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サントノーレ 作者:奈備 光

3章

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27 役立たずだね

 モニタに映し出されたサキュバスの庭は、パリサイドで溢れかえっていた。
 地下水系から上がってきたパリサイドが、上階へ行こうと列を成している。
 どれも均一なサイズで、ベルトコンベヤーでゆっくり運ばれていくかのように、ぶつかり合いながら進んでいる。

「俺たちは囚人か!」
「もっと真摯な対応をしろ!」
「汚らわしいネズミめ!」
「私に触れたわね! 気持ち悪いから向こうに行きなさい!」
「蒸し暑い! 息が苦しい!」
「死ね!」
「私を誰だと思っているの!」
 いくつもの愚連隊が狭い一部屋に押し込められたかのように、いたるところで小競り合いが起きていた。

「あんたが誰かって? 知らないよ」
 黒い体が押し合っている中に、ライラがいた。
「きっと鼻持ちならない成り上がりだろうさ」
「なんですって!」
「はっ、おつむの程度が低いんだね!」
 もみくちゃにされながらも、何とかライラは立っていた。

 行列は既に止まっている。
 サキュバスの庭に下りる階段は狭くて急だ。
 これだけ多くの者が殺到すれば、たちまち詰まってしまう。
「早く行かんか!」
「どいつもこいつも頭の悪そうな顔しやがって」
 殴り合いの喧嘩まで起きていた。

 ライラは群集にかなり押し流されている。 
「地上に出たところで、構ってくれる暇人なんていないさ」
 自分よりもふた回りも大きな体に押しつぶされそうになりながらも、パリサイドを罵ることをやめようとしない。
「下品なお坊ちゃま達。もといた場所に帰りなさい」

 あまりにもぎゅうぎゅう詰めで、マトの老婆がひとり混じっていることに、多くのパリサイドはまだ気づいていない。
 しかし、非常に危険な状態だ。
 パリサイドの怒りがライラに向かえば、捻りつぶされてしまうだろう。
「なんだって、ライラはあんなところに!」
 スゥが叫びながら、装甲を身に付け始めた。
「スゥ! 扉を開けてくれ!」
 ライラを助けなければ!
「もうちょっと待って!」
「急げ!」


 ンドペキは武器を手にした。
「持って行く?」
「必要なら使う!」
 武器を使えば混乱に拍車をかけることになるだろう。
 しかし、いざとなればやむをえない。
「開けるわよ」
「よし!」

 飛び出すやいなや、ンドペキは声を張り上げた。
「鎮まれ! 鎮まれ!」
 武装した人間が飛び出したことによって、一瞬の間、パリサイドの動きが止まった。
 その隙に、スゥはライラの元へ飛んでいく。
「道を開けなさい!」
 体ごと、パリサイドの群れにぶつかっていく。

「ギャワワワッ!」
 パイサイドがひとり、奇声を上げた。
「邪魔するな!」
 ンドペキは武器を水平に持ち、周囲を威嚇しながらスゥの後に続く。
「どけ! 邪魔するなら撃つ!」
「俺達とやろうってのか!」
 目をぎらつかせたパリサイドの胸元に銃を突きつけ、押しのけていく。


「あっ」
 スパン!という銃声がした。
「スゥ!」
 撃ったのはスゥだ!
 悲鳴が上がった。
「どけ! 通せ!」

「その人を放しなさい!」
 スゥが銃を構えた先に、ライラがいた。
 パリサイドに胸倉を掴まれて、吊るし上げられている。
「こいつが悪いのよ!」
 金切り声を上げたパリサイドは、ライラを解放するどころか、ますます高く持ち上げた。
「放しなさい!」
「こいつ、私をバカにしたのよ!」
「次は威嚇じゃなく、本当に撃つ!」

 スゥの言葉を最後まで聞かずに、ンドペキは引き金を引いた。
 と同時に、スゥが飛びつき、放り出されたライラを抱え込んだ。
 パリサイドは胸を抉り取られ、血しぶきを引いて吹き飛んでいる。
「ギャー!」
 逃げ惑うパリサイド。
 通路は狭い上に過密。
 ンドペキが銃を向けるたび、雪崩を打つようにパリサイドの群れが大きく揺れた。
 叫び声がこだました。
 状況を見ていなかったパリサイドが、何事が起きたかと押し寄せてくる。
「鎮まれ!」


「きさま! こんなことをしてただで済むと思っているのか!」
 怒号を無視し、ンドペキは周囲を見回した。
 どれも表情はない。
 おびえた様子の者も多いが、刃向かう気の者もいる。

