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サントノーレ 作者:奈備 光

13章 解決編2

117/118

117 口を尖らせて

 レイチェルが再び語り始めた。
「今、お話したのは、キャリーのお話。私、レイチェルの話じゃない」
 なるほど。
 これはレイチェルでなければ話せない内容だ。
 ンドペキは、レイチェルが本当にすべてを語るつもりなのだと思った。


「んーと、ややこしいけど、なんて言うのかな。キャリーが次元を遡って私になったんだけど、違う人間というのかな」
 もちろん、キャリーの記憶をそのまま持っている。
 だから、私、詳しいことは分からないけど、この先どうなるか、ある程度は分かっていたの。
 たとえば、エーエージーエスに閉じ込められた時、助けてもらえることは分かっていた。東部方面攻撃隊に。キャリーの元へ、その情報が上がって来ていたから。

「ずるいでしょ。アヤは私のことを強いねって言ってくれたけど、そうじゃない。助かることが分かっているから頑張れた」
 こんなこともあった。
 政府の軍が来た時、ロクモンじゃないかと思ってた。ロクモンが東部方面攻撃隊に合流した情報が入って来ていたから。
 それなのに、知らん振りしてて、本当にごめんなさい。


「もう、いいんじゃないか。そんなことまで暴露しなくても」
 ンドペキはこれ以上、聞かなくてもいいと思った。
 これでは、レイチェルの懺悔はいつ終わるともしれなかった。

「ううん。ンドペキ、話したいの。私のこと、みんな、勘違いしてると思うから、今、ちゃんと話しておきたいの。本当の私を分かってもらいたいから。そして、少しだけでいい。できることなら、許して欲しいから」
「そうか……」
 では、心置きなく話せばいい。
「でも、いちいち、ごめんなさいというのは止めてくれ。だれも、おまえを責める気なんてないんだから」


 レイチェルは小さく頷き、再び語り始めた。
「騎士団のこともそう。彼らがどこに潜んでいるか、知ってたわ。でも、彼らと合同作戦をとることは気が進まなかった」
 なぜなら、彼らは私の傍を離れない。私を守ることを最優先する部隊だから。
 勢い、私もあそこからの侵攻作戦に参加することになってしまう。戦闘が怖いんじゃないわ。ンドペキ達の足手纏いになることが目に見えていたから。
「ンドペキは、きっと」
「ん?」
「私を……」
「ああ、守ろうとするだろうな」
「ごめんなさい……」
「それを言うなって言っただろ」

「それに、私、あの頭の固い連中に愛想を尽かしていたというのかな、彼等は立場を貫いているんだけど、なんというか、許せない、という気持ちだったの」
 みんなが苦しんでいるのに、私だけを守ればいいっていう、そういう考え方が。
「あ、そうそう。チョットマ、私に代わって、すごく格好いい檄を飛ばしてくれたそうね。ありがとう」

 珍しくチョットマが頬を染めた。
「ごめん。勝手なことして」
「ううん。本当にありがとう。結局、騎士団はあまり役に立たなかったけど、彼らが動いてくれたおかげで、アンドロ軍をかなり足止めできた」
 アンドロ軍の主力が騎士団に向かったおかげで、キャリーの軍は背後を突けたのだし、ンドペキ隊はやすやすと侵攻できたのだという。


「私ね……、ずっと考えてた。前長官のキャリーとしてじゃなく、レイチェルとして」
 レイチェルの話が新しいモードに入っていくのが分かった。
 ンドペキにも、その概略を想像することができた。
 きっと、コリネルスやスジーウォンにもできただろう。
 今、レイチェルの本心からの打ち明け話を聞いた後なのだから。

「みんなと一緒にいて、大げさに言えば、生きていくことって、こういう、なんていうか、もっと一生懸命にならなくちゃって」
 私の見ていたことって、ちっぽけなことっていうか……。
 私だけが特別なんじゃなくて、みんな、誰もそれぞれに思いがあって……。
「当たり前だと思うでしょ。でも私、ずっとホメムやって、長官やって、大事なことが見えていなかったみたいな気がして」


 レイチェルが改めて部屋に集まった人々の顏に、順番に目をやり、最後にチョットマに止めた。
「わたし、チョットマをぶったことあるよね。洞窟で。それからあのときも……」
 レイチェルの視線がンドペキに向かった。
「それまで、チョットマもンドペキも、誰もかれも、何も分かっちゃいないんだって思ってた。今にして思えば、被害者意識の塊みたいに」
 でもやっと私、自分がひどい女だって気がついたの。
「チョットマ、痛かったでしょ。チョットマは何も悪くないのに。自分の思い通りにいかないからって、人に手を上げるなんて」

