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サントノーレ 作者:奈備 光

5章

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44 通路に転がる物資

 イコマは中途半端な気分だった。
 シェルタでは通信が途絶しているため、散漫な思いが浮かぶだけだった。
 まるで、疲れ果てて何も考えられないときのように。
 ンドペキ隊や騎士団の動きを、次々と映し出されるスライドショーのように、漫然と中身を理解することはできた。
 しかし、自分がどう対応すればいいのか、というような判断はできなかったのである。


 フライングアイはアギのもうひとつの思考体とされているが、多くの知識や経験などを動員した思考は、メインブレインに頼っていたからである。
 移動思考体であるフライングアイでは、状況を把握する程度の思考は可能でも、総合的な判断はできなかったのである。

 こんな状況は初めての経験だった。
 イコマ自身では、この場から離れる方が都合がいいという判断さえできなかった。

 ンドペキはすぐに、声に出して、イコマのフライングアイに呼びかけた。
 エリアREFに戻って、待機しておいて欲しいと。
 マリーリと一緒に戻るのがいいと。


 岩の上で、ブロンバーグとンドペキは、ドトーと今後の共闘についての約束を交わした後に、具体的な作戦内容の協議に入っていた。
 騎士団は、アンドロとの戦闘によって若干名が死亡していて、計四十二名。
 数名を除いて、政府建物内への侵攻部隊に編入となった。
 ドトーは、チョットマの宣言、つまりレイチェルの命令に完全に納得しているわけでなく、騎士団兵は自分がすべて率いるといって聞かなかった。
 ンドペキとしては、騎士団を解体するという意味ではなく、政府建物内の道案内人が欲しかったのだが。
 ンドペキ隊及びパキトポーク隊に、少なくとも数人は編入したいと思っていたが、ドトーは頑なだった。

 エリアREF兵は、三百ほどもいるようだが、ほとんどが骨董品並みの装備しか持っておらず、突入部隊には向いていなかった。
 従って、街及びエリアREFの治安維持部隊とされた。
 コリネルス以下、ンドペキ隊八名、騎士団二名にエリアREF兵百七十名を加えた百八十名である。
 彼らの任務は、シェルタから突入する隊への補給路及び退路の確保。
 つまり、後方支援部隊。
 これに加えて、政府建物の正面玄関や、その他の出入り口の確保が任務である。
 さらに、相変わらずエリアREFに彷徨い出てくるアギのパリサイドへの対応も彼らの任務である。

 補給路や退路の確保は言わずもがなであるが、ンドペキ達が政府建物内を侵攻した際に、アンドロ軍が街へ出てくる事態を防ぐことは非常に大切な役割である。
 万一、街の一部でもアンドロの支配下になれば、戦線が拡大するばかりでなく、市民の犠牲も大きくなる。
 政府建物の出入り口では、内部から避難してくる市民は通過させ、アンドロ兵はその場で殲滅することとされた。
 かつ、状況が許せば、残ったREF兵と共に、正面玄関からも政府建物内への侵攻も視野に入れている。

 作戦開始は、八時間後。
 深夜二時、まず街を手中に収めるために、コリネルス隊百五十名が街中に展開する。
 そして速やかに、政府建物の入口を封鎖する。
 三時、シェルタから一斉に政府建物内へ侵攻開始。


 イコマは、レイチェルSPであるマリーリ、そしてニニと共に、シェルタを出た。
 たちまち、いつもどおりのクリアで深い思考が復活した。
 と同時に、ンドペキとの同期が切れた。
「僕は、役立たずだな」
 イコマは、そう言ってマリーリとニニに話しかけた。
 面識はこれまでにもあったが、個人的に話すのは初めてだった。

 マリーリに対して、ンドペキはひとつの依頼をしていた。
 それは、もうひとつの作戦。
 作戦というより、念のため確認しておく作業。
 ブロンバーグに了解を得て、マリーリとヒカリに託されることになったのである。
 もとより、レイチェルの捜索である。

 ただ、この作戦は、伏せられてあった。
 騎士団だけでなく、このことを知っているのは、コリネルス、パキトポーク、そして市長ブロンバーグとライラのみ。
 ンドペキとしては、レイチェルが生きていることなど、極めて懐疑的だったからだ。
 大げさにはしたくない。
 しかも表向き、レイチェルはンドペキ隊に留まっていることになっている。
 ただ騎士団が、レイチェルが生きていると考えている限り、確かめておかなければならない。

 ブロンバーグがどう考えているのか、掴んでいるわけではなかった。
 しかし、捜索の申し入れを断らなかったばかりか、エリアREFの全エリアの通行許可を与えたところをみると、市長としても確かめておきたかったのだろう。
 通行のために、ライラをサポートとして付けてくれたのだった。
 そしてライラは、自分の助手としてニニを指名したのだった。
 一方、マリーリはンドペキの頼みを断りはしなかったが、かといって歓迎しているふうでもなかった。
 表情を変えず、わかった、と頷いただけだった。
 ヒカリはシェルタにいなかったが、彼ならどんな表情を見せただろう。