「ライラの部屋へ!」
 スゥとを後ろに庇いながら後ずさるンドペキに、飛び掛ってくるものがいた。
「ふざけるな!」
 再び引き金を引く。
「おまえらの思い通りになるか!」
「ギャー! 死んだ!」
「なんなら、全員ぶっ殺してやろうか!」

 背後で扉の開く音がした。
 ンドペキは、パリサイドに銃を向けたまま、部屋に入った。
 扉を閉める直前に、飛び掛ってきたパリサイドをまたひとり、撃ち殺した。
「ふうっ!」
「ライラ!」
 横たえられたライラにスゥが、呼びかけている。
 血の気のない顔。
「息はある!」
「しっかりして!」

 パリサイドが体当たりしているのだろう。
 扉がドンと鈍い音をたてている。
「懲りない連中め!」
 たとえ扉が破られても、そこらじゅうのパリサイドを全滅させる自信がある。
 相手が、肉弾でぶつかってくるだけならば。
 万一、パリサイド流の攻撃を仕掛けられたら。


 あるいは、この連中の一部が、この怒りのままにエリアREFに出て行けば、かなりまずいことになる。
 隊員をサキュバスの庭の入口付近に急行させたいが、この部屋からは通信が使えない。
 ンドペキは覚悟を決めた。
「スゥ! 俺はこいつらをひきつけて、上層階に向かう! そこで一網打尽にする!」
「えっ!」
「ここじゃ、袋のネズミだ。俺が全員を撃ち殺すか、なだれ込まれるか、しかない!」
「ちょっと待って! それは!」
「話し合ってる時間はない!」
「じゃ、私も!」
「おい!」
「行く!」
「二人で危険を冒す必要はない!」


「あっ、ライラ!」
 突然、ライラが目を開けた。
 起き上がるや否や、大声を上げた。
「あんたたち!」
 と、身を起こした。
「ここはあたしに任せな!」
「でも!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、あたしを負ぶうんだよ!」
「はい!」

 スゥが背負うのももどかしく、ライラが叫んだ。
「こっちだよ!」
 指差されるままに、スゥは部屋の奥へ走っていく。
「ンドペキ! なに突っ立ってるんだい!」
 ライラの指が触れるや否や、石の壁が消えていく。
「五秒だ!」
 壁の向こうに通路が現れた。
「早く! 閉まるよ!」

 ンドペキが通路に飛び込むと同時に、壁は再び実体化し、暗闇に包まれた。
「さてと、もう安心さ。でも、ぐずぐずしちゃおれないね」
 通路は狭く、岩盤をくり貫いただけの不正形な断面をしていて、足元も悪い。
 岩穴の抜け道だ。
「あたしも耄碌したねえ。スゥに助けられ、あげくに負ぶわれるとは」
「これからどこに?」
「上に決まってるだろ。やつらがREFに押し寄せる前に」


 岩穴はすぐに行き止まりになった。
 再び、ライラの指が触れ、また別の通路に出た。
 左右に延びている。
 依然真っ暗だが、幾分主要な通路なのか、足元は整備されていた。
「よかったねえ。こっちにやつらが来てなくて。右だよ」

 通路は一直線に延びている。
 ポツンポツンと扉はあるが、堅く閉ざされ、人通りはない。
 空気は淀み、使われることのない道のようだった。
「左に行けば、水系に行きつくのさ」
「こっちに行けば、どこに出られるの?」
「行けばわかるさ。そんなことより!」
 ライラが大声を上げた。

「ンドペキ! あんたの隊員に、サキュバスの庭の入口を固めさせるんだよ!」
 ライラに言われるまでもなく、すでに指示は出そうとした。
 しかし、岩盤深く、通信は届かなかった。
「役立たずだね!」
 既に何十人かのパリサイドは、REFに彷徨い出ているころだろう。
「どうなっていることやら」


「あいつら、部屋を荒らさないかしら」
「フン。あたしの部屋は大丈夫だよ」
 侵入されない構造になっているという。
「あの扉は見せ掛けさ。あれが壊れた瞬間に、本物の扉が閉まる。そうなればやつら、お陀仏さ」
 スゥもンドペキも道を急いだ。
 浮遊走行ができるほど天井は高くなく、自分の脚力に頼らねばならない。

「ライラ、あそこでなにしようとしてたの?」
「無駄口言ってないで、もっと早く走れないのかい!」
「無理言わないでよ」
「あたしゃ、アギは嫌いなんだよ!」
 ライラはそれが理由だと言って、ひとりきり毒づいた。
「よくもあんなものを受け入れたもんだ! タールツーのしそうなことさね!」
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