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サントノーレ 作者:奈備 光

2章

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14 物騒な話、退屈な話

 カイラルーシ軍に阻止されたときの自分達の行動は決まった。
 スミソと話し合っていないが、自分に指揮権がある。
 飛び降りるのである。
 ただ、そのときサブリナとアビタットに、妙に義理立てされても困る。
 彼らが深刻に思わないような、それらしき「任務」を、捏造しておくしかないか……。

「実は……」
 どう話すべきか。
「私もある人を探している」
 そんな言葉が口から出た。
 スミソが、ちらりと目を向けたが、何も言わない。
 彼は知らない。もうひとつの私の目的を。

「数週間前、死んだ。ロア・サントノーレで再生されるはず……」
 言ってしまおう。
「ハクシュウという男」
 私達のリーダー。ニューキーツの攻撃隊隊長。
 今度は、スミソがはっきり目を剥いた。
 そして、かすかに舌打ちしたように見えた。

「彼に会いたいのよ」
 そして、ニューキーツに戻ってきて欲しいから。
「いろんな意味でね」
 ンドペキは優秀だし、信頼もしている。
 そこにハクシュウが戻って来てくれれば、どれほど心強いだろう。


 アビタットは、ふうん、と応えただけだったが、サブリナは興味があるのか、目をしばたかせた。
「そう。色々な意味で」
 そう応えたのは、スミソだった。
 彼にしてみれば、ハクシュウを出汁にしておくというのはいい思いつきだ、と思ったのかもしれない。
 本来の任務を話すわけにはいかないのだから。

 ハクシュウが同じものを追っているということを、スミソは知らない。
 あくまでペアとして選ばれた隊員。
 常に冷静さを失わない。
 しかし、臆病ではない。チョットマと共に、荒地軍を引き付けるために飛び出していったことは、まだ記憶に新しい。
 相手を引き込む素顔と声と、そして安心感を与える話し方をする。
 破壊力は大きくはないが、俊敏性はチョットマに次ぐ。

 思えば、奇妙な作戦である。
 秘密ではないものの、全貌が隊員に明かされることはなかった。
 今までなかったことである。
 ンドペキは、スジーウォンには話しておくと言って、その本当の目的を話してくれた。
 地球を救うため。そして、チョットマの身を守ることになるかもしれないということを。
 エリアREFの市長とやらに、頼み込まれたということも。

 スジーウォンにとって、それらはどうでもいいというわけではないが、心を捉えているのは別のことだった。
 もし、ロア・サントノーレでハクシュウと出会えば、協力して任務を遂行することになる。
 任務のためにも、ニューキーツのためにも、ンドペキ隊のためにも、それがとても重要なことのように思っていた。
 もちろん、自分のためにも。


 サブリナはもっと聴きたいというような顔をしていたが、話はこれで終わりだ。
 名前まで出して、自分達の目的は人捜しだと伝えたのだから、十分だろう。
 任務とはいえ、個人的な用件だというように聞こえただろうか。
 係わり合いになることはない、というように伝わっただろうか。
「カイラルーシ軍がどれ程のものか知らないけど、逃げおおせてみせるさ」
 そういって、スジーウォンは話を締めくくった。


「僕は」
 アビタットが話す番だ。
 しかし、そう言ったきり、なかなか言葉が出てこない。
 ようやく発した言葉は、行かなくちゃいけないような気がして、というあいまいなものだった。
「ロア・サントノーレに知り合いがいるはずで……」
 言いにくそうだ。
「そいつに用がある、ということなんだけど……」

 アビタットの用件。
 スジーウォンにとって、どうでもいいことだった。
 彼が向こうで何をしようと、関係はない。
 むしろ関心があるのは、サブリナの方だった。

 それに、セカセッカスキがニューキーツに向かってくれるという、先ほどの自信に満ちた顔。
 会いたい人がいるというが、それが本当の目的だろうか。
 忘れたことがないというのなら、なぜもっと早くに。
「そいつは……」
 アビタットが話している。
 サブリナは真剣な目をして、少年の話を聞いていた。

 スジーウォンはふと思った。
 サブリナとセカセッカスキの間で、ある程度の話はできているのではないか。
 店での話ぶりは初対面ということではなかったし、むしろ親しい関係にも見えた。
 カイラルーシ長官、ジュリエットの件。
 セカセッカスキと長官とどんな関係が。
 それをサブリナが知っている……。

「そいつを殺さなくちゃいけない」
 アビタットの言葉に、スジーウォンはたちまち我に返った。
「殺す?」
 サブリナが驚いた。
「ああ。そんな気が……」
「物騒な話ね」
「まあね!」
 と、アビタットがはじけるように笑った。


 殺すのか……。
 確かに、ローブの下は完全武装である。
「話し合いで済むならいいけど、まず無理だろうな」
 なんとなく、アビタットは自慢げだ。
「ひとりの人間を助けるために、ひとりの人間を殺す」
 アビタットは半分ふざけたように言うが、この少年ならやりそうだと思った。

「それが誰なのか、聞いても言わないんでしょうね」
 サブリナの言葉に、少年は当然だといわんばかりに、胸を張った。
「そいつを殺せば、もうひとり殺すことになるだろう」
 などと、煙に巻くようなことを言う。
「復讐の始まりだ」

