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サントノーレ 作者:奈備 光

3章

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26 覚悟のない空回り

「そのうちにまともなデート、できるかな」
 ンドペキはスゥの事務所にいた。
 サキュバスの庭にある、ライラの部屋の隣。
「それにしても、さっきは驚いたな」
「立会人だったこと?」
「ライラも一言、言ってくれたらいいのに」
「まあ、気分屋さんだから」

 ここスゥの部屋は完璧に密閉されていて、政府のコンピュータに盗み聞きされる心配はない。
「彼女と私で、交代しながらしてるのよ」
 エリアREF内で、安心しきって話せるのは、ここと隊の作戦室だけだ。
 作戦室については、スゥが日常的にメンテナンスしてくれている。
「おまえの仕事ぶり、初めて見たな」
「それなりに緊張したね」

 あの階段室は、年老いた兵たちの管理エリアで、会話は筒抜けなのだという。
「最初の扉、あの向こうは兵士の詰め所」
「だろうな」
「最近、姿を見ないけど」
「防衛軍も攻撃軍もいないから、街の防衛に駆り出されて、さぞ張り切っているんだろうな」
 アンドロの元で働くことになって、彼らの心中は推し量れないが。


「さあ、じゃ、ゆっくり話そうか」
「うん」
 スゥは、自分の部屋で恋人と一緒にいるからといって、馴染んだ素振りを見せるようなことはない。
 ただ、心からリラックスした様子を見せるだけだ。
「恋人同士の話じゃないよね」
「それはまた、次の機会」
「仕方ないな」
 といいながらも、スゥはうれしそうで、菓子などを出してきた。

 階段中ほどのあの扉。
 レイチェル騎士団が篭っているシェルタの出入り口ではないか。
 話題はその一点に尽きる。
 しかしスゥの返事は、がっかりさせるものだった。
「そうねえ。私は、違うと思うな」
「そうか?」
「あの先には」
 スゥは言い淀むこともなく、カイロスの珠が保管されているのではないか、と言った。
「想像だけどね」


 確かに、それもある。
 エリアREFで大切なものといえば、カイロスの珠だろう。
 オーエンの同僚、ゲントウという男が昔作ったという、地球を救うための装置を作動させるアイテム。
 そんなものがあるとすればの話だが。
「でも、スジーウォンとスミソをロア・サントノーレに向かわせたんでしょ」
「まあな」
 彼らから、まだ何の連絡もない。
 首尾よく、ロア・サントノーレに行き着いただろうか。

「それより、プリブの見つけた横穴。どうだったの?」
「まだ調査中」
 うずたかく積もったゴミの下に見つけた横穴。
 これを完全に調べるには、それなりの準備が必要だった。
 ゴミの層の下には、それを受けている頑丈な格子状の金属の階があった。
 まず、これをはずさなくてはならなかった。

「あんな重いものがあるなら、シェルタから出てくるのも大変だ」
「そうねえ」
 なにしろ、格子は一メートルほども厚みがあり、しかも頑丈に固定されていた。
 しかも、ゴミは勝手に燃え上がり、始末に悪い。
「破壊してしまっていいものかどうか」
「まずいかもしれないわね」
 エリアREFの構造物を勝手に壊してしまうのは躊躇われたのである。
「でも、そんな分厚いもの、壊せる?」
「時間はかかるだろうな」
 今、コリネルスとパキトポークが現地で考えているはずだ。

「ところで、あの小さい穴は、大蛇様の通り道だと思っていいかな?」
「そう聞いてるわ。でも」
 二百年ほど前まで、あの屋根の上で晒された死体が二週間もそのまま、ということはなかったらしい。
 再生するために回収されなければ、大蛇が平らげてしまう、というのが通説だった。
 ところが最近は、ほぼ間違いなく地下水系に流してしまうという。
「もう大蛇なんて、いないってことかな」
「そういうことになるかな」
「それに、再生装置はもう動いていないぞ」
「でも、慣例だから」


 カイロスの珠。
 あの横穴の向こう、それが保管されているだけなのだろうか。
 しかし、それほど大切なものなら、もっと地下深くに保管されていそうなものではないか。
 例えば、ここサキュバスの庭の最奥部などに。

「確かめてみたいと思う」
 ンドペキはその気だった。
「実は、二百年ほど前の航空写真を見た」
「へえ。なに?」
 イコマは新たな情報を得ていた。
 古いニューキーツの航空写真を探し当てたのである。
 そこには、あの煙突が写っていた。
 轟然と炎を上げている四本の煙突が。

