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サントノーレ 作者:奈備 光

4章

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33 最初の夫

「あっ、誰か来た」
 顔を覗かせたのは、レイチェルSPのひとり、マリーリだった。
「取り込み中のようですから、また後ほど」
 と、辞していく。
 チョットマは引き止めはしなかった。
 ライラの顔にちらりと、断れというサインが見えたような気がしたから。

 案の定、ライラは「あの女は、気に入らないね」と吐き捨てた。
 どうしてなのだろう。
 マリーリは、聡明な女性という言葉が似合う、溌剌としたアンドロである。しかも、美しい容姿をしていて、言葉も振る舞いも人を安心させるものを持っていた。
 レイチェルの秘書で、ハワードと並んでSPの中でも特に信頼されている存在である。

「あの女、アンジェリナのこと、嗅ぎまわっていたのさ」
「えっ、そうなの?」
「知らなかったのかい。以前から、REFで時々見かけた。レイチェルにアンジェリナの様子や地下の状況を報告でもしてたのかねえ」
「へえ」
「どんな様子だい?」
「マリーリのこと? 今もREFに残って、隊に協力してくれてるけど……」
「ふうん。変わったことは?」
 と、言われても、チョットマには応えようがない。
 親しくはないし、関心を持って見ているわけでもない。

「あの女、セオジュンとアンジェリナがいなくなってから、やたらといろんなところに出没しては、二人の行き先を聞いて回ってるのさ」
 どんな目的があって、とまでは言わなかったが、明らかにライラはよく思っていないようだ。
「今も、おまえにそんなことを聞きに来たんだろうて」
 放っておけ、と言っているような口ぶりだった。


「さ、話を元に戻そうか」
 ライラが声音を変えて、
「おまえにも関係する話だよ」と、言った。
 チョットマは、聞きたくないと思った。
 噂は耳にしている。
 レイチェルのクーロンだから、という類のことではなく、緑色の髪に関すること。
 単に奇異の目で見られているというのではなく。
 もちろん、嫌悪されているとは感じなかったが、気持ちのいいものではなかった。

 思わず、
「ゲントウって人のことは?」と、聞いた。
 話題を自分からそらすつもりもあったが、聞きたいと思ったのだ。
「ん? そんなことを聞きたいかい?」
「うん。なんとなく」
 なぜだろう。チョットマ自身もわからなかった。
 しかし、聞いておかねば、という気がしたのも事実だった。

 ライラはふうぅ、と長い吐息をつき、
「それじゃ、あたしの昔話をしなくちゃいけないね」と、予想外のことを口にした。
 誰にも話したことのないことだよ。
 黙っててくれるかい?
「うん。でも、そんな話なら聞かなくていい。なんだか失礼な気がするから」

「チョットマ」
 と、ライラが厳しい目をした。
「あたしゃ、おまえだから話そうとしているんだよ。聞けないって言うのかい」
「そういうことじゃないけど……」
 またライラが溜息をついた。
「おまえの身に、これから大変なことが起きるだろう。その前におまえは、いろんなことを知っておかなくちゃいけない」
「はい……」
「でないと、自分が何をしようとしているのか、何がしたいのか、わからなくなる」
「はい……」
「太陽が無茶を始めた。今度は本気のようだ。それなりにこちらも対抗策をとらねば、未来はないよ」
「うん……」
「そのときに、おまえは自分の役割を果たせるかい? おまえの役割がなにか、それは誰かから聞くだろう。でもその後は、自分で考えることじゃないか」
「うん……」
「あたしにできることは、おまえが知っておいたらいいだろうと思うことを、話して聞かせるだけ」
「わかった。ライラのことも、もっと聞かせて」


「よし」
 と、ライラが椅子を近づけてきた。
「その前に、おまえには感触が掴めないだろうから」
 その言葉通り、ライラの言うことは、チョットマには実感の沸かないことばかりだった。

 何百年も生きてきたマトやメルキト。
 最近でこそ、結婚という形は廃れてしまったが、多かれ少なかれ、誰もが何度かの結婚をし、幾人かの子を持っている。
 ライラは、あたしもその例に漏れないよ、と言った。
「ホトキンと一緒になったのは、例の神の国巡礼教団が隆盛だった頃。その前に、二人の夫がいる」
「へえ!」
「それでも、身持ちはいい方だけどね」
「子供もたくさんいるの?」
「いいや、子供は一人だけ。神の国巡礼教団に連れ込まれて、宇宙に行ってしまった娘だけ」

 チョットマは尻が落ち着かない気がした。
 他人の過去を聞くときに、相槌どころか、どんな顔をしていればいいのかも分からなかった。
「ゲントウ。あいつはあたしの最初の夫さ」
 びっくりする話が飛び出して、ますますチョットマは言葉がなかった。
「まだ、マトになる前の」
「マトになる前……」
 鸚鵡返しに呟いたが、それがどんな意味を持つのか見当もつかなかったし、あまりに大昔のことで、想像することも難しかった。

「だから、ゲントウが今どこで何をしているか、それなりに気になってたものさ」
「そうなんだ……」
「あろうことか、あっ、そういう言い方はよくないね。ゲントウは何度目かのパートナーに、アンドロを選んだんだ」
「えっ」
「マリーリってやつを」
「あっ」
「でね、子供ができたって噂。女の子がね。相手はアンドロ。まさかって、思うだろ」

 そう言いながら、ライラは確信があるのだろう。
「ちょうど、ゲントウがカイロスやクロノスの装置を開発した頃のことさ」
 と、言った。
「どうして、アンドロの女と知り合ったのかねえ。ゲントウが死んだときのことを知りたいかい?」
 チョットマは何も言わなかった。

「まあ、それは聞かなくてもいい話だね」
 再び、扉を叩く音がした。
「さてと、あたしはそろそろ引き上げようかね」
「えっ、そうなの?」
 扉を開けると、ローブを着た男が立っていた。
「あっ、門番さん。どうぞ!」
 ライラが立ち上がった。
「門番もしてるけど、市長さ」
「ブロンバーグといいます。どうぞよろしく」
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