挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
サントノーレ 作者:奈備 光

4章

37/118

36 完全無視

「見ろ!」
 ンドペキ達が出現した、まさしくその位置に降り立ったパリサイドは、四人だけ。
 いずれも人を抱えたパリサイド。
 他はいずれも、もう少し上の地点に向かっていく。
 数百というパリサイドが、それぞれ太い丸太をぶら下げていた。
「あっ」
 パリサイドが一定の地点に、その丸太を落とし始めた。
「なんだこりゃ」

 ンドペキのゴーグルが稜線上の声を拾った。
「これくらいの量で足りますか?」
 大人の男の声。
「足りるかどうか、それは分からぬ。生贄を喰らうものが判断すること」
 年老いた女の声。
「婆さん! それじゃ困るよ!」
 これは少年の声だった。

 ンドペキは息を呑んだ。
「スジーウォン!」
 パリサイドに抱えられて降り立った四人の中に、いつも見ていたスジーウォンの装甲。
 紫がかった光沢に、牡丹と竜の浮き彫り。
「スジー!」
 思わず、声を限りに叫んでいた。

「行こう!」
 ンドペキは、稜線に向かって駆け出した。
「スジー!」
 マルコも叫んだ。
「姉さん!」と、ミルコも叫んでいる。
 しかし、スジーウォンは一顧だにしない。
「どうなってんだ!」
「聞こえないのか!」
「スジー姉さん!」


 叫びなら駆け寄っても、振り向きもしない。
 スジーウォンだけでなく、パリサイドも含め誰も。
「止まれ!」
 ンドペキは足を止めた。
 これほど近くに来て、気づかないはずがない。
 もう、三十メートルほどの距離にまで詰めている。

「おかしいぞ」
 罠。
 その言葉が脳裏をよぎった。
「様子を見よう」
 四人は、何が起きてもすぐに攻撃できるよう、戦闘態勢をとった。
「ンドペキ、その手、離しても大丈夫だと思うぜ」
 マルコに言われて、ようやくスゥの手を離した。
「でなくちゃ、武器、使えないぞ」
「だな!」

 相手は地球人類四人と、パリサイド四人。
 スジーウォンらしき者、武装した少年、一般市民であろう老人と老婆。
 ひときわ体格のいいパリサイドと、その部下らしきパリサイド。
 だれも、相変わらず関心を向けてこない。

 ゴーグルを通さなくても、もう声は明瞭に聞こえてくる。
「本当にこの丸太が生贄でいいのか」
 細身のパリサイドが言った。女性の声だ。
「やってみればわかる」
 まさしく、スジーウォンの声だった。
「そうさ! 頼むよ!」
 少年が興奮した声で言った。


 指揮官らしきパリサイドは、落ち着いた声をしていた。
「我々としては、行きがかり上、あなた方の希望に沿うように動きたいと思います。ただ、状況、あるいは目的を、もう少し詳しく話していただけませんか」
 部下の不満が高まっているのだという。
「たとえ、サブリナの言伝だとしても、これほど大規模な儀式、儀式と言っていいんでしょうね、まで執り行うことになるとは、誰も思ってもみませんでしたので」
「そうして欲しいな」
 と、別のパリサイドが指揮官に同調した。

「じゃ、まず僕から話すよ」
 少年が一歩前に出た。
 その間にも、丸太は稜線に次々と落とされている。
 少年の視線に誘われて、居並ぶ八人が一斉にその様子を見た。
「あそこにあるのは、カイロスの刃というもの」
「カイロスの刃とは?」
「今から話すんだから、話の腰を折らないでくれるかな」


 大昔、ゲントウという科学者が、太陽フレアの極大化に伴う地球滅亡を回避するために作った装置カイロス。
 刃は、これを起動させるために必要なもののひとつである。
 もうひとつのキーとなるもの、つまりカイロスの珠と呼ばれるものもある。
 これらは共に、かつてサントノーレという街に保管されていた。
 しかし、カイロス収縮派と呼ばれる人々が、この刃を持ち出し、ロア・サントノーレに安置した。
 カイロスを発動させまいとする一派である。

 今、太陽フレアは有史以来、最大の規模で極大化しつつあり、カイロスを発動させるべき時期が近づいている。
 そのため、あの刃を元あった場所、サントノーレに持ち帰ろうとしている。
「このお姉さんがね」
 と、少年はスジーウォンを振り返った。

「しかし、無造作に安置されているわけではなかった。恐ろしい仕掛けによって守られていたんだ。昨日、見てた通りだよ」
 少年がまた稜線の先を見た。
 丸太は休むことなく、広範囲に積み上げられている。
「サントノーレには、こんな言い伝えがあるんだ」
 ヘスティアーに保護されし孤児、生贄を喰らう。
 ラーに焼かれし茫茫なる粒砂、時として笑う。

「いずれも、いろんな場面で流用されてきたんだ」
 例えば、秘密の部屋があるとする。それを開く暗号として。
「でも、元はといえば、カイロスという装置を起動させるための合言葉みたいなものなんだと思う。もう、知ってる人は多くないけどね」
 と、「あんた、どこまで喋る気だい!」と、 老婆が食って掛かった。
 それは秘密じゃないか、ということのようだ。
「それに、あんたの説明には、間違いもある」

「えっ、そう? じゃ、続きは」
 少年はあっさりしたもので、説明を譲った。
「ここからは、長老に話してもらおうかね」
 老婆は、もう一人の老人を促した。

 手近な石に腰を下ろしていた老人が、ためらうことなく語り始めた。
 名は、ペールグリと名乗った。
「あそこに突き立っている太刀。あれはカイロスの刃であって、カイロスの刃ではない」
cont_access.php?citi_cont_id=706025280&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