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サントノーレ 作者:奈備 光

2章

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15 飛空艇エスエスエス〇三〇二

 ロア・サントノーレまでの航行時間は、約二十分。
 普通の長距離飛空艇は高度一万メートルほどを飛ぶが、セカセッカスキの飛空艇は一万五千メートルほどの高度を飛ぶ。
 空気が薄く、エンジンの燃焼効率は高くないが、強力な反重力物質を盛大に使用しているおかげで、推進力に見劣りはしない。
 航行高度が高いことで空気抵抗が少なく、それだけ速く飛ぶことができる。
 しかも、大気の乱れもなく航行はきわめてスムース。
 完璧な自動操縦も可能だが、飛空艇乗りはあくまでマニュアル操縦だ。

 セカセッカスキが手塩を掛けて開発した最新鋭機。
 航行のための機材はどれもセカセッカスキ自身の手によるもので、最高のチューンナップが施されている。
 しかも、砲撃も可能。シールドまで備えているから、戦闘機としても地球最強であるといえた。
 昨夜、最終のセットアップが完了し、今朝、初飛行である。
 自慢はしなかったが、これがこの男の喜びなのだ、ということがひしひしと伝わってくる。
 そんな操縦だ。
「二百年も前の核融合エンジンだ。そんなものでも、使いようによっちゃ」
 と、強烈な重力を搭乗者に負わせて急上昇した。
 艇は快適性などお構いなしで、やたらとうるさいし、しかも寒い。

 地球上の航路は、各街が運営している定期便が結んでいる。
 二人乗り、四人乗りがほとんどで、一人で乗ろうが定員分のチケットが必要だ。
 主要な街の間には数秒おきには飛んでいるので、好きなものに乗ればいい。
 もちろんパイロットなどはおらず、すべて衛星からの自動操縦である。

 なんだか懐かしいわね。
 スジーウォンは、そんな言葉を飲み込んだ。
 ひと昔の飛空艇といえば、まるで個人仕様のエンターテイメント空間だった。
 もちろん、すべてバーチャルである。
 エアポートにぎっしり並んだ扉を開けると、そこはコンサート会場のチケット売り場の前であったりする。そのままコンサートを熱狂しながら見終わり、劇場の外に出ると目的地に到着しているという具合だ。
 動物と戯れることもできたし、森の中を散策することもできた。自分の胸の中にある思い出のシーンを再現することもできた。
 いまや、そんな戯言めいたサービスなどない。

 他方、個人所有の飛空艇にはそんな趣向を凝らしたものも多いと聞く。
 それに対して、セカセッカスキのような飛空艇乗りの艇はさまざまだ。
 チャーター便として好きにコースを選べるが、非常に高額であるし、めったなことでは乗せてはくれない。

 個人営業の飛空艇は、カイラルーシには十軒ばかりあるという。
 アビタットの話では、あれでもセカセッカスキがもっとも頭が柔らかいということだった。
 それに飛空艇の開発にも熱心で、自身で飛ぶことに喜びを持っているということだった。
 昨夜のぶっきらぼうが嘘のように、セカセッカスキは鼻歌でもでも出そうな勢いで、操縦桿を操っている。


「けっ、早速のお出ましだ」
「エスエスエス〇三〇二に告ぐ!」
 艇がセカセッカスキの個人用ポートから飛び立つや否や、政府の戦闘機が追尾していた。
「貴機の進路は、飛行禁止区域に向かっている! すぐに進路を変更されよ!」
 艇の窓から相手は見えはしないが、どこか下の方にいるのだろう。

「どうする?」
 セカセッカスキは聞いてきたが、本人は進路を変えるつもりなどさらさらないようだ。
「無視するぞ」
 と、フラストレバーを目一杯に傾けた。
「ついて来れるものなら、来てみろってんだ」
 がくんと、機体がひっくり返るかと思うほど持ち上がり、乗客はシートに押し付けられた。
 艇はますます上昇していく。
「いや、待て。あいつらの言い分も聞いておこうか」

