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サントノーレ 作者:奈備 光

4章

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41 まるで人質

「おまえか! ドトーってのは!」
「いつまで、こんなところで閉じ篭ってんだ!」
 ンドペキはそれなりの挨拶をしようと思っていたが、マルコとミルコに先を越されてしまった。
 レイチェル騎士団の団長に向かって投げつける言葉ではないが、ンドペキはそれも一理ある、と二人のやりたいようにさせていた。
「街はアンドロに支配されてしまってんだぞ!」
「どうするつもりだ!」

 ンドペキも、腸が煮えくり返っていたのである。
 シェルタの扉を破壊したはいいが、たちまち騎士団に捕捉されてしまったのである。
 武器は取り上げられ、シェルタの中心部まで引き立てられてきたのである。
 後ろ手に縛られることはさすがになかったが、まるで囚人、あるいは捕虜の扱いである。
 身分と事情をいくら説明しようとも、騎士団は聞く耳を持たない。
 地面に座らされ、長い間待たされて、ようやく姿を見せたのが、きらびやかな装甲を纏ったドトーだった。
 鷹揚な態度で立派な椅子に座ったドトーは、口を開かず、言いたいことを言えというように顎をしゃくったのだった。

 騎士団兵に銃を突きつけられていたが、マルコもミルコも意に介さない。
「なんとか言え!」
 ドトーは、予想とは違って、かなり太った男だった。
 騎士団の団長といえば、精悍な男を想像するが、ドトーは装甲の上から見ても明らかに肥満体質である。
「団長だろうが!」

 シェルタは、自然の洞窟で、かなり細長く、起伏がある。
 いくつもの巨岩が転がり、積み重なり、見通しが悪い。
 ガレ場である。
 この更に奥がどうなっているのかわからないが、徐々に上り坂になっている。
 きっと、その先端部がレイチェル居住区の真下付近に当たるのだろう。
 小さな川が流れているのか、水音が聞こえていた。

 十分な電力が供給されているようで、煌々と明かりが灯っていた。
 しかし、どんな仕組みが施されているのか、ゴーグルのモニタは機能しなくなっていた。
 シェルタに入る前から、通信もできない。
 政府のあらゆる監視網から隔絶された空間だった。


 ようやくドトーが口を開いた。
「東部方面攻撃隊かあ? 隊長ハクシュウ、ん……、ンドペキだったかな」
 か細く粘りつくような声で、相手の出方を伺う、そんな言葉だった。
「おまえ、何度言ったらわかるんだ! 我々はンドペキ率いる東部方面攻撃隊だ!」
 マルコの堪忍袋の緒が切れかけていた。
 ンドペキは事態打開の糸口を必死で考えていたが、妙案は浮かばない。

 甘かった。
 ンドペキは痛感した。
 レイチェル騎士団と合流しさえすれば、タールツーを葬り、街を再び元の姿に戻せる、と考えていたのだが……。
 こんな体たらくな連中だったとは。
 レイチェルが、騎士団のことを話さなかった理由がわかったような気がした。


 ンドペキは、ドトーの前で初めて口を開いた。
「ドトー殿。部下の無礼をお許し願いたい。我々がここに来た理由をお話ししたい」
 まともな会談ができる相手なのかどうかわからないが、まずは話し合う雰囲気を作らねばならない。
 銃口は向けられたままだが、このままマルコとミルコが食って掛かっていても、事態が好転するはずもない。

 ンドペキは状況と希望を説明した。
 言いたいことはただひとつ。
 共闘を組み、タールツーを殺害すること。ないしは政府建物から、追い出すこと。
 しかし、弱みもあった。
 その後をどうするかだ。これに案がない。
 すでにレイチェルはいない。
 ただそれは、一攻撃隊が決めることでもなかった。

「いかがでしょう」
 ンドペキはドトーを促したが、反応は鈍い。
「まあねえ」
 たかが攻撃隊の、しかも正式に任命されたわけでもない隊長の誘いである。
 ドトーは呻吟しているのか、まともに聞いていなかったのか、返事をする気も無いように見えた。

 表情が見えない。
 ドトーはふんぞり返って椅子に座っているだけで、何を考えているのか、窺い知ることもできない。
 時々身じろぎするだけで、こちらを直視しているのかどうかさえ怪しい。
 相変わらず、騎士団の兵数人が取り囲み、銃口を向けている。
「我々は、攻撃隊と、ロクモン殿の部隊を合わせて、百名以上の戦力を持っています」
 武力をひけらかすわけではないが、それなりの理由にはなるだろう。

「それは、我々に対する恫喝かな」
 と、ドトーが首をかしげた。
 やれるものならやってみろ、とでもいうように。
「いいえ、そういう意味ではなく」
 だめだ、これは。
 心が折れそうになった。
「騎士団を合わせると、二百名には届かないまでも、アンドロ軍を一掃するに十分な戦力になると思います」
 そんな分かりきったことまで言わなくてはいけないのか。


 と、そのとき。
 それまでピクリとも動かなかった騎士団にざわめきが起きた。
 ドトーの目が、ンドペキ達の背後に動いた。
 それまで傍観的態度を取っていた騎士団兵が全員、銃を構えた。
 何かが、シェルタに侵入してきたのだ、とンドペキは思った。

「遅くなった!」
 声の主はパキトポークだった。
 声には喜びが溢れていた。
 振り返ると、パキトポークの巨体を先頭に、ンドペキ隊の連中が駆け込んでくるところだった。
 コリネルスやロクモンもいる。総勢約十名。

「やっ!」
 パキトポークが立ち止まった。
「なんだ?」
 たちまち、パキトポーク達は騎士団に取り囲まれてしまう。
「おい! どういうことだ!」

「武器を放棄しろ!」
 騎士団から声が飛んだ。
「なんだと!」
「やる気か!」
「俺たちは、ニューキーツ攻撃隊の」

 しかし、ンドペキの様子を見たコリネルスが、状況を察したのだろう。
「ンドペキ」
「見ての通りさ」
 話のわかる相手じゃない、ってことだ。
「うむう」
 ンドペキ達を人質に取られて、パキトポークも観念したのか、武器を放り出した。
「くそ!」
「なんだってこんな!」
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