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サントノーレ 作者:奈備 光

4章

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43 ジャイロセンサー

 ンドペキは奇異な感じがした。
 ロクモンが部下に殺されても、ドトーには反応がない。
 撃たれたときも驚く様子はなかったし、今、白煙を上げている死体も、そこにないかのように目を向けようとしない。
 しかも、レイチェルが生きている?

 この男、何かを知っているのか。
 あるいは精神がおかしいのか。
 あるいは、何かの仕掛けなのか。
 作戦の一部なのか……。


 ドトーが、
「これを見せよう」
 と、足元に置いたボックスを開けた。
「閣下は、この真下におられる。これが見えるか」
 ンドペキは近寄って、箱を覗き込んだ。

 中には、マットな輝きを持つ小箱が固定されていた。
 その上面中央に、緑色の強い光。
「今、丁度、この真下に」
 上部ならオレンジの光。
 位置がずれているなら、方向を示し、距離に比例したラインが引かれるという。
 レイチェルのジャイロセンサー。
「従って、我らはこの場所から移動することはない。レイチェル閣下が、ここにおられる限り」

 やはり、こいつはいかれている!
 こんな子供騙しの箱!
 ンドペキは怒りのままに、箱を叩き潰したい衝動に駆られた。
 その代わり、
「ではなぜ、レイチェルを助けに行かない!」と、叫んでいた。
「閣下とお呼びしろ!」
「レイチェルはレイチェルだ!」
「それは騎士団への侮辱にもあたるぞ!」
 子供の喧嘩のような、売り言葉に買い言葉。


 ふとンドペキは我に返ったが、それは相手も同じだったようで、ドトーは、
「なぜ助けに行かないか。レイチェル閣下が危険な状態ではなく、ご指示もないからだ」
 と、再び座り込んだ。
「この地下深くに滞在しておられるのだろう。我らはここで閣下を見守り、お待ちしているのだ」
「本気なのか」
「でなければ、ここにこれほど長く留まる理由はない」

 埒があかない。
「ドトー、あんた……」
 ンドペキは言葉に詰まった。
 健気に生きてきたレイチェル。
 その声、その笑顔。
 心に浮かんだものを押し潰し、ンドペキは頭を廻らせた。
 こいつと共闘するには……。
 しかし、この男に何をして欲しいのか、ということさえわからなくなりかけていた。


 そのときだった。
「ドトー! 何をしている!」
 声が響く。
 女の声。
 また一人、フードを取った者。
 なっ!

「私はニューキーツ東部方面攻撃隊、ンドペキの配下!」
 チョットマ!
「ならびに、ニューキーツ長官、レイチェルのクローン、チョットマである!」
 そして、瞬時に巨岩の上、ブロンバーグに並んで立つと、
「レイチェルの命を、騎士団に伝える!」
 と宣言した。
 そして、ヘッダーを取り、緑色の髪をなびかせた。


 ドトー!
 貴様、ここで何をしている!
 防衛軍が消滅に至った今、街を救うのは、貴様たち、騎士団の務め!
 防衛に多大な貢献のあった、しかも今まだ奮闘を続けているンドペキ率いる東部方面攻撃隊、ならびに同隊に合流したロクモン将軍の隊!
 これらを政府建物に導き、そして援護すること!
 これが貴様達がするべきことではないか!
 今ここに揃っている者達を見よ!
 サントノーレに隠れていた兵が、ないし経験のある者達が銃を手にし、決起しているのだ!
 貴様、これを何と見る!
 のうのうと、このシェルタに篭っていることだけが、騎士団の任務ではあるまい!
 ドトー! 見損なったぞ!
 私の姿がないのをいいことに、己が為すべきことに目を瞑り、暗闇でただただパンを食んでいるとは!
 今すぐ、行動にでよ!
 そして、私やブロンバーグに、そして市民に、ニューキーツを解放せよ!

 チョットマは仁王立ちし、声高らかにドトーに迫った。
 ドトーは既に地面にひれ伏し、顔も上げずにチョットマの口から発せられるレイチェルの命令を聞いていた。
「ドトー! 貴様は、先の団長トレッタから騎士団を引き継いで以来、なにをした!」
 ドトーがますます頭を垂れた。
「やすやすとアンドロに侵攻を許したばかりか、逆襲のチャンスを伺う策を持っているふうでもない!」
 チョットマは間を置き、騎士団を眺め回すと、
「よいか! これが貴様にとって、最後のチャンス! そう心得よ!」
 と、締め括った。


 チョットマは再びフードを頭から被り、巨岩の上から消えた。
 影の軍団に紛れていったのだろう。
 チョットマの宣言が、シェルタに集う者たちの頭に染みこんでいった。
 それが長官レイチェルの命令……。

 身動きする者はいない。
 やがてひとつふたつと、ンドペキ達に向けられた銃口が下がっていった。
 パキトポークが立ち上がった。
 そして、取り上げられていた自分の武器を身に付けた。

 影の軍団は、包囲の輪を縮めていた。
 宣言の間にも、数は増えていたようで、岩陰という岩陰、岩棚の上は人で溢れかえっていた。
 しかし、物音ひとつしない。
 事の成り行きを、固唾を呑んで見守っていたのだった。

 ブロンバーグが依然として巨岩の上で待っている。
 ドトーがようやく顔を上げた。
 レイチェルのジャイロセンサーには、緑色のラインが引かれていた。

 ンドペキは、ドトーを促し、巨岩の上に立つブロンバーグの元へ向かった。
 チョットマめ。
 たいした芝居を打ちやがる、と笑みを噛み殺しながら。
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