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サントノーレ 作者:奈備 光

13章 解決編2

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115 もう二度と頼るまい

 タールツーの解体処理は秘密裡に行われる。
 アンドロにその処分理由を知らせないため。

 私は死んだことにすれば、タールツーにすり替わることができる……。
 そうすれば、その女の子、実は私自身なんだけど、をホメムとして長官に据えることは容易い。
 他のホメム達も、疑いを持つことはないだろう。
 最初からキャリーの娘だということにしてあれば。
 たとえ疑いを持ったとしても、ことを荒立てる人はいないはず。
 ホメムは滅亡へまっしぐらの状態だから。
 タールツーに関しては、心を入れ替えたと始末書でも出し、それを長官として保証すれば……。

 時間の余裕はない。
 タールツーの解体処理はすぐ。

 私は決断しました。
 タールツーの解体と同時に、タールツー名の始末書を書き、そこに署名しました。
 そしてその直後、私、つまりキャリーは死に、治安省長官の顔をすることにしました。

「それでね、その時、レイチェルが長官に就任したのよ」
 レイチェルがすっと顔をあげた。
 キャリーではなく、涙ぐんだレイチェルの顔があった。
 ンドペキは胸の中で、「レイチェル」と励ましの声を掛けた。

「不謹慎よね」
 当時、太陽フレアの不穏な動きは目立ったものになっていました。
 いよいよだっていう気がしていたから。
 世界がこんなになることを頭では分かっていたけど、私、自分の使命を果たすことしか考えていなかったんだ。
「使命って言ったけど、そのときはそう思っていた。今はもう、それが独りよがりだったって思うけど……」

 レイチェルがまた顔を伏せた。
 床に、涙が零れ落ちている。
「そうやって、私はタールツーに成りすまし、治安省で執務を執り始めたの」
 またひとつ、涙の雫が落ちた。
「私は、表向きはタールツー。誰にも知られず、入れ替わった」
 それは上手くいった。
 ところが、思っていた以上にタールツーの信奉者は多かった。
 ゲリラ的な軍事行動を受け持つ部隊まで存在していたの。
 省全体に、さらに言うと、アンドロの社会にタールツーの思想は浸透していたんです。

 それらのタールツー信奉者を放置するには、すでに彼らの組織は大きくなりすぎていました。
 彼らをあぶりだそうとしたけど、私自身がタールツーを演じることが、足枷でもあった。
 なかなか粛清は進まない。
 それどころか、情報も入ってこない、そんな状態が続きました。


 実際はタールツーの意図を離れて、信奉者達は自分の意志で活動を始めていたんです。
 私は焦りました。
 早く手を打たねば。

 でも、私の元の部下を大挙して治安省に移し、不測の事態に備えさせるわけにもいかない。
 そんなことをすれば、彼らは警戒して、ますますアンダーグラウンドに潜っていってしまう。
 あるいはベータディメンジョンにその本拠地を移されてしまえば、もうお手上げ。


 私は、いざという時のために、治安省付きの隊を構築しようとはしていました。
 レイチェルはすでに長官だったけど、まだ職員はじめ親衛隊も騎士団も掌握しきれている状態ではなかったから。
 将来は、合流させるつもりで。
 さまざまなところに情報提供者を配置し、人選を開始していました。
 そう。ヘルシードのマスターにも依頼して。

 一方で、レイチェルは恋人探しをスタートさせている。
 私は、陰で長官レイチェルの代役もしながら、多忙を極めていました。
 もちろん、顔を見せるような会議には一切出席せずに。


 そうこうするうちに、とんでもないことが起きました。
 パリサイドの問題で、政府中が浮足立っているときでした。
 レイチェルが捕えられたという情報が飛び込んできたの。
 続いて、エーエージーエスに閉じ込められたという情報が。

 レイチェルを助けなければ。
 直ぐに、救出部隊をエーエージーエスに派遣しなければ。
 しかし、まだ私の隊は機能していない。
 本来なら頼むところはレイチェル騎士団。でも、治安省長官の権限で動かすことは出来ない。
 親衛隊なら、防衛省の管轄。
 防衛省に掛け合ったところ、すぐに動いてくれました。
 ただ、公式作戦ではない。
 まさか、長官救出の作戦というわけにはいかなかったのです。


