挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
サントノーレ 作者:奈備 光

2章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

19/118

18 新たな作戦のとき

 ンドペキはコリネルスやパキトポーク、そしてロクモンと話し合っていた。
「なに! カットラインを!」
「そうだ」
「今どき、そんなものをどこで見つけてきた!」
 パキトポークが吼えている。
「俺は反対だ! だいたい、あれは!」
「拙者も反対でござる」

 カットライン。
 この武器が開発されたのは、数百年ほど前。
 不思議な金属を主材料とする、ナノ繊維の一種。
 特殊な溶液に反応して、極限にまで密度が高まり、あらゆる物質よりも固くなる。
 目に見えない細い糸となっても、切ることはできない。
 しかも柔軟性を有しており、空間にふわふわと漂わせているだけでよい。
 触れたものは、一瞬何が起きたのかわからないうちに、己がすっぱりと切れてしまうのだ。
 どんな装甲も、カットラインの前では用を成さない。
 通り過ぎただけで、体は真っ二つになってしまう。

「あれは禁制品でござる」
 珍しく、ロクモンが明確に反対を唱えている。
「しかし、この状況では……」
 コリネルスの旗色は悪い。
 エリアREFで、そんな昔の武器が発見されたのだった。
 カットラインは、卑怯な戦法という烙印を押されている。
 殺傷マシンや兵士のみならず、一般市民の脅威ともなる。
 しかも、後始末ができない。
 不要になったカットラインを撤収しようにも、できないのだ。
 そのため、かなり以前から使用が禁止されていた。


「これ以上、隊員を割くわけにはいかない」
 あのゴミ焼き場を調べてみたいというプリブ申し入れを受けて、再度煙突の構造を調べてみたのだった。
 その結果、煙突から敵に侵入される恐れがあるということを再認識したのだった。
「煙突は四本。出口はビルの屋根の上だが、守りにくい場所だ。上空から攻められてはお手上げだ」
 誰もが見向きもしない街外れの大きなビルの屋根に、煙突は突っ立っていた。
 屋根は急勾配で、金属で葺かれている。平坦な部分もあるにはあるが、数人が立つのが精一杯の狭さだ。
 周辺からは格好の標的となり、そこで戦うのはあまりに無防備だ。

「とはいえ、煙突の中に隊員を配置するには、最低でも八名必要だ」
 コリネルスが我慢強く説得しようとしている。
「隊員達をこれ以上、睡眠不足にすることはできないぞ」
 それぞれの煙突は、途中で何度か折れ曲がり、水平に近い部分が数箇所ある。
 隊員を配置するなら、その場所だが。
 誰しも、そこでの警戒任務は尻込みするだろう。
 不潔なのだ。しかも、真っ暗で猛烈に暑い。

「ゴミ焼き場内部で警戒する、という手もあるにはあるが」
 しかし万一、ここまで進入されたとなると、始末が悪い。
 なにしろ、プリブの部屋のあったエリアと分断されてしまうことになる。
 今のところ、あの鉄橋以外の通路を発見できていなかった。
「禁制品であろうがなかろうが、やはりカットラインを使うしか手はないのではないか」
 コリネルスが懸命に説いている。
「あの場所なら、一般市民が立ち入ることはないだろうし、回収する必要もない」
「なにを無責任な! 未来永劫、あそこに誰も立ち入らないと、誰が言えるのでござる!」
「うーむ」
「ビルを解体しても、あの忌々しい糸をその辺りにばら撒くだけのことになる。そうではござらぬかな!」


 ンドペキは迷っていた。
 使えるものなら使いたい、というのが本音だった。
 隊員達は疲れていた。
 状況に倦んでいるともいえた。
 いくつもあるゲートの死守で精一杯の状況だ。
 連日、小規模ではあるが攻撃を仕掛けられている。
 休む間もないというのが、現実である。
 そこに、新たな前線ポイントを増やし、負担を増やすのは躊躇われるのだった。

 隊員達に聞いてみるか。
 ンドペキはそう思ったが、すぐに思い直した。
 かつてのように、全員が顔を揃えて作戦会議を開くという状況にはもうない。
 意見を聞いても、それが隊員達の本心からの意見かどうか、見極めることができないだろう。


「何度も言うが、わしは反対でござる。そんな卑怯な手、使いとうはござらぬ!」
「俺もだ!」
 ロクモンとパキトポークはあくまで反対だという。
 パキトポークなどは、東部方面攻撃隊の恥だとまで言った。

 ハクシュウならどうするだろう。
 ンドペキは、久しぶりにそんなことを思った。
 街をアンドロの手から取り戻す。その目的のためには手段を選ばず、ということだろうか。
 それとも、名誉を重んじて、あえて苦しい道を進むだろうか。隊員だけならまだしも、市民の犠牲に目を瞑ってでも。

「カットラインを使う」
 ンドペキは決めた。
 パキトポークは幾分がっかりしたようだったが、こだわりはなかったようで、
「やむを得まい」と、反応した。
 ロクモンは顔色を変えたが、それでももう何も言わなかった。
「ただし、もう一度あの煙突を念入りに調べてからだ」
 レイチェル騎士団が篭っているというシェルタの手がかりは、今もあのごみ焼却場しかない。
 というより、連日、攻撃に晒され、シェルタ探しもままならないというのが実態である。
「一週間だ。シェルタの入口探しに全力を上げよう。それでも見つからない場合、作戦は練り直しだ」
 すでに、あそこは徹底的に調べてあった。
 新たな発見の可能性は低い。
「その上で、必要となればカットラインを使う」


