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サントノーレ 作者:奈備 光

13章 解決編2

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114 私が死ねば

「ええっ」
「だれ!」
 部屋は俄かに沸き立った。
「どこに隠れているの! 出てきなさい!」
 と、チョットマが叫んだ。


「じゃ、タールツー。後は頼むよ」
「なっ!」
「タールツー?」
「レイチェル……」
「どういうこと!」

 レイチェルが立ち上がった。
「えええっ! まさか、まさか! レイチェルって、タールツーのクローンってこと?」
 チョットマの叫びの後は、部屋はまた生唾を飲み込むような静けさが覆った。

「チョットマ、先走り過ぎだ。というか、俺の冗談が過ぎたかな」
「ううん。いいのよ」
 レイチェルの穏やかな声に、ンドペキは安心した。
 しかし、ンドペキは予定を変えた。
 レイチェルの思いつめた表情を見て、自ら話すのはまだ身体に負担が大きいのではないかと感じたのだった。
「座って。俺から話すよ。違っていたら、言ってくれ」
 レイチェルはおとなしく従い、またマリーリの横で膝を抱えた。

 ただ、ンドペキの話の前に、少しだけ話をしたいと言った。
「最初にみんなに謝ります」
 みんなを騙していた。
 本当にごめんなさい。
 ンドペキ、許してね。
 困らせてばかりで。
 チョットマ、本当にごめんなさい。
 私、いつも自分勝手で。

 マリーリ。
 あなただけが頼りだって言える。
 ここでもう一度言うわね。
 マリーリ、本当にありがとう。
 私が今ここで、みんなに囲まれているのは、あなたのおかげ。
 大切なことを私に教えてくれ、そして支え続けてくれたあなたのおかげ。
 本当に、ありがとう。
 娘さんが、ベータディメンジョンで大変な役割を担っているのに、また私の元へ駆けつけてくれた。
 感謝の言葉もありません。


「私、実はお婆さんなの。ニューキーツ長官、キャリー。それが私」
 ンドペキは責任感が強すぎっていうけど、仕方ないじゃない。
 ホメムだから。
 でも、もう違うよ。
 普通の女の子になる。今はそう思ってる。

 でも、少し前までは、私が何とかしなければと思ってた。
 この私が、って。
 子を産み、ホメムの血筋を繋いでいくことが私の使命だって。

 マリーリから聞いたのよ。
 アンドロは時間を遡ることができるって。
 しかも、適当に年齢を変えながら。

 それだ!
 その方法しかない!
 そう思ったことが、すべての始まり……。


「ンドペキ、私の体を気遣ってくれてありがとう。でも、やっぱりこの話は私がするべきだと思う。私の過ちだから」
「過ち? そうじゃないだろ。おまえはおまえなりの方法で、自分のしなくちゃいけないことをやろうとしただけじゃないか」
「ううん。だから、やっぱり私から話させて」
「でも。傷が痛いみたいだぞ、顔色、悪いし」
「こんな痛みなんて、私の罪の重さに比べたら、罰としては軽すぎる。だから、お願い」
「うーむ。罪、罪って言うなよ」
「ンドペキが話すと、きっと私の汚い部分は飛ばしてしまうと思うから」
「だから、汚いなんて、自分で言うもんじゃない」
「お願い」


 誰も言葉はなかった。
「そんなに言うなら……」
 レイチェルが語り始めた。
 そもそもの始まりから。
「ありがとう、ンドペキ」
 と、ふっと短い息を吐き出した。

「私、実は、七十歳を超えてるのよ。私はキャリー。死んだとされている前長官」
 レイチェルはキャリーとして話すのだ、とさりげなく強調した。
 頭を垂れ、顔を見られないようにして話し出した。
「ホメムの中では若い方と言われても、残念ながら妊娠できる年齢じゃない」
 それに、そんなおばあちゃんを誰が好きになってくれる?
 誰が結婚してくれる?
 というか、年頃の頃だって、相手になってくれそうなホメムはいなかったんだけど。

 ベータディメンジョンから、若い女の子になって戻ってきて、ちゃんと恋をして、結婚して、子供を産んで。
 もうここまで来れば、相手はホメムじゃなくていい。
 マトでも、メルキトでも。

 そんな妄想に取りつかれた。
 ううん。
 妄想じゃない。
 私は、キャリーは本気だった。


 でも、ベータディメンジョンへはアンドロ以外、行くことはできない。
 肉体的に。
 アンドロでない私が向こうへ行けるタイミングはただ一つ。
 太陽フレアが襲ってきて、カイロスが不調に終わり、ゲントウの作ったもうひとつの装置、ベータディメンジョンを安定化させる装置が動いた時だけ。

 不謹慎よね。
 私は、その時を今か今かと待っていたの。
 何年も何年も。


 でも、その前に問題が発生してしまった。
 タールツー。
 アンドロである治安省の長官。
 彼女は要求した。
 アンドロを解放し、人としての当たり前の感情と、妊娠できる身体を与え、平等な地位を与えよと。
 新しい社会を提案したのね。

 でも、世界中のホメム達は認めようとはしなかった。
 私が悪いのよ。
 中途半端にタールツーの肩を持ったものだから。

 ホメム達はタールツーの粛清を申し入れてきた。
 これは政府転覆罪に匹敵する大罪だと。
 でも私は、タールツーを治安省の長官に据え置いたままだった。
 彼女の要求はもっともなことだと思っていたから。

 しかし、それが失敗の元だった。
 そんなタールツーの元に、同調するアンドロが集結し始めた。
 それに加えて、アンドロ達の社会にタールツーの主張が浸透していった。

 ついに、私はホメム達の圧力に抗えなくなった。
 そして、タールツーを解体処理に。


 二年ほど前のことです。
 タールツーには本当に申し訳なかったと思います。
 私の優柔不断さが、彼女を滅ぼしてしまった。
 その時、治安省長官という重責ではなく別の役に就けてあげていれば、もっと違う人生だったかもしれないのに。


 でも、私は思いついた。
 これは、使えるかもって。
 このタイミングに……。
 ね、キャリーって悪い人でしょ。
 タールツーが解体されるというのに、まだ自分のことしか考えていない私がいたの。

 元々、時間を遡って若い女の子になってからのことは、たいして考えてはいなかった。
 その女の子は、誰の子か、なんてことは。
 あいまいな計画だったの。
 ホメムであることを誰かが認めてくれれば、どこかの街でホメムとして生きていき、誰かホメムが死んだときにその街の長官に就任する。
 そんな程度でしか、考えていなかった。

 そんな私が考えついたこと。
 そうだ。
 私が死ねばいい。
 私の子だと称する若い女の子を残して。

 そんなストーリが頭を掠めていった。
 私が死ねば……と。
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