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サントノーレ 作者:奈備 光

3章

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30 ディナーそれともシャワー

 できることなら、死んでしまいたい。
 大昔の人なら、こう言ったろうか。
 数人のパリサイドに取り囲まれて、切り株に座ったスジーウォンは顔を上げることもできなかった。

 投げかけられる質問が悪気でないことはわかっている。
「あの刀は、どういう由来のものなのか」
「なぜ、カイラルーシ軍を敵に回したのか」
「ロア・サントノーレにやって来た理由は」
「サブリナとどういう関係?」
 しかしそのどれにも、まともに答えることができなかった。

 心には、スミソの死が重くのしかかっていた。
 カイラルーシ軍の攻撃から救い出してくれたパリサイド。
 その彼らも、スミソは救い出せなかった。
 あの泉の蒸気に包まれるや否や、消え去ったという。
 救出しようと急降下したが間に合わなかったと、スジーウォンを救ってくれたパリサイドは申し訳なさそうに言った。


「お前達! 慎まないか。失礼じゃないか。気を落とされている方に」
 ひときわ立派な体躯を持ったパリサイドが近づいてきた。
 パリサイドの例に漏れず、表情は乏しいが、温かい眼差しを向けてくる。

 パリサイドのコロニーは、ロア・サントノーレからさほど遠くない森林地帯にあった。
 スジーウォンとアビタットが座っているのは、コロニーの縁にある小さな広場。
 雨に濡れた木々のみずみずしい緑が、目の前に広がっていた。
「申し訳ない。無礼をお許しください」
 男は、腰を折って詫びの言葉を口にすると、取り囲んでいたパリサイドを追い払った。

「霧があれほど恐ろしいものだと認識していませんでしたので、様子見をしてしまい、間に合いませんでした。本当にすまないことをしました」
 男はUG0013と名乗った。この村のリーダーを務めているという。
「まずは、ゆっくり静養なさってください。もうすぐ食事の用意ができます。それともシャワーにされますか?」
「お心尽くし、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、もう少しここで休ませていただきます」
 アビタットが礼を言った。
 ようやくスジーウォンも顔を上げ、かろうじて感謝の気持ちが口から出た。
「色々とお聞きしたいこともあるのですが、それはまた後ほど」
 男はそう言い残して去っていき、入れ違いに現れた女性らしきパリサイドが、ひとつの建物に案内してくれた。


 パリサイドの集落には、入口や門というものがない。
 森林を切り開いた巨大な広場の中に、いくつかの建物がポツポツと無秩序に建っているだけといえる。
 その建物も、屋根を葺いただけ。
 粗末な造りのものばかり。
 人口は五千人というから、ほとんどの者は戸外で暮らしているのだろう。
 女に案内された建物には壁や扉があり、なんとかプライバシーを保てる造りだった。
「どうぞごゆっくり」
 それだけ言って、女は下がっていった。
 粗雑な造りのテーブルには、温かい食事が用意されていた。

「妙なことになったね」
 気を紛らわそうとしてくれているのか、アビタットがおどけた調子で言いながら、食事をよそい分けてくれる。
「案外、パリサイドって、質素な生活をしてるんだね」
 食事は豪勢といえるものではなかったが、それでも口に入れると、幾分落ち着いた気分になった。
「これって、材料はカイラルーシから手に入れてるんだろうな」
 でなければ、野菜や肉は手に入らない。
「エネルギーチップの食事でなくて、本当に良かったよ」
 久しぶりに、本物のコーヒーをカップから飲んだ気がした。

「これからどうする?」
「アビタットは?」
 彼がロア・サントノーレに来た目的は達成されていない。
「誰かを殺すって」
 アビタットが朗らかに笑った。
「さあね。あいつがさっきの連中の中にいたらいいんだけど」

 パリサイドの足に掴まってこのコロニーに降り立ったとき、百人ばかりの人々が一箇所に集まっているのが見えた。
「あれ、ロア・サントノーレの住民じゃないかと思うんだ」
「みたいだな」
「あの連中も、救出されたんじゃないかな」
 十分にあり得ることである。
「で、あの中に、あなたの探している人がいたら?」
「うん。話し合う」
 アビタットの顔が微妙に曇っていった。
「僕のことより、スジーウォンはどうするのさ」


 冷静に。
 落ち着いて。
 そろそろ考えなくてはいけない。
 カイロスの刃を手に入れるために、ここに来たのだ。
 手に入れられないどころか、カイラルーシ軍に攻撃される立場になってしまった。
 そしてあろうことか、スミソまで死なせてしまったのだ。
 そして今、パリサイドに助けられ、彼らのコロニーにいる。
 もう、悩んでいる場合ではない。心を震わせているときでもない。落ち込んでいる場合でもない。
 これからどうするか、決めなくてはいけないときだった。

 カイロスの刃を、ニューキーツに持ち帰る。それが任務。
 それができないなら、自分の存在価値はない。
 しかし、「でも、いい案がないのよね」
 と、今はまだ、そう言うしかなかった。