 せっかく上昇したのに、セカセッカスキはスピードを落とし、たちまち元の高度まで降りていった。
 再び通信が入ってくる。
「ロア・サントノーレは立ち入り禁止だ!」
「分かってるぜ!」
「これ以上進むと、嫌な手段を取らなくてはいけないことになる!」
「こっちはお客さんを乗せているんだ! 商売の邪魔をするな!」

 戦闘機が何機いるのか分からなかったが、セカセッカスキは悠然としている。
 むしろ、状況を楽しんでいる。
「文句はお客さんに言ってくれ!」
「セカセッカスキ! 俺達に立てつく気か!」
「いいや、滅相もない。俺は俺の仕事をしているだけだ!」
 セカセッカスキが、にやりと笑って、
「しっかりつかまってろよ。気分が悪くなったって降りるわけにはいかないぜ」
 と、機体がまた一気に上昇を始めた。
 かと思うと、急降下だ。

「セカセッカスキ! ふざけているのか!」
「いいや。お客さんにフライトを楽しんでもらっているのさ。これもサービスなのさ!」
 窓の外の景色がめまぐるしく変わっていく。
 とはいえ、雲海と抜けるような青空だけだが。
 普通の人間なら、当の昔に三半規管がいかれているだろう。
 スジーウォンやスミソは平気だったが、アビタットもサブリナも平然としていた。


 セカセッカスキが振り返って、にやりと笑った。
「さてと、どうするかな」
 この飛空艇なら、街の戦闘機など、振り切ることは容易だ。  
「それとも、こいつを試してみるかな」
 位相を瞬時に変え、敵機のレーダーからも衛星からも、姿をくらますことができるという。
「まあ、やめておこう。逃げたと思われるのは癪だからな」

 管制官の声が叫んでいる。
「止まれ! 引き返すんだ!」
 戦闘機も無人で自動操縦。
 それなりについてくる。ある程度の攻撃力があるのだろう。
「行かせるわけにはいかない!」
「セカセッカスキ! 考え直せ!」
「お客さんをここで死なせるわけにはいかないだろ!」

 戦闘機は少なくとも四機。
「まあ、そういうことになるだろうな。サブリナ。予想はしてたんだろ。どうする?」
 どんなに脅されてもセカセッカスキは余裕綽々で、サブリナに意見を求めている。
 戦闘機をもてあそぶかのように、上下左右に激しく位置取りを変えている。
 しかし、万一ここで撃墜され、空中に放り出されたら、フル装備の兵士でもさすがに無事ではすまない。
 ただ、スジーウォンは少しの不安も感じなかった。
 それほど、セカセッカスキの態度は自信に満ちていた。
 奥の手もあるのだろう。


「そうねえ」
 サブリナの方も、悠長なもの言いで、逡巡している。
「逃げるのはいつでもできるとして、もう少し彼らから情報を得たいわね」
 などと、呑気なものだ。
「了解」
 と、セカセッカスキが再び管制官と通信を繋いだ。

「おい。聞きたいんだが、なぜロア・サントノーレに近づいてはいけないんだ?」
 管制官は押し黙ってしまった。
「お客さんは、上空からでも見物したいと言っているんだぞ。何でも、故郷なんだとよ」
「なに! 故郷!」
「なんだ? 妙なところに引っかかるな」
「搭乗者はロア・サントノーレ出身者か!」
「まあ、そういうことになるのかな。俺は知らんよ」

 まずかったかな、というようにセカセッカスキが舌を出した。
 飛空艇乗りは、明らかに状況を楽しんでいた。
 しかし、通信機から聞こえてくる声は、それを許すまじという気迫がこもっていた。
「セカセッカスキ! とうとう焼きが回ったな!」
「貴様を撃墜する十分な理由ができた!」


 見れば、いつの間にか、戦闘機四機がすぐ後ろに迫ってきていた。
「ちいとまずいかな」
 セカセッカスキがスロットルに手を伸ばしかけたときだ。
「待って!」
「ん?」
「あれ!」
「あっ!」
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