「そういや……」
 スゥが、昔を思い出そうとしている。
「あそこはいつも、火の海で」
 ゴミ焼却場のことである。
「今みたいに通ることはできなかった。あんな橋もなかったし……」
「なるほど」
「もともと、ゴミを燃やすところじゃなかった気がする」
「ん?」
「なにか、神聖な趣だったし、清浄な炎がなんとかかんとか」
「また頭のいかれた信者どもの話かい」
「たぶん、カイロスの連中のカムフラージュだったんだろうね」


 スゥが思い出したことは、新たな発見といえた。
 当時、プリブの部屋やホトキンの間に向かうには、別のルートがあったはず、ということになる。
「それがどこだったか、思い出せないけど……」
 シェルタに直接繋がる情報ではなかったが、エリアREFにはまだまだ知らない部分があるということだ。
「俺達には情報が少ない」
「そうねえ」
 スゥは市長とやらを知っているのだろうか。
「ブロンバーグをいう男らしいんだけど」
「知ってるわ」
 ただ、親しいわけではないし、普段どこにいるのかも知らないらしい。
「ライラなら詳しいと思うけど」

 ンドペキは、ライラにレイチェルの死の顛末を話したことを説明した。
「そう。よかったわ」
 スゥが安心したように息を吐き出した。
「気にしてたのよ、私」
 ライラは味方と思っていい。
 しかし、ブロンバーグ市長をはじめ、REFの住人は味方だとは限らない。
 できるだけ早くそのことを正直に話して、できることなら支援を得られる体制を作っておくのがいい、と思っていたという。
「だって、こう言っちゃ何だけど、ンドペキ達、行き詰ってるし」
「ん、まあ、だからね」


 ンドペキは話を戻した。
 四本の煙突は盛大な炎を上げていた。数百年前までは。
 今日、クシの死体を五寸釘で打ちつけたステージは、燃え盛る炎の中の、さながら生贄を捧げる台。
 それを喰らう大蛇。
 大蛇を孤児と呼んでいいのかどうかわからないが、レイチェルのシェルタの位置を示すあの言葉に符合するではないか。
「調べないわけにはいかないだろ。たとえ立ち入り禁止だと言われても」

 既に事態は切迫している。
 今こそ、あの横穴の先にあるだろう扉を開くべきときではないか。
「そう思うだろ」
「うーん。でも、確かめてみるって、どうするつもり?」
 スゥが心配そうな声を出した。

 あの横穴を調べるには、スゥかライラの協力が必要だった。
 でなければ、まず、あの階段室に入れない。
 まさか年老いた兵たちに、開けてくれと頼むわけにはいかない。
 ただンドペキは、スゥにそれを頼む気はなかった。
 それは、スゥに街を裏切れというようなものだったからだ。
「二週間後……」
 クシの死体を回収に行くとき。
 それまで待たなくてはいけない。
「フライングアイで飛び込めば、その先どうなるか、わかるだろ」
 万一、妙なトラップにかかって身動きが取れなくなれば、フライングアイをそこに放置してくればいい。


「待てるの?」
 ますますスゥが心配そうな顔をした。
「待てるか待てないか、じゃない。待つしかないんだ」
「ふう!」
 スゥがこれ見よがしの溜息をついた。
「恋人にも頼まないんだ」
「頼まない。スゥは俺にとって大切な人。巻き込みたくない」
「ねえ、ンドペキ。それってさ」

 ンドペキにもわかっていた。
 スゥは、自分に頼めと言っている。
 しかし、扉をうまく開くことができたとしても、その見返りにスゥの身に何かあれば、取り返しがつかない。
 現に、あの階段室で、スゥはあれほど念入りに近づくなと繰り返していたのだから。
 聞かれていることを前提とした、ポーズであったとしても。
 スゥは納得がいかないらしく、難しい顔をして睨んでいる。
「なあ、スゥ……」
「もういい。結局、ンドペキはそういう人」

 二人は、心からひとつになっていない、といえるのかもしれない。
 二人の乗り切っていくという覚悟がないのかもしれない。
 しかし、どうしてもスゥだけは守りたいと思ったのだった。
 今はまだ。
「ゴミ焼却場の下の横穴が空振りだったら、そのときは……」
 作戦として、二つ同時に進めることもできる。
 しかも、ゴミ焼却場の方は望み薄。
 それでもンドペキは、まずはゴミ焼却場の方を、と思いたいのだった。
「さて、そろそろ様子を見に行ってくる。コリネルスも苦戦してるだろ」

 スゥは返事もしなかったが、二人は短いキスを交わした。
 しかしその直後、スゥが顔色を変えた。
「ちょっと待って! 外が騒がしい!」
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