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サントノーレ 作者:奈備 光

4章

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40 アンドロは長生き

 チョットマはニニの話を聞いていた。
「オーエンってアギに話を聞きたくて、どうしたら会えるか、知ってる人はいないかなって」
「エーエージーエスに行けば会えるけど、ニニひとりじゃ無理かな」
「うん。だから、アクセスIDがわかれば、もしかするとコンフェッションボックスから会えるかもしれないし」
「まさか」
 オーエンが、パパと呼ばれてマトやメルキトの相手をしているとは思えない。
「そういう相手じゃないよ」

 そんな応答をしながら、心は、先ほどまで部屋にいた市長ブロンバーグが話したことが占めていた。
 市長は、心の準備をしておいてくれというばかりで、肝心の、何をどうすればいいのかという点については、言葉を濁してばかりいた。
 まだ言えないのだという。
 それが、カイロスの刃やカイロスの珠に関係したことであるのは間違いないだろう。
 しかし、なんらかの儀式を行うのだろうという程度しか知識のないチョットマにとっては、すこぶる尻の据わりの悪い話で、苛立ちだけが募ったのだった。


「そうか。オーエンに話は聞けないか。どうせ、私、コンフェッションボックスなんて、入ったこともないし」
「その代わり、ライラに聞いたら?」
「ううん。もともとオーエンってアギのことは、ライラから聞いたのよ」
「なんだ」
「ゲントウっていう科学者のことや、ライラのご主人、ホトキンのことも聞いたよ」

 市長が口にした、もうすぐカイロスの刃がこの街に戻ってくるという言葉。
 その後に詳しく話そうという意味だと、チョットマは理解した。
 エリアREFの噂の噂を繋ぎ合わせて、自分なりに考えていることがある。
 緑色の髪を持つ自分が、地球を救うための儀式に、何らかの役割の担うのだろうということ。
 あるいは、自分自身が中心となって執り行うのかもしれないということ。

 噂を耳にしてから、自分にそんなことができるものか、という思いと、なぜ私が、という思いが重くのしかかり、心が押し潰されそうになったりもしていた。
 逃げ出したい。いや、そんなことはない。できるかもしれない。なるようになる。
 そんな気持ちが揺れていた。
 しかし、とうとうそんな毎日に終止符が打たれる。
 いよいよ、そのときが迫ってきているのだ。


「ねえ、チョットマ。そもそもアンジェリナって、誰だろう。なんてこと考えたことない?」
「……ないなあ」
 それを言うなら、セオジュンだって。

 そう。
 セオジュンを探す。
 これは、緑色の髪を持つ自分の使命を考えてしまうことから逃れるため、だったのかもしれない。
 ううん。違う。
 友達がいなくなったら、誰だって、どこに行ったのか気になるじゃない。
 チョットマは、自分の思考が揺れ動くたびに、心の中を覗いてみようとしていた。
 しかし、そのこと自体、自分の心の弱さの証ではないか、とも思うのだった。


「アンジェリナって、アンドロってことになってる」
「うん」
「でもさ」
 ニニの口ぶりに、逡巡があった。
 チョットマの受け答えも、ニニには悪いが中途半端である。
 それが反映しているのかもしれない。

「ちょっと、普通のアンドロじゃないみたい、なんだな」
 ニニは、慎重に言葉を選んでいるようで、ポツリポツリと話す。
「それを言うなら、セオジュンがメルキト、というのも怪しいものね」
 チョットマは、そう返した。
 セオジュンを話題にして欲しい、という気持ちが動いたのだ。

 しかし、ニニはそこを避けていく。
 セオジュンに想いを寄せ、任務としてアンジェリアを見守る。
 そんなニニとしては、今はセオジュンへの想いは封印しておきたい、ということなのかもしれない。
「私も、普通のアンドロかっていうと、そうじゃないけど」
 アンジェリナの話題から動こうとはしない。
「どう違うの?」
「私は……」

 ふとチョットマは、パパとコンフェッションボックスで色々な話を楽しんでいた頃のことを思った。
 タールツーが暫定長官になってからも、街にはコンフェッションボックスがあり、人々がパパやママと会話をしていることを知ったからだ。
 無性にパパに会いたくなった。
 パパッ、と部屋に入って行き、お気に入りのあのベルベットのスツールに座りたくなった。
 それが無理なら、フライングアイでもいい。
 そういや、アヤとも最近会ってないな、とも思った。

 ニニは、自分がどう普通でないかを話している。
 何世代にもわたって、ニューキーツの歴代長官の付き人をしている。
 それって珍しいでしょ。
 それに、最近はエリアREFに住んでる。
 めったにいないよ、こんなアンドロ。


