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サントノーレ 作者:奈備 光

2章

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17 決めなくちゃいけない?

「さてと、家族水入らずの晩飯、といきたいところなんだが」
 このところ、イコマとユウとアヤ三人は、毎日のように顔を合わせている。
「アヤちゃん、そう言ったからって、気にしないで」
 場所は、エリアREFにあてがわれたアヤの部屋。
 フライングアイは、ユウとアヤの食事を眺めているだけだ。
「おじさん、そんなこと言うと、ますます申し訳なくなるよ」
「ごめんごめん」

 アギの身を、これほど恨めしく思ったことはなかった。
 いつかは三人で元のように暮らしたい。そう思って六百年を生きてきたが、いざそれが叶うと、己の身が悲しかった。
「ンドペキも、アヤちゃんには気を使っているからね」
 正規の隊員ではないことで、アヤのシフトは他の隊員に比べて、過酷でもないし厳密でもない。
 もちろん、アヤの怪我が完治しているとはいえないからだった。

 ンドペキ。
 その名を口に出すたび、イコマは奇妙な気分に襲われる。
 未だに、イコマとンドペキの意識は、完全融合に至っていない。
 パリサイドの技術も、地球上で生き延びてきた人類には、完璧とはいかなかったようだ。
 人間ってそれだけ複雑な動物なのよね、とユウは笑っているが、イコマは微妙な気分だ。
 完全な融合が実現した方がよかったのか、今の状態の方がよかったのか、今は判断ができなかった。


「それはそうと……」
 イコマはアヤの顔を見つめた。
 目を伏せ気味にして、食事を摂っている。
 笑い声がはじけるような食卓風景ではない。
 なにしろ、エリアREFは連日の攻撃にさらされているのだ。
 そして、彼女にとって少し気の重い課題もあった。

「またにするかい?」
 話題はさまざまにある。
 ロア・サントノーレに向かったスジーウォン達のこと。
 今もセオジュンの行方に気を揉んでいるチョットマのこと。
 エリアREFでの出来事や、街の噂。
 そして将来の家族としての夢……。
 しかし、その課題がある限り、いや、それが課題だと思っている限り、本当の幸せな食卓はやってこないような気もする。
「簡単に答を出せるものじゃないしね」

 アヤが顔を上げた。
 いつものように、微妙な笑みを作って。
「私……」
 箸を置き、ドリンクに手を伸ばした。
「私、なんだか……」
 イコマは言葉を待った。
 きっと辛かろう。


 JP01がユウであること。
 ユウが、スゥというクローンを作っていたこと。
 そして今二人は、記憶も意識もすべて共有していること。

 ユウが、ンドペキというイコマのクローンを作っていたこと。
 そしてこちらも今は同様に、記憶は共有し意識は同期していること。
 それらのことを、すでにアヤに話してあった。

 JP01がユウだったんだよ、と話したのは十日ほど前。
 アヤは、やっとユウお姉さんにも会えた! と飛び上がって喜んだ。
 おじさんをやっと見つけた! ごめんなさい! と抱きついてきたあの日のように。
 今はもう、コンピュータに聞かせる言葉を選ぶ必要はない。
 今すぐ会いに行きたい! と。
 イコマの心の中にも、再び喜びが湧き上がってきた。
 そしてまた、アヤはむせび泣いた。

 イコマは、四人の関係も話して聞かせたのだ。
 すぐには理解できないかもしれない。
 それにどんな反応をするだろう、と微かな不安を抱きながら。
 しかし、それは杞憂だった。
 理解できるや否や、アヤはまた大喜びだった。

 ただ、予想していたほど、アヤは驚かなかった。
 むしろ、ほっとした表情を見せたのだった。
 理由を問うと、ンドペキ隊長は、なんとなくおじさんと同じような匂いがしてるから、と。
 だって、私は聞き耳頭巾の使い手だから、と笑ったのだった。


「どうしようかな……。決めなくちゃいけない?」
 アヤは、困った顔をして、ボトルをもてあそんでいる。
 アヤにしてみれば、ユウを見つけたことの喜びを、もっとストレートに表したかっただろう。
 素直に喜んでいいのか、複雑な気分になればいいのか、よくわからないことになってしまったのだ。

 イコマはユウと、ンドペキはスゥと、それぞれにいわばペアを組んでいる。
 イコマとユウは、アギとパリサイド。
 ンドペキとスゥは、元はといえばクローンだが、立派なマトということになっている。
 アヤは、家族としてどちらがふさわしいか、という選択に迫られているのだ。
 彼女が選択しようとしているのではない。
 イコマは、考えに考えた挙句、どちらを母体にするか、よく考えなさいと促したのだった。
 ンドペキの意識としても、これからはアヤと一緒に暮らしたいという気持ちが抑えきれないでいるのだ。
 一応は明確にしておいた方がいいだろう、と考えたのだった。

 ただそれは、無責任な態度かもしれない。
 どちらかをメインの家族とする、なんて易々と決めれるものではないだろう。
 しかも、決める必要があるのかどうかも怪しいのだ。


「受け入れられないなんて気持ち、これぽっちもないわ」
 アヤがそう言ってくれたおかげで、ユウは気持ちが楽になったのか、この話題に積極的に入ってこようとはしない。
「もちろん、うれしい気持ちが溢れてる」
 ただ、もう少し時間が欲しいのだ。
「いいんだよ。今は非常時だし、そのうちに何か見えてくるさ」


 ユウがその言葉を待っていたかのように、口を開いた。
「ノブ、聞いて欲しいことがあるのよ」
 いつになく、神妙な面持ちである。
「単刀直入に聞くけど、ノブ、体が欲しくない?」
「は?」
「実はね」

 と、そのときだった。
 ンドペキの意識が急を告げていた。
「無事か! どうしたんだ!」
 チョットマから連絡が入っていた。
「今、どこにいる!」
 私、油断してたんだ、とチョットマは泣きじゃくっていた。
「すぐ行く!」
 イコマも、アヤの部屋を飛び出した。
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