挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
サントノーレ 作者:奈備 光

2章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

17/118

16 高度を下げろ

「うわっ!」
 ものすごいスピードで、飛空艇に向かって突き進んでくる黒い集団がある。
 パキトポークがあわてて進路を変えようとするが、と思った瞬間にその集団は、飛空艇を掠めて後方に飛んでいった。

「おおおっ!」
「パリサイド!」
「見ろ!」
 パキトポークが叫んでいる。
「見えるか!」
 乗客の窓からは、後方は見えない構造だ。
「後ろはどうなってるんだ!」

「見せてやる!」
「ぎゃっ」
 セカセッカスキは、強引に機体を持ち上げた。
「おい!」
「我慢しろ!」
 機体は垂直に立ち上がったかと思うと、そのまま一気に宙返りを始めた。
「うわああっ! 格好いい!」
 アビタットが叫んでいる。

「すごいぞ!」
 パリサイドの集団は、飛空艇と戦闘機の間に割って入り、その中間に浮かんでいる。
 と、それがはじけたように広がり、あっという間に巨大なスクリーンになっていた。
「こいつはいいぞ!」
「やれやれ、パリサイドまでお出ましだ!」
 セカセッカスキがうれしそうに吼えている。
「これじゃ、やつらも攻撃できないぞ!」
 空中のパリサイドは二十人ほど。
 いずれも戦闘機の方を向き、飛空艇には背中を見せている。
 空中に立つように飛び、羽根を広げている。
「やつら、どんな飛び方もできるんだな」
 立った姿勢で、強烈なスピードで後ろ向きに飛んでいることになる。
「俺達を助けてくれようってのか!」
 空に黒い幕が広がり、戦闘機はすでに見えない。
「こうつはいいや!」

「おい! ちょっと待て! これじゃ、俺達もあそこに突っ込んじゃうんじゃないのか!」
「ガハハハハ!」
「セカセッカスキ!」
「心配するな! 真っ直ぐ後ろ向きに飛んでるぞ!」
「なっ」
「離陸のときに、陸地を見たいって酔狂な客もいるんでな!」
「それを先に言え!」
「艇体だけが宙返りさ!」


「今のうちに、ロア・サントノーレまで行ってしまおう!」
「だな! というより、もう着いてるぞ!」
 と、飛空艇乗りは高度を下げ始め、飛空艇はたちまち雲海に飲み込まれていった。
 雲海の中で再び宙返りだ。
「なかなかのもんだろ」
 セカセッカスキが始めて自分の飛空艇を自慢した。
「恐れ入ったぜ!」
 アビタットが応えてやる。

「それにしても、パリサイドはなぜ」
「さあな。助けてくれたのかどうか、わからんさ」
 セカセッカスキは鼻歌でも出そうなほど、上機嫌でモニターを眺めている。
「おっ、パリサイドを前に、軍は尻尾を巻いて逃げ出したぞ!」
「そりゃ、許可もなく、勝手に攻撃できないものね!」
 アビタットはわけ知り顔で、ハイテンションだ。

「こいつは、下界は大雨だな」
 雲海を突き抜けたときだ。
「なんだ!」
 不気味なほど、空が暗い。
 豪雨である。それにしても、真っ暗だ。
「煙か?」


 艇がぐんぐん高度を下げていき、状況が見えてきた。
 黒い煙が空を覆っていた。
「見ろ!」
 大地が燃えていた。
「うわぁ」
 一面が炎の海。
 ロア・サントノーレの街だけではない。
 豪雨を突いて、周囲数十キロの範囲に激しい炎が燃え盛っていた。
「街の真上まで行ってみるか」
 飛空艇が高度を三千メートルまで下げ、ゆっくり飛んだ。

「ここか? 街は?」
「みたいだけど……」
 炎が千メートルほども上がっている。
 炎と煙の勢いが強すぎて、地上の様子がよくわからない。
 飛空艇も気流を受けて、激しく乱高下した。
 煙に突っ込み、周囲はほとんど何も見えない。


 炎は踊るというが、ロア・サントノーレはバーナーの炎のように、莫大なエネルギーを発散させているかのようだった。
 地上の温度は、軽く二千度は越えているだろう。
 スジーウォンは思い出した。
 ニューキーツの荒地で、たった一人のパリサイドが放った強烈な攻撃を。
 もしや今の、パリサイドの集団が……。

「妙なことがあるもんだな」
 セカセッカスキは落ち着いているが、スジーウォンは迷った。
 この地に降りていくべきだろうか。
 ここで、任務の目的である剣とやらを探すべきだろうか。