 通路は狭く、天井も低い。ガラガラした石が積み重なり、もちろん照明もない。
 マリーリを先頭に、イコマ、ニニと続き、エリアREFに向かってゆるやかに登っていく。
 いたるところに食料やら、エネルギーパッドなどの物資が転がっている。
 改めてイコマは、自分が何者かを名乗った。
 マリーリは物静かに微笑み、「お噂は伺っております」と、丁寧すぎる言葉を返してきた。
「さてはハワード、何を噂していたのか」
 と、イコマは冗談めかして、マリーリと話せる雰囲気を作ろうとした。

 マリーリはまた小さく笑っただけだったが、後ろからニニが話しかけてくれた。
「チョットマのパパさんでしょ」
「うん、そう」
 ニニの表情が崩れて、
「お会いしたかったんです!」と、叫ぶように言った。

「僕の方も」
「えっ、本当ですか!」
「チョットマから、いつも君のことを聞いてるからね」
「うわっ!」
「セオジュンとアンジェリナのことを心配してるんだってね」
「はい!」


「チョットマは、僕の娘。君はその友達。もっと、気楽に話しかけてくれるとうれしいんだけど」
「はい!」
「でも、その前に教えてくれるかな」
 皆はどうやってあそこに入ってきたんだい?
 聞きたいことは別にあったが、まずは、話しやすいことから。
 核心から入って、チョットマのように、いきなりひっぱたかれてもつまらない。

 あそことは、レイチェルのシェルタである。
 いよいよ作戦が実行に移される。
 アンドロがその気になれば、アギの思考は筒抜けだ。
 同時に、ンドペキの思考も筒抜けになる。
 万一、作戦中にリアルタイムで敵に傍受されたら、取り返しのつかないことになる。

 ユウによれば、イコマの思考は暗号化されていて、政府の諜報システムには掛からないことになっている。
 ただ、今となっては念には念を入れ、作戦に関わることは口にしないに越したことはない。
 明日から始まる作戦はもとより、騎士団と合流を果たしたことも口外無用。
 エリアREFが潜在的に有していた兵力のことも。
 もちろんレイチェルの生死についても。
 言葉にしない限り、政府のコンピュータが目をつけることはない。



 ニニは頭がいいのだろう。
 過不足なく、そのときの状況を教えてくれた。
 チョットマと話しているとき、ライラが呼びに来て……。
 連れて行かれた先は、足を踏み入れたことのないエリアで、そこには大量の物資が保管されていた。
 非常用の物資で、街の住人全員が半年は暮らしていける量だという。今、それを少しずつ使っているのは、地底深くにいるアギのパリサイド達……。

 チョットマとニニは、物資の移動を手伝うことになった。
 すでに大勢の市民が、活動を始めていた。
 移動先は、驚いたことにレイチェルのシェルタ。
 数週間がかりで掘り進め、やっとシェルタへ到達したのだという。
 最後の岩盤を取り除けば、騎士団とまみえることができるし、必要な物資を渡すこともできる。

 いよいよシェルタに乗り込む、という段になって、ブロンバーグはエリアREFの兵という兵を集めていた。
 兵だけではない。
 エリアREFの主だった人物全員が集められていた。
 むろん、騎士団と協議するため、アンドロ掃討作戦に資するためだ。
 ブロンバーグは慎重に、かつ静かに、最後の岩盤を切り開いた。
 騎士団を驚かせて、攻撃されてはたまらない。


「市長は自分だけで騎士団とまず会って、と思ってたみたいなんだけど、驚いたことに」
 ンドペキ達が捕らえられていたのだという。
「グッドタイミングで現れたけど、偶然だった、ってこと?」
「そうみたいです」
「で、市長があんなふうに、人々をあの中に潜行させた?」
「いえ、自然にああなって」

 それなら、あらかじめ練っておいた作戦の一部だったのだろう。
 イコマは複雑な気持ちがした。
 ブロンバーグは、ンドペキ隊の動きを知っていながら、それを横目に自分達でもシェルタに近づきつつあったということだ。
 それに、パキトポークはどうなる。
「君たちが来る前に、ンドペキの仲間が合流して、彼らも捕まってしまったんだけど」
 ニニは、そのことは知らなかったと言った。

 パキトポークやコリネルスはどこから来たのか。
 それは後で本人から聞けばいいし、重要なことでもないだろう。
 ニニはリラックスしているし、ポンポンと言葉を返してくる。
 感情の起伏が激しいとは聞いているが、今のところは大丈夫なようだ。
 しかし、マリーリは一向に口を開かない。
 先頭を歩いているが、振り返ろうともしない。


 イコマは、マリーリとニニは知り合いなのかどうかと聞いた。
「もちろんよ」
 応えたのはニニ。
「ずっと昔から、同じところで働いているんだから」
 ニニは、自分はずっと長官付きの便利係りだと言ったが、マリーリのことまで応えてしまうほど馬鹿ではない。

 しばらく沈黙のまま歩いたが、やがてマリーリがぽつりと言った。
「そういう話題には慣れていませんので」
 やんわりとたしなめられたようなものだが、イコマは引き下がるつもりはなかった。
 聞きたいことは、たくさんある。
 ただ、それは今ではない、ということだった。
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