挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
サントノーレ 作者:奈備 光

1章

3/118

2 ムサシストリート

「ねえライラ、私、セオジュンを探す。だから」
 ライラが、ぴしゃりとはねつけた。
「おやめ! お前にゃすることがたくさんあるだろ!」
「だって」

 チョットマはライラの部屋でリンゴを頬張っていた。
「心配……」
「あいつは大丈夫さ」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「あの子は、考え無しに行動する子じゃないよ。それよりチョットマ、大丈夫なのかい?」
 ライラが、エリアREFの比較的地表に近いYMUでのことを蒸し返した。

 ンドペキ隊はエリアREFの地理的全容をすでに把握していた。
 レイチェルのシェルタがこのどこかに存在するはずだが、それがどこにあるかという点を除いてという意味である。
 まず、出入口は思いのほか多く、最初にチョットマがプリブに連れられて入った出入口以外に、十二箇所あった。
 最初に入ったあの出入り口が最も広く、いわばメインエントランスである。
 それらの出入り口全てにンドペキ隊は呼称をつけていた。
 それぞれ元素記号で、メインの出入り口はコバルトのゲート、略してGCOといった具合だ。

 それぞれの出入り口からの敵の侵攻ルートを想定し、主要な通路やホールやエリアにも名称を設定してある。
 こちらは、エリアREFの人々が呼び習わしてきたサキュバスの庭のように、世界中の古代神や英雄の名などを宛てている。

「そのときの様子を詳しく教えておくれ」
 ライラは心配でたまらないと言うのだ。
「隊長も、お前にああいう危険な任務を与えなきゃいいのにね」
「それはないよ。ンドペキはだれでも特別扱いはしないよ」
「でも、お前は」
「それは言いっこなし、じゃない」

 エリアREFにはすでに、妙なことを信じているものがいるという。
 チョットマがエリアの守護神とも言われている大蛇に守られている、というのだ。
 かつて、チョットマがクシに襲われたとき、白い蛇が現れたからだったが、本人はちっともそれを信じる気持ちはなかった。
「私は竜神様とは関係ないよ」

 もちろん本当は、ライラはこの逸話を持ち出したわけではない。
 チョットマがレイチェルのクローンであることを指しているのだが、それを言葉にすることはまずない。
 ただ、チョットマは特別という空気が、隊員達の中にも、そしてエリアREFの住民達の中にも、ないとはいえなかった。


「で、どうだったんだい」
 YMUはヤードムサシの略で、一直線の通路SMU、つまりムサシストリートを軸に上下左右に細い通路が複雑に入り組んでいる。
 ゲートLIから侵入し、SMUを侵攻してくる敵を待ち伏せ、攻撃するに最適なエリアである。
 つい半時間前に、チョットマはそこでクシに襲われたのだった。

 チョットマがYMUの巡回警戒任務を交代した直後のことだった。
 ひとりで通路を歩いているとき、胸騒ぎがした。
 SMUは一直線の通路である。
 背後!

 チョットマは待った。
 コンマ一秒にも満たない短い時間。
 相手の攻撃が発せられた瞬間の回避が重要だ。
 それ以前だと、追尾される。
 いったん発砲すると、攻撃機種にもよるが、コンマ一秒であれ五秒であれ、一瞬の隙が生まれる。
 その間に体勢を建て直し、反撃に転じることができるのだ。

 レーザー弾!
 とっさにチョットマはそう判断し、銃が発砲すると同時に、地面に瞬間移動し、応戦した。
「ちっ」
 相手の放ったレーザーはチョットマの頭を掠めていったが、それは相手も同じ。
 コンマ三秒後にチョットマが自分の放ったレーザーの行方を視界に捉えたときには、すでに敵の姿はそこになかった。

 しかし、自分を付け狙っているクシであることは疑う余地がなかった。
 証拠があるわけではない。
 姿も見ていないのだ。
 しかし、クシ以外に自分を狙う者がいるとは思えなかった。
 チョットマはクシと自分が放ったレーザー弾の着弾点がくすぶっているのを確認した。
 構造物への被害は小さい。


「エネルギー弾とか、もっと破壊力の大きな武器をぶっ放してきたらどうするんだい」
「心配要らないよ。汎用武器で弾の速度が最も早いのがレーザー弾。エネルギー弾は破壊力はあるけど速度は落ちる。絶対にかわせる自信があるよ」
「そりゃそうだろうけど」
 最初、ここでクシに襲われたとき、チョットマは武装していなかった。
 今は違う。完全武装といってよい。
「今は防御もできるし、たとえ弾が当たっても即死ってことにならないよ」
 エネルギー弾の様な重火器はここエリアREFでは使えない。地下街もろとも吹き飛ばすつもりなら別だが。

「でも、こう頻繁に襲われるなら、隊長も手を打ってくれればいいものを」
「だからさ、ンドペキは私だけ特別扱いになんてしないって」
 そうは言いつつ、チョットマは知っていた。
 エリアREF外での任務は、絶対に自分には回ってこないことを。
 この細い通路が入り組んだエリアREFを一歩出れば、クシの攻撃の幅は格段に広がる。
 ンドペキは配慮してくれているのだ。
 チョットマが油断しない限り、近接した戦闘では、相手がクシであっても負けることはないと。
 勝たなくても、負けなければいいのだから。
「ンドペキも、ここの人たちにクシの目撃情報を求めているし、そのうち捕まえてくれるよ」

 ただ、チョットマとて、全く気にしていないかといえば、そんなことはない。
 これだけ頻繁に命を狙われて、平常心でいられるはずがない。
 しかも、狙われる理由がわからないときている。
 むしろ常に緊張しているといえた。
 今ここに、ライラの部屋に、あいつが押し入って来ないとも言い切れないのだ。
 部屋ごと吹き飛ばされることさえ、ないとはいえないのだ。
「襲われれば、それはそのとき。ビクビクしててもしようがないから」

 チョットマを守る体制は特にはとられていない。
 作戦行動に、それとなく配慮がなされているだけだ。
 ライラによれば、エリアREFの兵にも協力を依頼しているというが、チョットマ自身はあまり当てにはしていなかった。
 現に、数日おきに狙われている。


「そんなことより、セオジュンのこと!」
 チョットマは話を元に戻そうとした。
 セオジュンの失踪はチョットマにとって、事件である。
 まさか、殺されたのかもしれない、などとは言わなかったが。
cont_access.php?citi_cont_id=706025280&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