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サントノーレ 作者:奈備 光

3章

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28 こんなところで

 あのパリサイドは、アギ?
 タールツーがやったこと?
 そういえば……。
 ユウが話していた。
 肉体が欲しくないかと。
 結局、あの話は中断されたままになっていたが。


 通路は大きく弧を描いて右に曲がっていく。
「右へ!」
 分かれ道に差し掛かっていた。
 初めての分岐である。

「もうすぐそこだよ!」
 分かれ道を通り過ぎざま、ンドペキの耳が短い声を捉えた。
「ちょっと待ってくれ!」
「なんだい!」
「声が聞こえた!」
「それがどうしたんだい!」

 あの声は確かに、チョットマの声。
 ダメだ!、という短い声だが、聞き間違うことはない。
 特徴的な甲高い声。
 遠くで発せられた声が、地下通路を伝わって来た。そんなふうに聞こえた。


「確かめてくる!」
 ンドペキは引き返そうとしたが、ライラは許さなかった。
「なに言ってるんだい! あんただけじゃ、ここから出られないよ!」
「くっ」
 ライラの指でなければ、この通路を閉ざす扉は開かない。
 そう気づいて、ンドペキは迷った。

「しかし! チョットマが!」
 もし、助けがいるような状況なら!
「ん? チョットマが?」
「違いない!」
 ライラが、スゥの背でくるりと振り向いた。
「ダメだ、と叫んでいた!」
「スゥ! 引き返すんだよ! 早く!」

 どうした! チョットマ!
 今、ゴミ焼却場の格子の床をどうするか、コリネルスらと検討しているはず。
 分岐を左に取り、突き進んだ。
「チョットマ! 返事をしろ!」
 通信が繋がる。
「あ、ンドペキ!」
「今、向かっている!」
「了解!」


 チョットマの声に切迫感はなかった。
 一気に安堵感が湧き出したが、ンドペキは歩調を緩めなかった。
「全隊員に告ぐ! 手近なものはサキュバスの庭の入口に急行せよ!」
 パリサイドを抑え込め!
 指揮官はパキトポーク!
 エリアREFの住人の安全が脅かされると判断される場合は、武力行使も許可する!
「REFの各入口の警備を抜かるな! パリサイドの行動にはタールツーが絡んでいる模様! 連動攻撃の可能性あり!」

「了解だ!」
 パキトポークの声。
「パリサイドは何人だ」
「少なくとも二、三百!」
「なんだと!」
「さらに増える見込み!」
「おい!」
「ただ、今のところ烏合の衆だ。敵意はあるが、ただちに攻撃してくることもないだろう!」
「JP01の配下か?」
「いや。アギらしい」
「アギ? どういうことだ!」
「わからん! 何としてでも抑え込んでおけ!」


「あっ、ンドペキ」
 すぐ近くでチョットマの声がした。
「そんなところに!」
 通路の天井が高くなっていた。
 数メートル上に、黒光りする格子。
 その上にチョットマが立っていた。
「ここは」
 格子の間から顔を覗かせている。
「焼却場」

「チョットマ! 無事なんだね!」
 ライラが声を掛けた。
「あっ、ライラも!」
「急ぐから、これでね!」
 と、スゥを急き立てる。
「急いで戻るんだよ! このぼんくらのせいで、道草をしちまったよ!」
「まあ、そう言わないで!」

「ここからは出られないのか!」
 ンドペキの質問に、ライラはピシャリとはねつけた。
「無駄!」
 スゥは既に、もと来た道を取って返している。
 ンドペキは、辺りを見回した。
 データとして記録するために。


 通路は格子の下を通り越して先に延び、暗闇に消えている。
 ただ、石の壁が続くばかりで、目につくものは何もない。
 これまでと同様、人ひとりが通れる程度の狭い通路である。
 ただ、かなり強い風が吹き込んでいた。
 格子の天井は、下から見上げてもいかにも頑丈で、容易に破壊できるようなものではない。
 よく見ると、格子の穴の中に、さらに細かい格子が嵌っている。

 炎はどこから。
 格子本体にも壁にも、それらしき吹き出し孔などはない。
「床が熱いんです」
 なるほど、格子の床自身が数百度以上の熱を持つということなのだ。
 今、格子が熱を帯び始め、赤銅色に変わりつつあった。
「サキュバスの庭に向かいます!」
「よし!」
 チョットマと短い言葉を交わし、ンドペキはスゥを追った。


 ライラが言ったとおり、通路はすぐに行き止まりになった。
 やはり、ライラが指で触れると石の壁が消え、扉が開いた。
 出たところは小さな部屋で、さまざまな物品がうず高く積み上げられている。
 照明が灯っていた。
 正面の壁には、REFではよく見かける木製の扉。
「降ろしておくれ」
「大丈夫?」
「ありがとうよ」
 ライラはあっさり扉を開け、扉の向こうに掛けられてあったカーテンを開いた。

 カーテンをくぐると、また小さな空間に出た。
「ここは」
「フン。何度も通っただろ」
 壁に、SAINT HONOREの文字。
「ここか……」
 門番は不在だった。
 床にコインが積み上げてあった。


「さ、あんたたち、サキュバスの庭の入口に向かっておくれ」
「ライラは?」
「あたしゃ、別の用事がある」
 ライラはくるりと背を向けたが、もう少しだけ説明しておこうという気になったようだ。
「市長に、報告しなくちゃね」
 と短くそれだけ言って、別のカーテンを開けた。
 そこにも扉が。
「さ、早く行くんだよ!」

「市長に会うなら、俺も同行できないか?」
 会って話がしたい。
 謝らなくてはいけないことがあるし、聞きたいことも多い。
 レイチェルのシェルタへはどうしたら行けるのか。
 行けないまでも、連絡はつかないか。
 それに、ロア・サントノーレへスジーウォンを向かわせてはいるが、カイロスの刃について詳しいことを聞かされていない。
 隊はエリアREFで活動しているが、その礼も言わなくてはいけないのかもしれない。

「自分がやらなくてはいけないこと、それを先にするんだね!」
 ライラの返答はにべもなかったが、目元は柔らかく微笑んでいた。
「行ってきます!」
 元気な声を掛けて、チョットマが後ろを駆け抜けていった。
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