは、そこからは何も引き出せる事柄はない、と思った。
 ライラの特権の意味が理解できただけのことだ。
 いずれにしろ、ライラは渋々、ヒカリやマリーリ達がエリアREFのどこにでも行けるように、自分に与えられた特権を行使することを約束したのだった。
 それでこの件は終わりだ。
 レイチェルがシェルタの直下のどこかに居るなら見つかるだろうし、居なければそれはそれで終わり。


 ユウとアヤ。
 この二人に作戦のことを、どう伝えればいいだろう。
 声にするのはできるだけ避けたい。
 コンフェッションボックスまでアヤに来てもらえれば、筆談もできるだろうが。
 そういえば、アヤには任務が与えられただろうか。
 コリネルスの部隊、つまりチョットマと同じく居残り部隊とはなったが……。


 扉の外に人の気配があった。
「ねえ、パパ。配置が決まったよ」
 と、チョットマが部屋に駆け込んできた。
「私ね、正門前部隊!」
 イコマは、チョットマを遮って、肩に止まった。
「それ以上、言わなくていいよ」

 チョットマが不安そうに小首をかしげた。
「大体は聞いているからね」
 なぜ知っているのか、チョットマは理解できないだろうが、与えられた任務を容易く人に話すべきではないと思い直したのだろう。
 それ以上話そうとはしなかった。
「じゃ、パパ。また来るね!」
 と、飛び出して行ってしまった。

 心に小波が立った。
 チョットマともっと話していたい。
 しかし、彼女には彼女の任務がある。
 ンドペキ隊の隊員としてだけでなく、とてつもなく大きな役割かもしれないものも。
 イコマは、出て行く前に見せたチョットマの表情が気に掛かった。
 そして、素晴らしい演説だったよと、ひとこと褒めてあげればよかったと後悔した。
 作戦開始までに、もう一度顔を見せておくれ、と祈らずにはおれなかった。
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