 スジーウォンは、アビタットは放っておいてもいい、と思った。
 地上に降りることができたらできたで、協力することもあるだろうが、別行動をとることになるだろう。
 少年の復讐劇に加担するつもりはない。
 こちらの任務は、どちらかといえば目立たないに越したことはない。
 カイロスの刃とやらを手に入れればいいのだから、盗み出しさえすればいい。

 ただ、それがどこにあるのか。
 どんなふうに守られているのか。
 得ている情報は少ない。
 目指すカイロスの刃は、街の中央にある広場の泉に無造作に放り込んである、ということ。
 そして、ンドペキが照れくさそうに話してくれたこと。
 泉の水に少しでも触れた者は、たちまち石になる……。
 そんな、おとぎ話のような伝承だけが頼りである。
 何とかして、もっとまともな情報を集めなくてはならないが、街に協力者はいない。
 少年の刃傷沙汰に付き合って、得することは何もない。


「後の世に、ロア・サントノーレの惨劇と語り継がれることになるだろう」
 などと、アビタットは面白がっている。
 先ほどの逡巡はどこへやら。
 サブリナは幾分持て余したのか、努力して笑顔を作っている。
「本当なんだぞ」

 しかし、この少年は本気だ。
 彼が茶目っ気たっぷりに話せば話すほど、そんな気がするのが不思議だった。
「じゃ、証人になってやる」
 と、スジーウォンは調子を合わせた。
「そういうこと! これ以上、聞かないで!」
 アビタットは、これで自分の話は終わりだというように、残った夜食を平らげ始めた。

 スジーウォンは、街の様子を聞いてみた。
「そうだなあ」
 アビタットは、肉を頬張りながら、話してくれる。
 街の構造は、特別なものではないという。
「普通に城壁があって」
 カイラルーシの街の飛び地だということになっているが、地下都市ではない。
「わかりやすいと思うよ。道も建物も整然としているから。市民も、見た目は普通だしね」
 ただ、連帯感は非常に強くて、よそ者には優しくないらしい。
「なにしろ、田舎だから」
 それなりの軍は保持していているが、もっぱら殺傷兵器から街を守っているらしい。
「でも、僕も初めて行くんだ!」


 話題が途切れた。
 スジーウォンは、ジュリエットとセカセッカスキの関係について聞いてみた。
 答えが返ってくるとは思っていなかったが、案の定、サブリナは一言だけ。
「長官付きの飛空艇乗り」
 と、肩をすくめた。
 だったのよ、という言葉を添えて。
 まあ、いい。
 あの一言で、セカセッカスキはオーケーを出したのだから。
 自分たちには関係のないことだ。

 しかし、アビタットが反応した。
「サブリナ、なんでもよく知ってるね!」
 そんなふうに言いながら、目は笑っていない。
 警戒心はまだ解けないのだろうか。
 あるいは、長官と一飛空艇乗りの関係は、興味のあることなのだろうか。
 サブリナも首をすくめただけで、話題を繋いでいこうとはしない。
「街の噂。ありきたりよね」
 そうしておきたいのかもしれない。


 サブリナは特殊な能力を持っているのかも。
 スジーウォンは、アビタットがそう言ったことを思い出した。
「いずれにしろ、私は飛空艇に乗りたいだけ」
 飛びさえすればね、とサブリナが笑った。
「彼の飛空艇なら、ニューキーツであろうが地球の反対側であろうが、雑作ないのよ」
 今、サブリナは惰性で喋っているような雰囲気だ。
 それとも、何かを待っているのか、仕掛けようとしているのか。
 彼女の顔を見ているだけでは、なにもわからなかった。

「それにしても、驚いたわ」
 なんとなく、空々しい。
 場繋ぎの話題が続く。
「というより、やっぱり、と言う方がいいかな」
「なにが?」
「あなた方も、セカセッカスキに頼みに行くんじゃないかなって。半ば予想してたんだけど」
 つけていたわけじゃなく、たまたま同じ場所に向かっていたとでも言うのだろうか。
 今となっては、もうどうでもいいことだった。
「でも、よかった。あなた方がいてくれて、彼もやっとその気になってくれた」
 反応のしようもない。

「なにしろニューキーツは、内戦中でしょ」
 そのため、ニューキーツ行きの公式な定期便のフライトは、数週間前から運休になっているという。
 到着便は受け入れるが、出発はできない。
 そんな規制がかかっていたらしい。
「そんなところに飛んでくれる可能性があるのは、セカセッカスキだけだから。ねえ」
 と、サブリナが身を乗り出した。
「街は、どんな様子?」

 話すことはいくらでもあった。
 腹の探り合いのような、それでいて何の意味もないような、息の詰まる空気から開放されて、スジーウォンはつい饒舌になった。
 もちろん、長官レイチェルが死んだことは話せない。
 しかし、ンドペキ隊がいかに街の正当な軍であるかは、説明に困ることがなかった。
「ニューキーツか。僕も仕事が済んだら、行ってみようかな」
 アビタットがポツリと呟いた。
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