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サントノーレ 作者:奈備 光

1章

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3 ぎごちなかった出会い

 彼と知り合ったのは、ほんの一週間ほど前、ここライラの部屋。
 ライラの帰宅をひとりで待っているとき、セオジュンが顔を覗かせたのだった。
 二言三言、言葉を交わしただけで、チョットマはセオジュンが好きになった。
 今まで知り合ったこともない相手だった。

 なにしろ少年である。
 これまで、少年や少女という年齢層を見たこともなかったのである。
 素顔が眩しい。そんな言葉がピッタリだった。
 天真爛漫で物怖じすることのないチョットマが、どう話しかければいいのか、戸惑ったほどだった。

「へえ、セオジュンというの?」
「へえって、そんなに珍しい名前かな」
「私は、チョットマ」
「お姉さんの方がよほど変わった名前だね」
 チョットマにとってはぎごちなく、セオジュンにとっては小生意気な挨拶が始まりだった。

 へえ、そうなの。
 チョットマはこんな言葉ばかりを繰り返していたように思う。
 セオジュンの話は新鮮だったし、知らないことばかりだった。
 かといってセオジュンは、少年らしい鼻高々、という態度ではなかった。
 チョットマの数少ない武勇伝に目を輝かし、この街の状況に静かに聞き入っていた。

 かと思えば、こんなことを言う。
「僕が将来、約束を破るようなことになったら、どう思う?」
「約束? そんなものしてないじゃない」
「例えばの話さ」
「そうねえ。約束より大切なことがあるのなら、仕方ないんじゃない」
「赦す?」
「うん」
 チョットマは子供らしい例え話だと思った。


 ライラが溜息をついた。
「ねえ、チョットマ。セオジュンは大丈夫だって。あの子はしっかりしているから」
 チョットマは食って掛かった。
「もちろん! でも、どうして大丈夫って言えるの!」
 実際のところ、チョットマ自身、パニックになっていたわけではない。
 ライラの言うように、セオジュンは聡明で落ち着いていて、意味もなく飛び出していくような子供ではない。
 危険の有無も、それを避ける見識も備えていると思う。もしかするとチョットマ以上に。
 ただ、言葉にはしにくかったが、クシという名がチョットマの心にのしかかっていた。

 それに、噂も耳に入っている。
 セオジュンの同級生のひとり、シーラン。
 そして、彼らを取り巻く若い女性達。アンジェリナとニニ。
 チョットマはその誰も知らなかったが、彼ら彼女らが、人を恋することが希薄になったこの世界でも噂になるほど、溌剌とした若者らしさを発散させていた。
 そこにセオジュン失踪のヒントがあるのかもしれない、とも思っていたのだった。

「ねえ、ライラ、どう考えているの? よかったら教えてくれない?」
 ライラは、カットしたチーズを温め、色々な野菜を鍋に放り込んでいる。夕飯をご馳走してくれようとしているのだ。
 チョットマはライラの厚意に甘えようと思っていた。
 隊員はカロリーチップを口に放り込む食事を摂っている。自分だけこんなに素敵な夕飯を、しかも人と一緒に楽しむのは申し訳なかったが。
「ライラが行けないところでも、私、探しに行ってくるから」

 ライラが、ふっと厳しい顔つきになった。
「チョットマ」
「はい」
「自分ができる最善のことをしたかい?」
「えっ」
 そういわれて、チョットマは考え込んだ。
 最善のこと……。

 たちまちライラは微笑を戻し、
「お前はいつまでもチョットマだねえ。ちょっとだけ魔物」
「ライラ……」
「いっそのこと、どでかい魔物なら良かったのにねえ」
「どういう意味……」

 ライラがなにを言おうとしているのか分からなかったが、なんとなく悲しい気持ちがした。
「なにか、私にできること……」
「そうさ。それを考え抜くこと」
「うん……」

「あたしゃね、セオジュンがどうなったのか、それはそれは調べたよ。でも分からない。考えたよ。でも分からない」
「……」
「きっと、どこかで自分の道を進んでいるんだよ」
「うん……」
 チョットマは、これ以上、ライラにセオジュンのことを聞くべきではないのだと思った。
 いわば育ての親であるライラが、心配していない、気にすることじゃない、と言っているのだ。
 本当は寂しいはずなのに。
 悲しいはずなのに。
 たとえセオジュンが自分の進むべきを見つけて出て行ったとしても。
 たかが数日前に知り合った自分が、とやかく言って、ライラの心を掻き乱す権利はどこにもないのだと……。

「さあ、夕飯ができたよ!」
 ライラの快活な声に、チョットマは滲んだ涙を吹き飛ばすように、「うん!」と応えた。

 そのときだった。
「アンドロ軍、GPTを急襲! 戦闘配置につけ!」
「あっ、ライラ、ごめん!」
「行っておいで」
「うん」
「敵は小部隊! 接近中!」
 チョットマはライラの部屋を飛び出した。
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