 レイチェルが隣に座っているチョットマに手を伸ばした。
 チョットマが、照れながらもその手を握った。

「パリサイドのKW兄弟に助けてもらってから、少しづつだけど、自分が見えてきたの。それと同時に、周りの人のことが少しだけ理解できるようになってきたの」
 レイチェルは一拍の間をおいて、宣言するように言った。
「そして、私、もうキャリーじゃないんだって」
 そして半ば叫ぶように言った。
「頭の固いオールドミスの、自己中心的な女じゃないんだって」
 そして涙ぐんだ。
「キャリーだという意識は依然としてあるけど、私、レイチェルなんだって。みんなに囲まれて、ンドペキに、おまえ! いい加減にしろって怒鳴られてなんとなく喜んでる、そんな女の子、レイチェルなんだって」


「変なこと言うなよ。誤解の元だろ」
 ンドペキは冗談めかして、レイチェルをたしなめる振りをした。
 レイチェルの息は明らかに上がっていた。
 肩で息をしている。
 一息つかせてやりたかった。
 込み上げてくる涙をこらえさせてやりたかった。

「いいじゃない、もう。わたし、振られたんだから」
「また、そんな」
 レイチェルの笑った頬に涙が一滴流れた。


「最後に一言、いい?」
「身体のこと考えて、手短にな」
「うん。もっとしなくちゃいけないことがあるって気がついたの。子供を産んでホメムの血を守って、というようなことじゃなく」
 私そもそも、時間を遡って、純正のホメムって、もう言えないかもしれないし。
 エリアREFの部屋で寝ながら、真剣に考えた。
 自分に何ができる、って。
「普通に友達とおしゃべりして、誰かを好きになったり。そして、時には真剣に何かに取り組んだり……」

「そうしてるじゃないか」
「ううん。長官らしいこと、みんなの役に立つこと、何もしてない」
「そんなことはないさ」
「ううん。それでね。さっきパリサイドの船長に話したの。長官を辞めますって」
「えっ」
「もう、ニューキーツの街もないんだし。もし、市民を纏める誰かが必要なら、適任者を推薦しますって」
「おい!」
「ンドペキを、って」

「なんだと!」
「そう思うって」
「ふざけるな! 俺は、そんな気はない。絶対に断る! 勝手なことを言うな!」
「そう言うと思った。でも」
「でももしかもあるか! おまえ、いい加減にしろ!」
「そうよね。じゃ、選挙ってのは? もう廃れてしまった方法だけど」

「いい方法にも聞こえるけど、それはダメだよ」
 ライラが久しぶりに口を開いた。
「市民の代表になれる奴なんて、いないよ。今は。それに、レイチェルが適任だとみんなが思っている」


 ふとンドペキは思い出した。
 長官として重責に耐えながら恋人探しをするレイチェルを、かわいそうだと思った日のことを。
「レイチェル」
「なに?」
「その、なんだ、まあ、おまえしか。ライラも言ったように……」
「……うーん」

 レイチェルが涙を拭った。
「んーと、長官が誰かなんてことじゃなく、もっと大切なこと。船長にはこういうことを話したの」
「うん?」
「パリサイド、アギからパリサイドになった人、マト、マトからパリサイドになった人、メルキト、アンドロ、クローン、そして偽ホメム、みんな人として同じじゃないかって」
 グループを意識する必要もないんじゃないか。
 みんな同じ。
 みんな同じ人類。

「昔、人種の壁、民族の壁、国境という意識は消えたでしょ。人類はそれを乗り超えたじゃないって。今、もう一度それができないはずはないって」
「ああ」
「船長も同意してくれたよ。元々、パリサイドにはそういう垣根の意識はないって」


 コリネルスが発言した。
「それでこそ、ニューキーツ長官レイチェルってことだな。君でなければ出てこない発想だし、君でなければ言えないことだ」
 拍手が起きた。
「コリネルス、ありがとう。でも、もう私、長官なんてできない。そんな気がしないもの」
「まあ、いいじゃないか。まだ、体調も万全じゃないんだから」

 ンドペキは立ち上がった。
「さてと、そろそろ夜も更けた。コリネルスが上手に纏めてくれた結論を持って、お開きにしようか。すべての謎は解けた、ってことでいいよな。最後に、聞いておきたいこと、ある?」

「聞いてみたいことはある」
 そう言ったのは、コリネルスだった。
「強いて答えて欲しいとは思わないが」
「なんだ?」
「ンドペキ、おまえとイコマ、もしかして同一人物なんじゃないか?」
「んっ!」
「最初、アヤはイコマを父親だと言った。今は、ンドペキと家族だという」
「……」

「そう感じることがある。というだけのことだ。たいしたことじゃない」
 ンドペキは思わずユウとイコマを振り返った。
 どうする?
 頷くユウ。
 そして、ゆっくり口を開いた。


「そういうことにしたのは私。個人的な事情があって。それはね」
 ユウがすべてを語った。
 六百年前にユウが仕組んだことも含めて。
 部屋から驚きの声が上がった。

「すまない。隠していて」
「なんてことはないさ。大助かりだったんだから」
「いや、まことにすまない」

 案の定、チョットマが呟いた。
「パパ、ひどいよ……」
 そしてンドペキに向かって、口を尖らせてみせた。
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