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サントノーレ 作者:奈備 光

2章

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20 飛び降りるのは誰

「あなた方は、その後」
「待て!」
 スジーウォンはサブリナの腕を掴んだ。
 ハッチのレバーを握ったその腕は、思いのほか硬かった。

「あんた!」
「そう。あなた達、この炎の中は無理でしょ。ここで死ぬことはないわよ」
 サブリナが、セカセッカスキに目配せをするかのような笑顔を見せた。
「しかし!」
「私に任せて」
 飛空艇は自動操縦に切り替えられた。
 セカセッカスキが立ち上がった。
 サブリナに任せろ、というように顎をしゃくって。

「でも、私にできるのは」
 飛空艇の周りには黒煙が渦巻いている。
 サブリナが窓の外に目をやった。
 艇はホバリング状態に入っている。
「あなた達が、その何かを見つけられるようにすること」
 外はまるで、嵐のような激しい気流。
 しかし艇は、ピタリと空中に停止している。
「タイミングを見て、飛び降りて」
 サブリナの目が光った。
「セカセッカスキ、うまく降ろしてあげて」
 飛空艇乗りは無表情だったが、了解したというようにうなずいた。

「サブリナ! ちょっと待て! どういう」
「聞かないでいいから。時間、ないでしょ」
 サブリナが腕を振りほどいて、
「軍もこの様子を見てるんだから」
「しかし!」
「くどいね!」
 サブリナがきっぱりと言った。

 セカセッカスキが、大声をあげた。
「艇は地上には降りれない。いいな!」
 飛び降りた後は、自力で炎から脱出しろというのだ。
 エネルギーパッドが消耗しなければ、カイラルーシに戻れるだろうし、そのままニューキーツに突っ走ってもいい。
「もちろん。それでかまわない」
 スジーウォンの言葉は、サブリナの提案に了解したというようなものだった。


「じゃ!」
 と、サブリナがレバーを引き下げた。
 高度はいつの間にか五千メートルを超えている。
 空気が抜けるようなかすかな音がしかと思うと、スバッとハッチが開いた。
「行ってくるよ」
 強烈な風が艇内に吹き荒れた。
 サブリナはこの高さから飛び降りようというのだ。
「私ね、あんな熱の中では無理なの」

 なんの躊躇もなく、サブリナは空中に身を投げ出した。
 その直前、にっこり笑いかけて。
 見る間に、落ちていく。
 燃え盛る火焔の海に向かって。

 セカセッカスキが、あっさりハッチを閉める。
 スジーウォンはどんどん小さくなっていくサブリナの姿を凝視した。
 あっ。
 声にならない驚きの声を上げたのは、アビタットだった。
 サブリナが腕を広げつつあった。
「ああっ」
 スミソが叫んだ。
 急速に翼を広げ、空中に停止している。
 高度三千メートル付近だろうか。


「パリサイド!」
 みるみるうちに、羽根はますます広がっていく。
 なんという……。
 サブリナは……。
「じゃ、準備するか」
 久しぶりにセカセッカスキの声を聞く気がした。
 たちまち飛空艇は高度を下げていく。
「あいつの腕に触れないように」
 飛空艇はかなり迂回して、翼の下に回り込もうとする。
「なかなか難しいな」
 数キロは移動しただろう。
「あんたら、どれくらいなら飛び降りれる?」

 そんな経験はなかった。
 わからない。
 しかし、三百メートル、と適当に答えた。
「うーむ。それなら、炎の中は無理だ。かなり離れた場所になるが、いいな」
「ああ」
 セカセッカスキは一気に加速し、三百メートル付近まで高度を下げることができる場所を探し始めた。

 見れば、上空はすでにサブリナの黒い薄膜に覆われていた。
 こちらの準備を待っているかのように、遥か彼方、微動だにせずぽつんと空中に浮かんでいる。
 その体も黒煙の中で、やがて肉眼では見えなくなった。
「気温、摂氏百八十度。地上は八百度を越えている。ここらでいいか」
 熱すぎる。
 しかし、すでに街の中心部から十キロほども離れている。
「かまわない」
 と言うしかなかった。


 この温度の中で、どう探せばいいのだろう。
 見たこともないものを。
 この燃え盛る業火の中で。
 あるかどうかも分からないものを。
 それに、サブリナの準備とは、何を意味するのだろう……。
 どれだけ自分達の命は、もつだろう……。

 セカセッカスキが艇の動きを止めた。
 準備が整ったというように。
 サブリナには見えているだろうか。
 なにが始まるのだろうか。
 セカセッカスキは再び自動操縦モードにし、黒煙の中のサブリナを探すかのように上空を凝視し、諦めてモニターに眼をやった。


「私ができるのはこういうことよ」
「んっ」
 サブリナの声が聞こえてきた。
「ここっ!」
 サブリナが座っていたシートの上に、小さな立方体が置かれてあった。
「詳しく話をしている時間はなかったから。少しだけ説明するね」
 サブリナがそこにいるかのように、明瞭な声が聞こえてきた。
「見てて」

 むっ。
 強烈なエネルギーを感じた。
「おおおっ」
 セカセッカスキが叫んだ。
「なるほど!」
 飛空艇も抗しきれないエネルギー!
「浮き上がっている!」
 黒煙が立ち込める中に、さまざまなものが浮遊しつつあった。
「見ろ!」
 磁石にでも引き寄せられるかのように、重力に抗ってひとつ、またひとつと地面を離れてくる。

「あなた方が探しているのは、カイロスの剣でしょ?」
「そうだ!」
 思わず、スジーウォンは叫んだ。
 守秘義務など、もう気にしている場合ではない。
「あれは特殊な金属。きっとあの中にあるはず」
 街の上空に浮かんでいるものの中に、カイロスの剣が!
「今から五分間持ち上げておく。その間に探して」
「了解!」
 スジーウォンは叫んだ。
「素手では触れない。十分気をつけて」
「恩に着る!」


「今だ!」
 セカセッカスキがハッチを開けた。
「成功を祈る!」
 後ろを見ずに飛び降りた。
 スミソが続いて飛び降りることは分かっていた。
 もし、来なくても、それはそれでいい。
 こんなむちゃくちゃな作戦で、死ぬのは自分一人で十分だ。

 空中を落ちていく感覚など、そうそう味わうことはない。
 しかも、落ちていく先は灼熱地獄。
 地上に着く直前に、ブーツの浮遊モードをタイミングよく全開に!
 姿勢を保って!
 でなければ、地面に叩きつけられる。
 緊張していいはずだが、スジーウォンは自分が落ち着いていると思った。
 目は、炎の中に浮かんでいるはずのカイロスの剣を探していた。
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