 オーエンがなぜ、親衛隊を壊滅させたのか、それは分かりません。
 パリサイドを憎んでいた。それを受け入れようとするニューキーツ長官へのあてつけだった。
 そんな理由もあるでしょう。
 でもきっと、ホトキンを連れてくる、そのためにこれ以上ない餌だと思ったのでしょう。
 そういう男です。
 他人のことは言えないけれど。

 結局、救出に向かった親衛隊は全滅してしまいました。
 それが、その後の戦闘を非常に不利な状況にしてしまったことは事実です。

 でも、幸いに、レイチェルは東部方面攻撃隊に救出されました。
 私の中で、東部方面攻撃隊の存在が大きくなっていきました。
 そこで私は、レイチェルの保護を東部方面攻撃隊に任せることにしました。
 レイチェルはアンドロ達の動きをほとんど知りません。
 自由に活動しようとするでしょう。
 街に戻って危険な目にあうより、東部方面攻撃隊と一緒にいるほうがいいと思ったのです。

 そして私自身は、なりふり構わず暫定長官を名乗り、全権を掌握しました。
 私がしなければいけないのは、アンドロ軍を黙らせること。
 事態の収拾に必死でしたが、タールツーが暫定長官を名乗ったことで、敵に勢いをつけてしまう結果も伴いました。

 しかもキャリーとしての私は、多くの人に顔を知られています。
 一切、人前には姿を現さずにすべての指示を出すのは骨が折れました。
 指示の意図が、上手く伝わらないことも度々ありました。
 なにしろ、暫定長官を名乗った者は、あのアンドロ、タールツーということになっていたのですから。


 ンドペキ達を困らせた荒地軍。
 あれは、元はと言えばタールツーの私兵でした。
 彼らにしてみれば、最近のタールツーは人が変わったようだ、牙を抜かれてしまったのではないか、と思っていたことでしょう。
 タールツーの指示を待たず、勝手な行動を始めていました。
 それがあの軍です。
 その軍の中枢は、すでに私が拘束を始めていました。
 もちろん、秘密裡に。
 なので、あのように統率がとれていなかったのです。
 しかし、兵の数は予想以上に多い。
 まるで、後から後から湧いてくるような勢いでした。

 また、統制がとれていないということは、無謀な作戦も選ぶということですし、ゲリラ的な活動も辞さないということになります。
 しかも、ニューキーツの防衛軍を壊滅させるのは、彼らにとって有利な戦いでした。
 防衛軍は、念のため、パリサイドとの衝突に備えていました。
 元々、外部からの敵に備えている軍です。
 兵であれ、防御システムであれ。
 政府建物の内部から、つまり後ろからの攻撃に、いとも容易く崩壊してしまったのです。


 しかも、恐ろしいことに、強制死亡処置が始まっていました。
 いたるところにタールツー信奉者はいたのです。
 政府内は、表向きは平静を保っていましたが、実はガタガタの状態でした。
 アンドロ軍が徘徊し、どこにタールツー信奉者がいるやもしれず、政府は機能不全直前の状態でした。
 元々、政府内で働いている人の大多数はアンドロなのですから。

 もう、頼むところは騎士団しかない。
 しかし、騎士団はレイチェル個人の命令しか受け付けません。
 そういう軍なのです。
 たとえ長官の命令であっても。
 いくら私が怒り狂おうとも、動かないものは動かないのです。
 それほど強いわけでもないのに。
 きつい言い方をすれば、お飾りのような存在なのに。


「ンドペキ、ごめんね」
 レイチェルがまた顔をあげた。
「そんなことがあって、私、彼らに愛想を尽かしていたの。うーん、なんだか、もう二度と頼るまい、という気がしてて」
「そうか……」
 まあ、いいさ、と言うしかない。
 ンドペキは思った。
 レイチェル指令の元、もっと早く騎士団と合流できれおれば、状況は変わっていたかもしれない。
 しかし、何がどう変わったというのだろう。
 太陽フレアは襲来し、カイロスが起動され、市民は大挙してベータディメンジョンに避難した。
 このことは変わりようがなかったはずだ。

 ただ、ロクモンは。
 チョットマは。
 死んだ十数名の隊員。彼らも死なずに済んだかもしれない。
 しかし、「まあ、たいしたことはない」と、応えるしかなかった。

「ごめんでは、すまないよね」
「もう、気にするな」
「うん……」
 レイチェルの目に零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「先を続けるか? それとも」
「いいえ。続けさせて」
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