 チョットマは少し興味が沸いたことがあった。
「何世代にも渡って? そんなに長生き?」
 ニニは驚いた顔をしたが、あっさり教えてくれた。
「別に秘密じゃないから、教えてあげる」
「勿体つけないでよ」
「アンドロはもうほとんど製造されていないんだよ。私達もあなた達と同じように再生され続けて、存在しているの」

 製造されているのは、もっと単純思考のアンドロのみ。
 ニニやハワードのように高度な知能を持ったアンドロではない。
 アンドロ次元でのみ活動しているロボット。アンドロによって製造されているのだという。
「でも、アンドロの再生は、マトやメルキトの再生と少し違うんだな」
「どう違うの?」
 チョットマはそう聞きながら、自分には理解できないかもしれないと思った。
 なにしろ、自分はクローンだし、再生経験もない。

「ちょっとだけ自由なの」
 再生のタイミングは自分で決めることができる。
 つまり、生き直せるのだ。
 しかし、所詮はロボット。必ずしも、希望通りの仕事に就けるとは限らない。
「仕事場も、自分では決められない。原則は、それまで働いていた街」
「そうなんだ。知らなかった」

「でも、一番違うのは、時期かな」
 これはもしかすると秘密かもしれない、とニニは笑った。
「実は、時間を遡れるの。大体、アンドロ次元と今いるこの次元は、時間のスピードがかなり違うでしょ」
「えっ、そうなの」
 チョットマの反応に、ニニの方が驚いた。
「当たり前じゃない。次元が違うってことは、時間の流れも、空間の構成も、つまり時空ってことよ、二つとして同じものはないんだから」
「ええっ、そうなの!」


 そのとき、扉が開いた。
「おっ、面白そうなこと、話してるね!」
 ライラだった。
「チョットマ。ついてきな!」
 笑みを堪えているようだ。
 強引に腕を取ろうとして、白い歯がこぼれた。

 チョットマは立ち上がったが、ニニを放っておくことになる。
 せっかく、ゆっくり話してくれそうな様子なのに。
 と、ニニも立ち上がった。
「私も一緒に行っていいですか」


 そのころ、イコマは覚醒していた。
 今回の電源落ちは、約三十分少々。
 突如、ンドペキの意識が流れ込んできた。
 と、感じたのも束の間、電源が落ちていた間にンドペキが見聞きしたことが、自分のものとなった。

 荒涼とした丘陵地帯。
 稜線上に、数人の男女とパリサイド。
 老人がカイロスについて物語っている。
 遠くに、煙が上がっていた。


「どこ行くの?」
 チョットマの質問に、答えようとはせず、ライラは足早に前を行く。
「ここじゃ、話せないよ。あんたにも働いてもらうからね!」
 まさか、いよいよ儀式?
 チョットマは嫌な予感がしたが、ライラの足取りはどことなく、うきうきしている。
 ニニと顔を見合わせたが、ニニも肩をすくめただけだった。


 それからしばらくして。
 アヤはンドペキ隊の作戦室で、歓声に包まれていた。
「そうか! いよいよだ!」
 パキトポークが咆えている。
 いつもはあまり表情を変えないコリネルスも満面の笑みだ。
 仏頂面をしていることの多いロクモンでさえ、顔面をバシリと叩いて、喜びを表している。

 アヤは街のコンフェッションボックスから飛び出して、急いでエリアREFに戻ったのだった。
 もちろん、イコマから得た情報を持って。
「よかった。あんたがいてくれて。俺達じゃ面が割れてて、街に繰り出せないからな」
 と、スミソが握手を求めてきた。
「それに、この人は職業柄、コンフェッションボックスの扱いに慣れているから、安全だしね」
 アヤが元は治安省の職員で、コンフェッションボックスで交わされる会話から、市民の不穏な動きを監視していたことを言っているのだった。

「じゃ、また行って来ます」
 アヤは作戦室を出て、再び街に出た。
 その後のことをイコマに聞かねばならない。
 今日は何度かコンフェッションボックスに出入りすることになるが、コンピュータが問題視することはないだろう。
 それに、もうそんなことを気にしている場合ではない。


 ンドペキ達が降り立った場所は、予想通り、真っ暗な空間だった。
 孤児ゲンロクの太刀に近づくや否や、足元が崩れ、全員揃ってストンと狭い通路に落ちたのだった。
「こっちだな」
 通路は行き止まり。
 向かう方向はひとつ。

 もう迷うことはない。
 フライングアイが先頭を行く。
「あれだ!」
 突き当たりに、頑丈そうな金属製の扉が立ち塞がっていた。

「強行突破!」
 もちろん、外から開くような柔なものではない。
「俺がやる!」
 と、ンドペキは銃を構えた。
「扉の向こうに人がいませんように!」
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