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サントノーレ 作者:奈備 光

4章

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39 孤児に喰らわれに

 兄弟のどちらかが死ねば、同時に片方も死ぬ。
 再生時には、心と体が入れ替わった状態で生まれ変わる。
 今、俺が持っているのは、クシの体。
 俺達兄弟、クシと俺は、入れ替わりながらマトとして生きてきた。
 再生の度に入れ替われば、私情が入り込む恐れを減らすことができる。

 カイロスが正しく使われるように。
 不穏な人物は、どちらかが抹殺する。
 それが誰であろうと。
 チョットマを襲ったクシ。
 やつにとって、チョットマは抹殺するべき相手だったのだろう。
 俺達は相手の行動に、口を挟むことはしない。
 それが、二人でこの使命を完璧に遂行する最良の方法だったから。

 クシが死んだ。
 ブロンバーグの手によって。
 チョットマを守るため。
 しかし、俺は生きている。
 呪縛が解かれたのだ。


 それはとりもなおさず、ハクシュウとクシ兄弟の役目が終わったということだった。
「スジー、俺は今、妙な気分だよ」
 カイロスの刃を持ち帰ったスジーウォンに、ハクシュウが話しかけている。
「いや、その前に謝らなくてはいけないな。黙っていて、すまなかった。この顔じゃ、俺の小さいときの顔だと言っても通用しないし、兄弟の秘密をまだ話せないと思ったんだ」

 スジーウォンは、黙ってハクシュウの話を聞いていた。
 ンドペキはその傍らにいる。
 ハクシュウは既に、すぐ横にンドペキやスゥ、マルコやミルコがいることを知っている。
「俺は、おまえと一緒に、ニューキーツに戻る。そして皆に、今話したことを伝えたい。そして」
「リーダー、まあゆっくり考えて。どうするかなんて、今、考えなくてもいいさ」
 スジーウォンが元気な声を出した。
「私は、あんたが戻ってきてくれるだけで、それでいい。きっとンドペキも、そう言うよ」

「ありがとう。なぜ、俺とクシがこういう生き方をしてきたのか、知らなくていいんだな」
「聞きたくないよ。話したかったら、聞いてやってもいいけどさ」
 ンドペキも、そう思った。
 個人の過去。
 しかも、きっと辛い、苦しい決断をしたはず。
 色々な思いが今、ハクシュウから噴出そうとしている。
 噴き出てくるなら、それはすべて受け止めよう。
 しかし、こちらから聞き出すことではない。

「私はさ、あんたのことを、リーダーだと思ってる。もちろんンドペキもそうだけどね。それでいいじゃないか」
 スジーウォンが、少年に抱きついた。
「へへ! 子供だと、抱きつきやすいね」
「なっ、抱きつきたかったのか」
「おっと、失言」
「ふふん」
 そうやってスジーウォンは、健気にハクシュウを和ませようとしていた。


「ところで、これからどうやってニューキーツに帰る?」
「走るしかないな」
 聞いていたパリサイドの指揮官が、提案した。
「明日まで待てば、サブリナが帰ってきます。飛空艇は、まだ何度か往復しなくてはならないでしょう」

「そいつはいいぞ!」
「うん。またあの飛空艇乗りにも会いたかったんだ。サブリナにも礼を言わなくちゃいけないし」
 パリサイドが、長老に向き直った。
「いかがされます。同乗していただくこともできますが」
 老人は、悲しそうに首を振った。
「お気持ちはうれしいが、村の者が、大勢怪我をしている」


 上空の何百というパリサイドは、既に引き上げていた。
 空は快晴。
 丸太の残り火が、白い煙を立ち昇らせていた。
「さて、帰りますかな」
 長老が立ち上がった。
「ハクシュウ、スジーウォン殿。積もる話もあるようじゃから、邪魔はせぬ。ただ、これだけはブロンバーグに伝えてくれ」
 カイロスを起動するタイミングを間違うでないぞ。
 必ず数日前には全世界に向かって、避難を促すのじゃ。
「クシを葬ったということは、ブロンバーグもまだ耄碌はしておらんということじゃろう。われらはこの地で、結末を見届けようぞ」

 スジーウォン達が、それぞれパリサイドに抱えられて、コロニーに戻っていく。
「ンドペキ、来てくれてありがとう。心強かった。後は、レイチェル騎士団だね」
 スジーウォンから来た通信は、それだけだったが、ンドペキはスジーウォンの心が温かくなっているのを感じることができた。
 最強の戦士であり、たおやかな心を持った女性。
 彼女のそんな面が見えたような気もした。

「行ってくる」
 ンドペキはそう返して、パリサイドが帰還していくのを見送った。
 相手から見えてはいないのに、マルコとミルコが手を振っているのがおかしかった。


「行くぞ。準備はいいか!」
 ンドペキは号令をかけた。
 ここはエリアREF。秘密の部屋の中。
 かつて、カイロスの刃が保管されていた場所。
 この部屋から抜け出す方法は、ただひとつ。

「長老は気づいてたのかもしれないな」
 出現した場所に戻り、頭上に浮かんでいる見えないバーを引き下げればいい。
 そうすれば、万華鏡の世界に戻れる。
 長老は、ブロンバーグに話しかける振りをして、言葉巧みにこの方法を話の中に織り交ぜてくれたのだった。

 しかし、もうそんな出口には意味がない。
「ゲンロクの太刀の元へ!」
 ヘスティアーに保護されし孤児に喰らわれるために。


「そう来なくちゃ!」
 マルコとミルコがすっ飛んでいく。
 くすぶり続ける丸太の山の中に、太刀は立っているはず。

「ハクシュウの仇も取ってやろうぜ!」
「どうやって!」
「知るか。気持ちだよ! 気持ち!」
 出現した位置を通り過ぎたが、誰も気にも留めない。
 全速力で稜線を駆け上がっていく。
「妙なことをするなよ! ゲンロクの機嫌を損ねるな!」
「フン! どうせ見えてやしないさ!」

 太刀が見えてきた。
「どうすりゃいいんだ!」
「さあな! 行きゃ、わかるさ!」
「おい、騎士団の団長、なんて名だ?」
「ドトー」
「そうか、ドトーか。よし! 俺が最初に挨拶するぞ!」
「やかましい! ンドペキに任せろ!」
「俺達の隊長、口下手だからな!」
「なんだと!」
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