「ねえ、スジーウォン。あの連中に聞いたら、いい考えが浮かぶかな」
 ロア・サントノーレの住人なら、泉の水に襲われずに剣を手に入れる方法を知っているかも。
「聞いて来ようか」
「ああ」
 先ほど、通りすがりに見た人々。
 誰もがげっそりした表情で、肩を寄せ合っていた。
 顔も体も煤で汚れたまま、ぬかるんだ地面に座り込み、ボソボソと囁きあっていた。
 雨に打たれながら。
 大火の中から救い出されたのであれば、気力も体力も落ち込んでいることだろう。
 それがそのまま、彼らの表情に表れていた。
「どうしようもない、って顔してたけどな」
 彼らを収容する建物がここにはないのだろう。

 UG0013と名乗った男が顔を覗かせた。
「入ってもよろしいでしょうか」
「どうぞ。あなたにお願いがあるのです」
 アビタットが男を招き入れた。
「お願いとは?」
 コロニーのリーダーであるいう男は、まずは話を聞こうという気になったようだった。
 ついて来ていた女性が食事の後片付けを済ませるのを横目で見ながら、「なんでもおっしゃってください」と促した。


 広場に蹲っている人々は、やはりロア・サントノーレの住人で、パリサイドが救出したのだった。
「彼らと話をしたいんです」
 アビタットが切り出した。
「なんと。お願いとはそんなことですか!」
 UG0013はかなり驚いたようで、まるで咆えるように応えた。
「もちろんご自由に! この村内、どこに行かれるのも自由ですし、誰と話をされるのも自由です」
 そして、心外だというように、付け加えた。
「お助けしたからといって、あなた方にはどんな制約もありません!」

 そう。捕らわれているわけではない。
 ただ、それがはっきりしたことで、スジーウォンは心の中で安堵の息を吐き出した。
「助かります!」
 アビタットが席を立とうとする。
 UG0013の返答を見越していたのか、直ちに行動に移そうとする。
「あっ、お急ぎなんですね。私もあなた方と色々なお話をしたかったのですが……」
 UG0013が残念そうな顔を見せた。

 そう言われれば、礼儀上、部屋を出て行くわけにはいかない。普通は。
 彼らに救出され、温かいもてなしを受けたばかりである。
 しかし、アビタットはもう椅子に座ろうとしない。
 なんと、「スジー。分担しよう! 僕は連中と話をしてくる。スジーはUG0013と今後のことを話しておいて」
 と、強引に提案し、
「UG0013。すみません。勝手を言いますが、よろしくです!」と、部屋を飛び出していった。


 スジーウォンはすでに、かなりリラックスしていた。
 今なら、このパリサイドの代表者とも普通に話ができる。
「あなた方のことは、サブリナから聞いていました」
 穏やかな目でアビタットが駆け出していくのを見送ってから、UG0013が話し出した。
「そうなんですか」
「あなた方を支援するようにと」

 サブリナはセカセッカスキの飛空艇で、ニューキーツに向かったという。
「彼女には重要な任務がありまして」
「ええ。そのようですね」
「別に秘密ではないのでお話ししますと、物資の輸送を」
 ロア・サントノーレの住人を救出したはいいが、彼ら用の食料、医薬品、日常消耗品などの供給が、カイラルーシに送り込んでいる者だけでは追いつかないのだという。
「ニューキーツは、我々に対して協力的な街ですので、必要な物資を一度に運ぶことができる。そういう判断なのです」
「なるほど」
 パリサイドと違って、地球人類は何かと物入りだ。しかも、怪我人や火傷を負った者が大勢いるとなれば。

「JP01ですね」
「そうです。彼女によれば、必要なだけの物資を用意できる、ということでしたので」
 セカセッカスキの飛空艇に積めるだけ積んで帰って来るという。
 それで間に合わなければ、何度も往復すればいい。
「どんなご縁があるのか知りませんが、サブリナはあなた方に、何としても協力したいと申しておりまして」
「今更ですが、礼を言います」


 スジーウォンは、一気にニューキーツのことを思い出す気がした。
 隊の皆は今頃、どうしているだろう。
 何の連絡も来ないし、こちらからもしていない。
 ンドペキはさぞ心配しているだろう。
 タールツー軍との戦闘はまだ続いているだろうか。
 レイチェル騎士団が篭っているシェルタの手がかりは見つかっただろうか。

「タールツーというアンドロ、ニューキーツの暫定長官を名乗っていますが、接触はあるのですか?」
 思わず聞いてみた質問だったが、UG0013は関心はないという顔をして、あっさり応えた。
「それはJP01の専任事項です。私が直接、他の街の長官と接触することはありません」
 ニューキーツでのことはすべてJP01に任せてあるということだった。
「私からもいくつかお聞きしてもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
 スジーウォンは、UG0013から投げかけられる質問に、できるだけ丁寧に答えていった。


 小一時間も経った頃、アビタットが駆け込んできた。
「スジー! いい話が聞けたよ!」
「それより、探している人はいたのか?」
「いや……。死んだって……」
「そうか……」

「そんなことはもうどうでもいいよ! カイロスの刃を手に入れる方法を聞いてきたんだ!」
「うん! で?」
「簡単なことだったんだ! 生贄だよ!」
「えっ、生贄!」
「鉄の斧を投げ入れるって類のことじゃないよ!」
「なんだ?」
「UG0013。協力して欲しいんだ!」
「なにをです?」
「だから、生贄を準備するのを!」
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