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サントノーレ 作者:奈備 光

2章

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21 剣を掴め

「あああっ!」
 地上に降り立ったスジーウォンが発した言葉の先に、アビタットがいた。
 しかしすぐに、後も見ずに走り出した。
 カイロスの剣らしきものが目を捉えていた。
 炎の中でも、きらりと光を放っているもの。
 あれに違いない!
 落下点に一刻も早く。

「見えたな!」
 後方からスミソの声がした。
「ああ」
「目測だが、三分十五秒で落下点に到達予定!」
「最短距離でいく!」
「マシンがいようが、誰かが倒れていようが無視するぞ!」
「はぐれるな!」

 見渡す限り、激しい炎に包まれていた。
 視界はないに等しい。
 時折見せる炎の隙間から、かろうじて周囲の様子が見える。
「もし城壁があっても、強引に突き進む!」
「爆破するんだな!」
「そうだ!」

 これまでいくつもの戦闘を経験してきたが、こんなすさまじい状況は初めてだった。
 周囲が炎に包まれたこともたびたびあった。
 エネルギー弾が間近で炸裂し、数十メートルも吹き飛ばされたこともあった。
 しかし、その炎やエネルギーは、ものの数十秒もすれば、薄れていく。
 むしろ、その間に次の攻撃の手順を決断し、体勢を立て直し、自らの武器のエネルギーの充填を待つのが普通だ。
 今はどうだ。
 周囲はすでに二千度ほどになっていようか。
 進めば進むほど、ますます過酷な状況。
 炎の色で染まった視界。
 どんな嵐よりもすさまじい音。
 幸い、攻撃してくるものはいない。
 地面は概ね平坦で、障害物はない。
 スジーウォンとスミソは順調に、落下点に向かっていた。


「で、スジー。こいつをどうする?」
「ん?」
 聞かなくてもわかっていた。
 アビタットのことだ。
 スミソの後方を追ってくる。
「知るか!」
「だな!」
 アビタットにも聞こえているはずだが、後ろから反応はなかった。
 あいつ、大丈夫か。
 そうは思うが、かまっている状況ではない。
 姿は少年だが、かなりやり手の兵士だったのだろう。
 安定した足取りが、スミソの後ろ百メートルほどの距離を正確に保っている。

「そんなことより、二人で行く必要があるか?」
「おい!」
 ここから先、炎はますます激しさを増す。
 万一の場合を考えて、一人はここで待機する方がいいのではないか。
「じゃ、お前がここに残れ!」
 スミソがそう言うのはわかっていた。
「俺が力尽きたら、後はスジー、お前に任せる!」
「ダメだ! 私が!」

「ねえ。装甲、大丈夫? 熱シールド、ある?」
 アビタットの声がした。
「ない!」
 そんな特殊なシールドは装着していなかった。
「やばいんじゃない?」
「うるさい! お前に関係ない!」
「だからさ、お前って呼ぶなって、言っただろ」
「ええい! うるさい!」

「無謀だなあ」
 また、アビタットが涼しい声を出した。
「僕が取って来ようか」
「断る!」
「薄々、こんなことになるんじゃないかって、思ってたんだ」
 もし、アビタットが熱シールドを利かせていたとしても、スジーウォンはアビタットに任せる気などなかった。
「やかましい! これは私達の任務だ!」


「だよね。でも、任務ってのはさ、成功させなくちゃ」
「ちっ!」
「無茶はいけないよ」
 スミソが割って入った。
「おい、アビタット。こっちは気が立っているんだ。ごちゃごちゃ邪魔をするな!」
「じゃ、そうするけどさ。エネルギーパットの残量、どれくらいある?」
 確かに、残量は半分ほど。
 思ったより、消耗が激しい。異常なほど減っていく。
 装甲内を冷やすのに大量のエネルギーを使っているのだ。
 もちろん、放電も半端ではないだろう。
 予備は積んでいるものの、心もとない。
 スミソはどうだろう。

「お前はお前の心配をしろ! 探す人はいたのか! 殺す相手は!」
「大声で言わないでよ。聞かれたらどうするのさ」
「落下点まで後二十秒!」
「了解!」
 炎の中に光るものは、もう間違いなく剣だった。
 それが目指すカイロスの刃かどうかはわからない。
 しかし、この熱に晒され続けてまだ光を放っているのは、それが尋常なものではないことは確かだった。


「よし!」
 サブリナからも、こちらの動きが見えていたのだろう。
 約束は五分だったが、こちらの動きに合わせて、剣が降下を始めた。
 力を抜いているのだ。
「ピッタリだ!」
「いいぞ!」
「街に入った!」

 城壁は崩れ去っていた。
 大量の瓦礫が積み重なっている。
 コンクリートが、石材が、燃えている。
 真っ赤に溶けた金属が燃えている。
「ここだ! 中央広場!」
 剣はまだ上空にあるが、もう手の届くほどまで降りてきていた。
「うっ!」

 足元を見て、スジーウォンは背筋が凍った。
「これは!」
 泉。
 直径、約五十メートル。想像していたよりかなり広い。
 業火の中に、泉だけが清々しい水を湛えていたのだ。
 水面に小波が立ち、炎を映し出してぎらぎらと光っていた。
「絶対にここに落とすな!」
 落とせば最後、カイロスの刃を二度と手に取ることはできないだろう。
 石になることはなくても、ただではすまないはずだ。
「泉の魔女の魔法か!」
「冗談はいい! 真剣にいこう!」
 剣から目を離さず、いつでも飛びかかれる姿勢で泉のほとりに立った。
 スジーウォンは、自分はまだ落ち着いている、と思った。


 剣は真っ直ぐ泉に向かって降下して来る。
 上空、百メートルほど。
 視界が悪く、よく見えない。
 サブリナが一気に力を抜けば、あっという間に剣は泉に落ちる。
 それがいつなのか、わからない。今かもしれないのだ。
「まず、私が飛ぶ! もし届かなかったら、後は任せる!」
「了解だ!」

 スジーウォンの跳躍力は大きくはない。
 せいぜい、五十メートルほどだろうか。
 スミソも同じようなものだろう。
 下手をすれば、泉に落ちる。
 どのタイミングで飛ぶべきか。
 上へ飛べば、泉に落ちる。
 かといって低く飛べば、失敗したときに後がない。

 エネルギー弾でも放って、剣を吹き飛ばせばいいだろうか。
 いや、そんな不遜なことをしていいものではないだろう。
 なにしろ、魔法の泉に浸かっている剣なのだ。
 ではどうする。
 空中でエネルギー弾を打てばその反動で飛距離は稼げるかもしれない。
 とはいえ、稼ぐ飛距離はたかが知れているだろう。
「頼むぞ。サブリナ。ゆっくりだ、ゆっくり」
 そう呟きながら、剣を凝視した。
 すでにかなり降りてきている。

 地上三十メートル。
 今、飛ぶべきか。
 スジーウォンは力をみなぎらせた。
 頼みのブーツに異常はない。
 下を向くわけにはいかないが、少なくともゴーグルのモニタでは全身万全だ。

 まさに、スジーウォンが跳躍しようとしたとき。
「あっ!」
 剣が視界から消えた。
「泉から離れろ!」
 アビタットの叫ぶ声がした。
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