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サントノーレ 作者:奈備 光

4章

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35 遭遇

 ンドペキが横を向くと同時に、声が聞こえてきた。
「結婚するってことは、夫婦になるってことよね。どんな困難も二人で乗り越える。これ、約束して」
 紛れもなくスゥの声。
 そして、握った手はまさしくスゥの手だった。
「約束する」
 ンドペキはホッと息を吐き出した。
「ひとりでなんでもやる、なんて無しにして」
「わかった」
 マスクの中でスゥが微笑むのが見えた。

「よかった……」
「私でよかったでしょ。手をつないでいるのが」
「うん?」
「モンスターなんかと手をつないでたらどうしよう、って思ってたでしょ」
「んなことはない。さては、おまえ、そう思ってたな」
「ううん。私にはちゃんとンドペキの肩の辺りが見えてたから、安心してたよ」

 ンドペキは辺りを窺った。
 声を出したからといって、変化はない。
 ンドペキはスゥと向き合い、そのまま頭をめぐらせて、背後を確かめた。


 稜線がだらだらと下っていく。
 右手の低地は、見渡す限りの森。ゆるやかに下って、その先には何もない。
 バーチャルを生み出すデータがないのか、あるいはかすんで見えないのか。
 左手の台地は、ごろごろした石が転がり、ところどころに草は生えているだけの荒地。森が点在している。
「煙だ」
 台地の森のはずれから、激しい煙が上がっていた。

 ンドペキの胸に、新たな考えが浮かんだ。
「ここが、シェルタ……」
 バーチャルで巨大なインテリアを施してあるシェルタ。
 ありえないことではない。
 しかし、この荒涼とした景色がレイチェルの趣味だろうか。あるいは前任者の長官の嗜好か……。
「地球だよな」
「そうみたい」

「まさか、ワープなんてことは……」
「そんな」
 生身の人間を、生体組織固定もせずに移動させる技術は、まだないはず……。
 しかし、もし技術が開発されていたのなら、これほど好都合なシェルタはない。
 暗闇に閉じ篭らずとも、自由に快適に潜んでいられるのだから。

「でも」
 もし、ここがシェルタなら、目的地に到達したことになる。だが、不自然な点もある。
 シェルタの入口であるこの地点に、見張り要員がいないばかりか、なんのチェックもされていない。
 しかも、見渡す限り、建物らしきものはない。人の住む気配がないのだ。
「森か」
 稜線を駆け下りれば、ものの数分で森の端部に到達することができる。
 あの木々の下にレイチェル騎士団が屯っているのだろうか。
 あるいは、あの煙はレイチェル騎士団が立てているものだろうか。

「情報がないのに決め付けるのはよくないと思うけど、違うと思う」
 スゥの言葉が正しいのだろう。
「あの煙、食事の支度ってもんじゃない」
 煮炊きものの煙なら、もっと白いはず。
 森のはずれから立ち昇る煙は、かなり激しく、広範囲に燃えている。
 そして、空を染めるほど黒かった。
「山火事か」


「さてと」
 行動を起こすべきなのだろう。
 ここに立って、すでに数分が経っている。
 マルコとミルコは姿を現さない。
 いや、出現はしているものの、位相がずれていて目には見えないだけかもしれない。

「どっちに行く?」
 稜線を登るか、下るか。
「向いていたのは、上よね」
 しかし、動きがあるのは下だ。少なくとも煙が上がっている。
 あるいは斜面を下って、森に足を踏み入れるか。
「森に入って、新居を建設するってのも」
「それは却下。そんな悠長なことをするためにここに来たんじゃないだろ」
「だね」

 もしここがシェルタなら、どこに向かうべきだろうか。
 下の森なら数分で到達。
 煙の足元は少し遠いが、それでもやはり数分。
「やっぱり、煙の元を確かめに行こう。マルコ、ミルコ、聞こえてたらついてきてくれ」


 稜線を下り始めると、景色に変化が起きた。
 空に黒い点が数個。
「おいでなすったぞ」
 このバーチャル空間に出現した位置から移動すれば、何らかの変化が起きる、そう考えていたが、その通りだった。

