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サントノーレ 作者:奈備 光

13章 解決編2

116/118

116 あの時なにを

 私は、いよいよ自分の隊を組織する必要に迫られました。
 そうしないと、アンドロの軍に政府も街も完全に掌握されてしまう。
 人選などと、悠長なことは言っていられません。
 急ぐ必要がありました。

 そうしてやっと組織したのが、騎士団を模した軍です。
 解体した防衛軍や親衛隊から、これぞという人物をかき集めました。
 白装束の軍です。
 大きな組織は必要ありません。少数精鋭でよかった。
 まだ、目立つ存在になっては困るからです。
 敵であるアンドロが、タールツーの正規軍と勘違いして、大挙して参加して来られるのは困るからです。

 少しづつ、私の軍は効果を発揮し始めました。
 タールツーの私兵がエリアREFにも攻め込んでいたそうですが、散発的なものだったとか。
 徐々にではあるけど、長官室周辺を皮切りに、正門付近や主要な流通ルート、そして街を掌握し始めていました。
 戦闘によってではなく、共闘関係にある軍同士の制圧範囲の調整として。
 比較的、これはうまく進みました。
 なにしろタールツー自身が率いる隊ですから。


 そうしておいて、それまで兼務していた治安省長官の座を降り、ヌヌロッチを送り込みました。
 残党を炙り出すために。
 シェルタに籠ってしまった騎士団に対しては、動きを封じ込めるため、長官室に通じる通路を封鎖しました。
 今頃のこのこ出てきて、矛を向けられても困るからです。
 そして、万一出てきた時の時間稼ぎのために、バーチャルな仕掛けも構築しました。

 いずれ東部方面攻撃隊がレイチェルを擁して、参戦してくれるだろう。
 そうすれば、一気にアンドロ軍を潰そう。
 私は、レイチェルに捕らえられればいい。
 そんな期待が高まりました。
「目鼻がついた時点で、東部方面攻撃隊に送った使者は無視されたけどね」


 私はずっと、レイチェルが東部方面攻撃隊に保護されていることに、なんの不安もありませんでした。
 レイチェル死亡との情報もありましたが、私は全く取り合いませんでした。
 全然、心配していなかったのです。

 その理由は、彼女が、私が、なんですけど、ンドペキと共にいるという情報を信じていましたし、ンドペキ隊の力量も信じていましたから。
 レイチェルの身に危険が及ぶとは思いもしなかったのです。
 それに、レイチェルがエリアREFに地下深く、どこかにいて、マリーリとハワードがついているという情報も入って来ていましたから。


 いずれにしろ、ようやくタールツーの残党を掃討する準備が整いました。
 後は、いつタールツーの名を捨て、キャリーを名乗るかです。
 しかし、これが非常に難しい判断でした。

 私はその判断を、つまり行動に出ることを、先延ばしにしていました。
 今日にでも、明日にでも、東部方面攻撃隊とレイチェルが攻めてきてくれるのではないか。
 そして、タールツーである私を捕えてくれるのではないか。

 そうすれば、元々描いたシナリオに戻すことができる。
 レイチェルが長官に返り咲き、私は、そう、レイチェルの部屋の掃除婦にでもなればいい。表向きは。
 実際はレイチェルの傍にいて、あの計画を……。
 レイチェルは誰かと恋をし、結婚し、子供を産み、私はそれを陰から祝福すればいい。
 そんなシナリオに。


 それはそれは、東部方面攻撃隊の侵攻を首を長くして待っていたのです。
 もちろん、アンドロ軍を表だって攻めることはまだできません。
 軍の力量が足らないのです。
 それに、シナリオが崩れてしまいます。
 私はアンドロを少しづつ削減していく活動を続けながら、待っていました。

 そして、やっと待ちに待った日がやってきました。
 ンドペキ率いる東部方面攻撃隊が攻め込んできたという情報が入ってきたのです。
 加えてレイチェル騎士団も動き出したと。
 そして、なんとカイロスを起動させるという情報までも。


 すべてのことが一度に起きました。
 元々描いていたシナリオは崩れ去りましたが、中間をはしょれば結果は同じことです。
 ついに、カイロスが起動されるのですから。

 直ちに私は自分の部隊に、ンドペキ隊を援護するように命じました。
 ただし、できれば隠密裏に。
 いざとなれば、共闘していることを明らかにしてもいいが、にわかには信じてもらえないだろう。
 裏で動く方が好都合だと指示しました。
 騎士団は無視していい。余力があれば助けてやれ。
 まずはレイチェルとンドペキの命を守れ、と。
 なぜか。
 そのとき既に……。
「私の口から言わないでも、わかりますよね」


 そうして、私はあの芝生の広場で待ちました。
 カイロスはあの広場で起動されることになっていたからです。
 職員に、建物の奥へ避難するようにアナウンスを命じました。
 オーエンの声を、私も聞いていたからです。
 ベータディメンジョンへのゲートがどこに開かれるかを知っていたのです。

 ヌヌロッチには、あらかじめ、暫定長官として指示を送ってあります。
 避難してくる市民の対応をするようにと。
 レイチェル名では、SPを解任すると。
 SPを解任すれば、ヌヌロッチがベータディメンジョンで心置きなく力量を発揮してくれることを信じていましたから。


 できるだけ多くの市民を、ベータディメンジョンに避難させなくてはいけません。
 ニューキーツ長官として、これはすべてに優先する事項です。
 ただ、私は市民より一足先に行かねばなりません。
 避難してきた市民の対応をしていられないからです。
 私は、タールツーとしても、キャリーとしても、市民の前に立つわけにはいきません。
 顔を見られることなく、直ぐに時間を遡るつもりでしたから。


 広場には、チョットマという女性隊員がカイロスの刃を持ってやってきました。
 彼女には悪いのですが、ここは、長官である私に任せて欲しいと言いました。
 というより、これは歴代ニューキーツ長官に受け継がれている最も重要な責務のひとつなのですから。
 そして私はマリーリと共に、ベータディメンジョンに駆け込みました。
 不安は全くありませんでした。

 マリーリの案内で、時代を遡る門に向かいました。
 目を丸くしている門番の女の子をやり過ごし、次元を移行し、時間を遡りました。
 移行した先はエーエージーエス。
 いったん外に出て、マシンに注意しながら荒野を通過しました。

 ニューキーツには正門から戻りたかったからです。
 レイチェルが突然沸いて出た娘ではなく、カイラルーシかどこか、別の街に預けていた娘が帰ってきたという記録を残したかったからです。
 偽の死の間際に、ヌヌロッチや門番には、何年先になるかわからないけど、そういう娘が来ればが迎えに出るように指示をしてありました。


「以上が、キャリーの取った行動です」
 みんな、ごめんなさい。
 レイチェルがそんな言葉で話を締めくくった。

 チョットマが立ち上がった。
 ンドペキは、不安になった。
 まさか、レイチェルをひっぱたくんじゃないだろうな。
 慌てて腰を浮かせたが、チョットマはテーブルへ向かう。
「レイチェル、ごめん。気が利かなくて。はい」
 水を手渡した。
「喉、乾いたでしょ」

「チョットマ……、ありがとう。あなたには……」
「もう、いいじゃない。というより、こちらこそ、ごめんなさい。レイチェルがそんなに大変な苦労してたこと、全然知らなかった。なのに、反発ばかりして」
 レイチェルがチョットマの手を取った。
「私ね。まだもう少し、話がしたい。いいかな」
「うん。聞きたい」
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