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サントノーレ 作者:奈備 光

2章

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13 サブリナ

 その夜、スジーウォンとスミソは、ホテルには泊まらなかった。
 サブリナの部屋に泊まることになったのだ。
「旅は道連れ、というより、お互いのことを少しは理解しあっている方がいいと思う」
 アビタットも不服そうな顔をしながらも、結局は一緒だった。

 サブリナの目的、アビタットの目的、そして自分達の目的。
 それぞれ違うはず。
 空港が閉鎖され、ロア・サントノーレに無事に行き着くかどうかも怪しい状況で、何らかの決断をするときが来るかもしれない。
 そのとき、セカセッカスキがどう振舞うかも予測できない。
 互いの利害を、合わせられるものなら合わせておきたい。
 という、サブリナの提案に納得したからだった。

 部屋は、それほど広くはなかったが、客三人がそれぞれ休むには十分な広さがあった。
「アビタット、あなた、荷物はないの?」
 サブリナが聞いている。
「この身ひとつで十分」
 なんとなく、アビタットはサブリナには心を許さず、というポーズである。
 確かに、尾行されていたスジーウォンにとっても、得体の知れない女という感触があった。
 しかし、任務の遂行第一、という観点からは、サブリナの素性を詮索する気はない。
 彼女も、飛空艇に乗りたい、ただそれだけならば。

 アビタットがちらちらと、こちらに目を向けている。
 もちろん、すでにヘッダーははずしている。
 ニューキーツのマナーに従い、セカセッカスキの店でも素顔を見せていた。
 そのときは感じなかったが、スミソもサブリナに警戒心を抱いているようだった。
 もともと無口な方だが、店でもここに来てからも、口を開いていない。


 簡単な夜食が振舞われた。
 明朝七時に、セカセッカスキの店に出向くということを決めた。
 後は、身の上話だろうか。
 そんな気分のひと時だった。
「ニューキーツに行きたいの」
 前にも聞いた、そんな言葉でサブリナが語り始めた。

「会いたい人がいる」
 ずっと忘れたことはない。
 しかし、会うことはかなわなかった。
 ようやく、その機会が来たの。
 サブリナがポツリポツリと話す。

 私にも会いたい人がいる。
 スジーウォンは想った。
 これまでずっと一緒にいたのに、こんな気持ちになったことはなかった。
 こんな気持ちになるとは思ってもいなかった。
 離れ離れになるまでは。

 なんだろう。
 この身持ちは。
 忘れていたものを唐突に思い出した。
 そんな気持ち。

「会って謝りたい」
 サブリナはそういう。
 私も。
 あんなにつっけんどんだったり、馬鹿にしたり。
 本当はそんなことを考えてはいなかった。
 今は思う。
 なぜか、そんなふうに振舞うしかなかった。あの頃は。
 自分の気持ちを隠すために。


「ロア・サントノーレに行きたいんでしょ。皆さんは」
「ああ」
「理由は聞かないわ」
 スジーウォンは、そのわけを話す気はない。
 アビタットにしてもそうなのだろう。
「うん」と、応えただけだ。
 もちろん、スミソは黙ったまま、食事を口に入れている。

 サブリナが会って謝りたい人。
 それが誰なのか。
 謝らなくてはいけないこととは。
 スジーウォンは関心がなかった。
 しかし、聞くのが礼儀かとも思ったが、理由は聞かないとサブリナに言われたことによって、その機会を逸した。

 サブリナが話題をリードしている。
「なぜ、ロア・サントノーレが立ち入り禁止区域に指定されたか、知ってる?」
「いや」
 知っているのなら聞いておきたかったが、彼女も、
「大変なことが起きているみたいなんだけど」
 というのみだった。

「うまく着陸できれば、それはそれでよし。でも、帰りはどうするの?」
 サブリナは、その足でニューキーツに向かいたいという。
「あなた方の用件がすぐにすむものなら、待っていてもいいんだけど……」
 セカセッカスキは、ニューキーツまで飛ぶとは言っていない。
 ニュアンスとしては、ロア・サントノーレ止まりだ。
「飛空艇乗りが、待つことを了解してくれたらの話だけど」
 サブリナは確信があるのか、二、三時間なら、といった。