 作戦の練り直し。
 それは、政府建物への、正面からの突入作戦への転換を意味する。
 シェルタ経由のレイチェルの居住区への近道作戦は使えない。
「真剣に考えるときが来たようだ」
「同感だ!」
 腕まくりをしそうなほど、パキトポークがいきり立った。

「作戦の大筋は、前に話し合ったとおり」
「うむ」
「問題は、いつ実行に移すか」
 政府建物内の状況は、かなり把握できつつある。
 タールツーがいると思われる建物も、掴んでいる。
 そこへ至るルートも頭に入っているし、万一の場合の避難ルート、そしてタールツーを取り逃がした時の追尾ルートも。
 そして、隊をいくつかの小隊に分け、それぞれの役割も決めてある。
「特別なタイミングなどはあるか?」
 ンドペキはコリネルスに聞いた。

「おいおい。見損なうなよ。いつでも準備はできているぞ」
 作戦のための武器弾薬、エネルギーパット、特殊な工具、食料などの携行品は、いつでも手に持ちさえすればいいように集積してあった。 
「よし。そっちはどうだ?」
 パキトポークは、意見などあるか! と吼えた。
「今からでも行こうぜ!」
「うむ。ロクモンはどうだ?」
「うーむ」
 こちらは慎重のようだ。
 騎士団と連動してこその作戦、というのがロクモンの持論である。


「ヌヌロッチとユージンに、政府内の最新情報を聞こう」
 ンドペキの提案に、パキトポークがげんなりした顔を見せた。
「何度も言うが、俺はあいつらを信用していないぞ」
「わかっている。しかし、貴重な情報源だ」
「あのハワードのやつも、雲隠れしてしまったじゃないか」

 パキトポークの言うとおりである。
 あれほど親密にしていたハワードの姿が見えなくなっていた。
 もう一週間ほどにもなる。
 ハワード以外のレイチェルSP達は、これまで同様にさまざまな情報をもたらしてくれる。
 しかし、安易に信じ込んでいいものかどうか、という気分が生まれつつあるのも事実だった。
「まあ、そう言うな」
 そう応えるしかなかったが、ンドペキ自身、心に引っかかるものを拭いきれないでいた。

 ハワード。
 裏切ったのか。
 あるいは、これまでのことはすべて、仕組まれた芝居だったのか。
 そう考えてしまう一方、他方では彼の身に何か起きているのでは、とも思うのだった。
「そもそも、ハワードの行き先について、やつら誰も知らないと言いやがる。そんなはずがあるか!」
 今、隊に出入しているSPは、マリーリ、ヒカリの二名のみ。
 従来どおり、ヌヌロッチは食料省の幹部として、ユージンはエネルギー省の幹部として、政府内にとどまっている。
 防衛軍事務員であるスーザクは、エリアREFにいても、自分は役に立てないからと、職場に戻っていった。
 アンジェリナの行方は未だに知れない。

「あいつらのことはどうでもいい。早く作戦の実行日を決めようぜ!」
 パキトポークが急かすが、ンドペキはここは慎重に決めたいと思っていた。
 ロクモンが言うように、本来はレイチェル騎士団との連携作戦のはずである。
 建物内の勝手もわからない自分達には、一方的に不利な戦いである。
 バーチャルな罠にまんまと引っかかるやもしれないのだ。
「スキャンエリアの詳細は、大体掴めたぞ」
 これが最大のネックだったが、その無効化の方法について、コリネルスとヒカリが練ってあるという。
「奴は科学省職員だ。位置及び運用情報は、治安省職員のハワードの情報だがな」


 作戦実行の障壁はもうないと言ってよかった。
 後は、タイミングだけだ。
「あいつらに、案内を任せるのか?」
 建物内への侵攻に当たって、SP達にも一役買ってもらうつもりだった。
「レイチェルはもう死んだんだ。俺達に協力する義理はないんじゃないのか」
 スパイじゃないのかとまでは口にしなかったが、パキトポークにしてみれば、どこに連れて行かれるか知れたものじゃないというのだ。

 この点は、ンドペキも不安を感じていた。
 ハワードがいる間は、そんな不安など感じたことはなかったが、いざ姿が見えなくなると、疑念が浮き上がってくるのだった。
「コリネルス」
 ンドペキは直近のテーマに話題を変えた。
「ん?」
「シェルタの入口の手がかりは?」
 予想通り、進展はない。
「うむ。では、あの焼却場をどうやって調べなおす?」
 プリブが言うように、一旦、火を消す。
 そして、焼却場の底を調べつくす。
 同時に、煙突内部と煙突の外、つまり屋根を再度調べる。
 そんな案が出された。
「なんだか、パッとしないんだがな」


「ところで、住民にはまだ知られていないか?」
 ンドペキ隊は、シェルタを探していることを秘密にしていた。
 もし、レイチェル騎士団とシェルタの存在がアンドロ軍の知るところとなれば、不都合が多いと考えたからだった。
「それが、どうも漏れているようだな」
「そうか」
 仕方のないことだった。
 おおぴらに聞いて回ったりはしなかったが、焼却場ではかなり大掛かりな調査もしたのだから。
「逆に、情報提供などは?」
「ないな」
「うむ。じゃ、すぐに取り掛かろう」
「今からか?」
「そうだ。非番の隊員を招集する」
 ンドペキが号令を掛けようとしたときだった。

「ンドペキ!」
 通信装置から聞こえてきたのは、チョットマの叫び声だった。
「どうした!」
「クシが! でも、でも!」
「なんだ! 無事か! どうした!」
「それが!」
「ちゃんと話せ!」
「ううっ! ハクシュウが!」
「なに!」
「ハクシュウが死んだ!」
「なに言ってるんだ! 今、どこにいる!」
cont_access.php?citi_cont_id=706025280&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