「かなりやばいぞ」
 最初は数個だった黒点は、たちまち数を増し、今や数百にまで増えていた。
「あそこ!」
 黒い点は、森のある一箇所から湧き上がるように上昇していた。
「多勢に無勢。一旦退却するか」
 森から飛び立つ黒点は、ますます増え続けている。
「それがいいかも」

「森に潜むが得策」
 二人は斜面を駆け下り始めた。
 数分もすれば、森が姿を隠してくれるだろう。
「待って!」
「なんだ!」
 スゥが立ち止まろうとした。
「あれ、パリサイドじゃない?」

「パリサイドだろうがなんだろうが、今は見つかりたくない。レイチェル騎士団以外、会いたくない!」
 ンドペキはスゥの手を引いたが、それでもスゥは止まろうとする。
「危ないよ。引っ張ったら」
「だから、早く行こう」
 このバーチャルな空間にいる間は、手をつないでいようと決めていた。
 手を離した瞬間に、相手の存在が掻き消えてしまう可能性もあるからだった。


「あっ!」
 ンドペキは立ち止まった。
 先ほどまでいた位置に、マルコとミルコの姿があった。
 やはり、稜線の上を向いて立っている。
「マルコ! こっちだ! ミルコ!」
 聞こえないのか、二人は突っ立ったままだ。

「見て。あのパリサイド、なにか持ってる」
 黒点は急速に近づきつつあった。
 凄まじいスピードだ。
 もう、はっきり見える。
「材木だな」
「あっ、あそこ!」
 スゥが指差した先のパリサイドは、別のものを抱えていた。
「人!」
「こっちのも!」

 人を抱えたパリサイドが四人いた。
 ぐんぐん近づいてきた。
 ンドペキは片方の手で武器を準備した。
「降りていく!」
 パリサイドが稜線に向かって降下していく。
 まさしく、マルコとミルコが突っ立っているその場所に。

「まずいぞ! マルコ! ミルコ! 後ろを!」
 ンドペキとスゥは駆け出した。
 斜面を登って、マルコとミルコの元へ。
 ようやく声が届いたのか、マルコとミルコが稜線から駆け下りてきた。

「早く! こっちへ!」
 パリサイドは、マルコやミルコには目もくれず、稜線に降り立とうとしていた。
「ならば、作戦は変更だ」
 ンドペキとスゥは、駆け登った斜面を再び下り始めた。
 相変わらず、パリサイドはンドペキ達に関心はないようだった。


 この状況をどう考えればいいのだろう。
 ここがバーチャル装置の中だとして、システムの意図はなんだろう。
 ここにパリサイドが集結することがプログラミングされていて、その場に自分達が立ち会うように仕掛けられていたのだろうか。
 あるいはどこか現実の世界にワープしたのであれば、この遭遇は偶然の出来事なのだろうか。

 少なくとも、直ちにパリサイドが襲ってくることはないようだ。
 斜面を駆け下りて行く四人が見えているはず。
 襲うつもりなら、挟み撃ちにすることもできるし、爆撃するなら地上に降りる必要もないはず。

 パリサイドは、順番に稜線に降り立っていた。
 ンドペキは立ち止まった。
 パリサイドが何をしようとしているのか、見届けたいと思った。


「お二人さん! 結婚するんだってな!」
「めでたいぞ!」
 マルコとミルコが合流してきた。
「まいったぜ!」
「万華鏡の中で足止めを食らったぞ!」
「ンドペキが動かないもんだから、出るに出られず!」
「背中が見えているのに、俺たちは万華鏡の光に弄ばれてたんだぞ!」
「あろうことか、のろけ話を聞かされた!」

「そうだったのか!」
「入り口はひとつなんだ! 俺たちが出て行く隙間を開けてくれないと!」
「そりゃそうだ。すまなかった」
「ひどい話だぜ!」
「おいおい! 聞こえていたなら、なぜ、すぐに降りてこなかったんだ!」
「そりゃ、まさかのこの景色! おったまげたぜ!」
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