 単なる火災ではない。
 街が、森が、そして大地が燃えているのではない。
 意図的に燃やされているのだ。
 何者かの手によって。何らかの方法で。
「ううむ」
 誰もが目を見開いて、炎の下に垣間見える街らしき残骸を見つめていた。


 スジーウォンは思った。
 この炎の中では、装甲をつけていたとしても、ものの数分ももたないだろう。
 スミソの装甲性能は、どうだろう。
 下手に聞くと、大丈夫です、などと応えるかもしれない。
 ここは、自分ひとりで降りていくべきだろうか。
 しかし、ほんの数分で、目的の剣が見つかるとも思えないが……。

 飛空艇はいよいよ速度を落とし、ロア・サントノーレと思われる、瓦礫が散らばるばかりの荒地の上空を旋回している。
 ところどころから、思い出したかのように爆発的な火の手が上がる。
 サブリナもアビタットも窓の外を見つめたまま、言葉はない。
 結論を出さなくてはいけないと思った。
 どうする……。
 降りるのか……。
 こんなところにハクシュウはいない。
 降りていったところで、会えはしない。
 かといって、任務を放棄するわけにもいかない……。
 可能性がある限りは。

 スミソは何の反応も示さない。
 しかし、彼の性格は知っている。
 降りろと言っても、彼は何の不満も言わず、喜んで飛び降りていくだろう。
 たとえ、再生されることのない死が待っているとしても。


「どうする? どこかに降りるか?」
 セカセッカスキの声は、もう面白がってはいなかった。
 降りることができるのは、街から数十キロも離れた地点になる。
「悪いな、これじゃさすがに、機体が持たないんでな」
 どこにも着陸はできないという。
 飛び降りるしかないのだ。
 しかし、その後、どうやって街に近づけばいいのか。
 目的の剣をどうやって探せばいいのか。わずか数分の間に。
 そして、その後、どうすれば……。

 どうしようもない……。
 スジーウォンは任務は果たせそうにない……、と思った。
「誰も生きていないでしょうね……」
 サブリナがつぶやいた。
 街の住民は、すべて死んだのだろうか。
 そうかもしれない。
 しかし、まだ炎が襲っていない森の中に避難しているかもしれない。
 いや、それは淡い期待というものだろう。
 この炎が自然火であればその可能性もあるだろうが。
 この火災は明らかに違う。何らかの方法で、強制的に燃やされているのだ。


「降ろしてください」
 ここで引き返すわけにはいかない。
 任務は、この街に隠されたカイロスの刃をニューキーツに持ち帰ること。
 手ぶらで帰るわけにはいかない。
 炎がすごくて、なんていい訳はしたくない。
 私はハクシュウの、右腕……。
 それに、ンドペキに会わせる顔がない……。

 スジーウォンの言葉が聞こえなかったはずはないが、セカセッカスキは唸ったままだ。
 相変わらず艇は、街の上空を旋回し続けている。
 煙に巻かれながら、時として視界が失われる。
 猛烈なエネルギーが大地から噴出するかのような炎。
 その発する熱が、飛空艇の中にも伝わってくるようだった。
 スジーウォンは再び言った。
「ここで降ろしてください。でも、この高度じゃ私達、降りれないので、もう少し低いところで」
 私達、と言ってしまっておきながら、スミソは飛空艇に残って、私の死の顛末を皆に伝えて欲しい、とも思った。


 依然として飛空艇乗りは、何も応えない。
「降ろしてくれるだけでいいです。迎えはいりませんし、待っていただかなくても結構です」
 セカセッカスキは返事の代わりに、徐々に高度を上げている。
 スジーウォンは立ち上がった。
 スミソも立ち上がり、親指を立ててみせた。

 と、サブリナが口を開いた。
「あなたたちの目的。あるものを手に入れることじゃない?」
 ぎくりとした。
 やはり、この女はそれも知っていたのだ。
 確かにこの状況で、ある人に会うために、という説明は意味をなさない。
「私の想像だけど」
 サブリナは床に視線を落としたまま、静かに、しかしきっぱりした声で言った。
「ニューキーツからこんなところまで、しかもフル装備の兵士が二人も来るなんて」
 と、眼を上げた。
「それ以外に考えられないもの」

 サブリナが立ち上がった。
 そして、セカセッカスキの肩に手を置いた。
「ハッチを開けるわよ」
 と、ハッチのレバーを握った。
「ここで飛び降りるのは、私」
「えっ」
 サブリナが微笑んだ。
cont_access.php?citi_cont_id=706025280&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