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サントノーレ 作者:奈備 光

4章

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38 兄弟の秘密

 カイラルーシ軍の偵察機が飛来したが、煙の元がパリサイドが投下している丸太だとわかると、あっさり引き上げていった。
「どんな報告を市民にするのか、楽しみじゃな」
 長老が笑った。
 パリサイドの指揮官が肩をすくめて、口を開いた。
「もうひとつ、お聞きしてよろしいですか。ラーに焼かれし茫茫なる粒砂、時として笑う、というのはどういう意味ですか」
「お知りになりたいですかな。
 長老は、ふっと笑ったが、話すことにしたようだ。
「お知りになっても、あなた方には関係のないことですが、少しだけお話しするとしましょうか。サントノーレの街の構造をご存じなければ、かなり長い説明になりますのでな」

 また老婆が目を剥いた。
 長老が諭すように、老婆に頷いてみせた。
「もう、カイロス収縮派も展開派もないぞ。カイロスを動かすときが来たんじゃから」
 老婆がスジーウォンを睨む。
 この女兵士に聞かせてもよいのか、というように。
「それに、こうしてサントノーレから刃を受け取りに、使者が来たのじゃ。本当は我らが持参し、ブロンバーグと共にカイロスを動かしたいところだが、それが叶わぬとあれば、このご使者にすべてを話し、託すのがよいのじゃ」
「正式な使者かどうか、どうしてわかるんだい」
 老婆が食って掛かった。

「正式な使者なら、正式な書簡を持っている、とでも言うのかい。そんな紙切れより、わしはこの人を信じるぞ」
 老婆は不満そうな顔を見せていたが、納得はしたのだろう。
「ブロンバーグからは、ハクシュウが来るという連絡があった。しかしその後、スジーウォンとスミソという兵士が来るという連絡もあった。この人が自分がスジーウォンだというのなら、わしはそれを信じる」
 長老の言葉に、老婆はもう何も言わなかった。


 ラーに焼かれし。
 ラーとは、太陽のことじゃ。
 今まさに、大地はラーに焼きつくされようとしておる。
 茫々なる砂粒。
 砂漠という意味ではない。広場の砂と考えておけばよい。
 時として笑う。
 その砂が笑ったと感じたときが、そのとき、という意味じゃ。
 その場にいれば、おのずと分かることじゃ。

 丸太は盛大に燃え盛っていた。
 長老の話に耳を傾けながら、誰もがその火を、その火の中にある太刀を注視していた。
 実際には、太刀は炎で見えないが、何らかの動きを見逃すまいとしていた。
 長老は、ゲンロクを信じていると言ったように、炎を見続けるということはなかった。
 むしろ、スジーウォンやパリサイドの顔を見ていた。そして、少年を。


「まだ、時間があるようじゃの」
 と、少年に向き直った。
 瞳には、また怒りと哀れみが滲み出していた。
「ハクシュウよ」

 なっ。
 ンドペキは思わず声に出していた。
 スジーウォンの体がびくりとした。
「おまえ達。よくやった」
 少年の体がわなないた。
「長老。それは……」
「ハクシュウよ。もうよいのじゃ。お前達の仕事は終わった」

 ハクシュウよ。
 クシは死んだ。
 これが意味することがわかるか。


 少年はわななき続けている。
「お前達兄弟。課せられた使命は、正しき知識を持たぬものがカイロスを利用することを、武力でもって阻止すること」
 瞳とは裏腹に、長老の声は優しかった。
「なぜ、お前達がその道を選んだのか、あるいは宿命であったのか、わしは知らない。じゃが、お前達がその目的のために、おそろしい取り決めをしていたことは知っておる」

 少年がようやくかすかに頷いた。
「うむ。なぜそのようなことをしているのか。それは、互いに生まれ変わり、それまで接触のあった人との関係を断ち切って、まっさらな心で取り組むためじゃな」
 再び、少年が頷いた。
「誰がその役目、そして策を授け、お前達の生の仕組みを作り出したのか、わしには大方の予想はついておる」
 長老が、炎に包まれた丸太を振り返った。


「ペールグリ」
 少年が長老の名を呼んだ。
 長老は目を戻し、話し続けた。
「しかし、もう終わりじゃ。クシは死んだ。ブロンバーグの手によって。ハクシュウ、おまえの体を持ったクシが」

 少年が長老の下へ歩み寄った。
「ペールグリ。もういい。ここにはスジーウォンがいる。俺の仲間が」
 もう少年の声ではなかった。
 聞き慣れたハクシュウの声だった。
「うむ」
「真実は、俺の口から話したい」
「それもよかろう」

 老婆が口を開いた。
「ハクシュウよ。なぜ、これほどまでに遅くなった」
 長老は、また老婆を制し、
「言うまいぞ。ハクシュウとて、悔しい思いをしているはずじゃ」
 と、優しい目を向け、
「ハクシュウよ。よくやった。もうこれで終わりじゃ」と、再び言葉をかけた。


 丸太は、まだ盛大に燃えていた。
「あれを!」
 パリサイドの声に、ンドペキは我に返った。
「おおっ」

 炎の中に、小さく光るものがあった。
「短剣!」
 まさしく、短剣が炎に煽られるかのように、ひらひらと舞っていた。
「あれがカイロスの刃!」
「パリサイドのどなたか、取って来てはくれまいか」
 長老の言葉にはじかれたように、パリサイドの指揮官が飛び立とうとした。

「待って!」
 スジーウォンが叫んだ。
「私に! 私にやらせて! せめてこれくらいのことはしないと、私、何しに来たのか、わからない!」
 スジーウォンはもう走り出していた。
「ハクシュウよ。彼女を助けないのか?」
 長老の声に、少年は首を横に振った。
「あいつなら、大丈夫。やらせてやりたい」


 猛然と、スジーウォンが突っ走っていく。
 ンドペキは、スジーウォンを凝視した。
 少年が、ハクシュウが言うとおり、彼女ならこれしきの炎の中、やすやすと短剣を掴んで地面に降り立つだろう。
 やがて、「スミソ! やったよ!」という声が、聞こえてきた。
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