「後のことは、お構いなく」
 ほんの数時間で任務が完了するとはとても思えない。
 探すべきものが、どこにあるのかわからない上に、住民のいわば宝を奪うのだ。
 抵抗があることは承知の上で、わずか二人で乗り込んできているのだ。
「僕の方も、そういうことで」
 アビタットも、そういってサブリナと一線を引こうとした。


「わかったわ」
 サブリナは意に介する様子もない。
「じゃ、もしもよ。ロア・サントノーレに行き着けないとしたら、あなたたち、どうする?」
 つまり、カイラルーシまで戻るのか、あるいはその足でニューキーツまで戻るのか、という。
「考えたこと、ないな」
「そうでしょうね。でも」
 サブリナの言いたいことはよくわかった。
 カイラルーシまで戻られたくはないのだ。

「今言えることは、すぐすごニューキーツに引き返すほど、どうでもいいような任務じゃないってことだ」
 言ってしまってから、少し堅苦しい言い方だったかな、と思ったが、
「僕もだ」
 と、アビタットもオウム返しにいった。
「でしょうね」
 サブリナが、脇に置いたヘッダーをチラリと見た。
「言いにくいことなんだけど、カイラルーシ軍と戦う用意はある?」

 考えていないわけではなかった。
 ロア・サントノーレの置かれた今の状況では、軍に阻止されることは、ありえないことではないだろう。
 ニューキーツを出るときは思いもしなかったことだが。
「……」
 何と応えるべきだろう。
「そのときに考えるかな」
 というしかないが、それが本心でもあった。


 実際、そんな事態になることは容易に想像できた。
 サブリナも、このことを一番に話し合っておきたかったのだろう。
「そのときか……」
 笑みとも苦虫ともつかぬ、微妙な表情をした。
 彼女にしてみれば、ロア・サントノーレ行きなど、寄り道でしかない。
 面倒を引き寄せるだけの、余計な行程である。

 ただ、現実問題として、空も飛べない自分達が、空中戦など演じようがない。
 地上に降ろしてもらうしかないが、相手はそんな時間の余裕を与えてくれるものだろうか。
「戦わずに、帰れるはずもない、か……」
 アビタットがそんなことをいった。
 ニヤリとしている。
 代わりに言ってやったよ、といわんばかりに。
「まあ、そういうことになる」
 と、応えるしかないが。

 うまく地上に降り、森林に紛れながら戦うとしても、あまりに多勢に無勢。
 しかも、敵地である。
 地上には、殺傷マシンもたむろしていることだろう。


 サブリナが見つめていた。
 勝てないよ、と言いたそうに。
 思い過ごしだろうか。
 今日始めてみせる真剣な眼差しだった。
 そう。勝てるはずがない。
 では、どうする。

 もともと、飛空艇を借りようなどという考えが、甘かったのか。
 人知れず、闇に紛れて街を立ち、荒野を進めばよかったのだろうか。
 いや、それこそ、カイラルーシ軍に筒抜けだ。突破できるほどの防衛ラインではないはず。
 今になって思っても仕方のないことだったが、この街に着いてからというもの、まともにスミソと話していない。
 相談する間もなく、サブリナに尾行され、アビタットと行動を共にすることになったのだ。
 そして首尾よく、飛空艇を手に入れはしたのだが……。

「戦うか……」
 サブリナが顔を伏せた。その呟きの意味を、読み取ることはできなかった。
「地上に降ろして欲しい。高度二百メートルほどなら飛び降りれると思う」
 スジーウォンは、それしかないと思い始めていた。
「で、あんたはそのままニューキーツに向かえばいい」
 カイラルーシに引き返せば、もう二度とロア・サントノーレに近づくこともできなくなるだろう。

 しかしそのとき、アビタットはどうするのだろう。
 半ば予想してしていたが、
「僕も飛び降りる」と、いった。
「うーん……」
 サブリナは考えているようだった。
 悩むことはないはずだ。
「あんたには、関係ないことだから」
 そういっても、顔を上げようとしない。
「それじゃ、あんまり……。あなた方を裏切ることに……」
 いや、そうじゃなく、あんたたち二人、足手まといになって欲しくない。
 スジーウォンは心の中で言った。
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