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サントノーレ 作者:奈備 光

12章 解決編1

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111 時を遡り……

「ハワードの件に移ろう。俺は、あいつを信じていた」
 始めて、アンドロという人種とまともに話し、それまで抱いていた印象が完全に間違っていることに気付いた。
 豊かな心を持ち、信義に厚く、そして仕事に忠実。

 ハワードも、賢いアンドロの例に漏れず、自分を見つめようともがいていた。
 人によって違うんだろうが、あいつの場合は「人を愛すること」の意味を掴もうとしていたんだ。
 そして実際に、特定の誰かを愛そうとしていた。
 決して、練習のためじゃない。
 本気で。
 それがアヤであり、レイチェルであり……。


 レイチェルの場合、あいつの心の中はかなり複雑だったろうな。
 言葉として表すことはなかったけれども。
 レイチェルが死んだとき、あいつの取った行動を覚えてる?
 水系に飛び込んでいったんだ。
 死ぬのが分かっているのに。
 まさしく、愛する人を追って、という行動じゃないか。
 少なくとも、自分の上司へとる行動じゃない。

 俺は思うんだ。
 ハワードはレイチェルを心から愛していたと。
 もう、こんな言い方をすること自体が間違っていると思うけど、あえて言うなら、アンドロなりの愛し方で。


「で、ここまでが前提となる事項だ」
 ところで、俺達には死んだ人間を甦らせることはできない。
 肉体があれば話は別だ。
 再生することはできるだろう。
 しかしあの時点で、人類の再生機構はもう動いていなかった。
 しかも、あれはマトやメルキト用で、ホメムは想定外だ。

「レイチェルが水系に消えてから、ハワードは考えたんだ。パリサイドなら、と」

 しかし、それもレイチェルの肉体があってこそ。
 何としてでも、彼女の亡骸がいる……。
 それも、パリサイドに頼めば、水系から回収してきてくれるのではないか。
 そして再生してもらい……。

 ハワードはそれを実行に移した。
 当時、ニューキーツの上空を覆っていたパリサイドに声を掛けて。


 ンドペキはユウに目をやった。
 しかし、微笑んでいるだけ。
 今日は、すべてを自分の口から話すと決めてある。

「レイチェルを心から愛していたハワードならどうするか。そう考えると、今言ったようなストーリーは想像できるよね」
 でも、なんら根拠はないし、それらしい証拠もない。


 しかし、レイチェルはホメム。
 ニューキーツの長官。
 パリサイドの姿でいいはずがない。
 そういう形で再生されたと知ったら、レイチェルは何と思うだろう。
 人一倍、ホメムとしての責任感の強い彼女なら。
 でも、愛する者としては、パリサイドの身体でもいいと思ったことだろう。

「でも、ハワードの頼みは、残念な結果に終わった」
 いくらパリサイドとはいえ、死んでかなり時間の経つレイチェルの肉体を得ることができても、完全な形で再生させることはできなかったんだ。


「スミソ、どう?」
 いきなり声を掛けられて、スミソが握っていたチョットマの手を慌てて放した。
「あ、え、そうです。僕がパリサイドとして再生されたのも、まだかろうじて息があるうちに救出されたからです。それでも、その」
「気にすることじゃないよ」
 と、ユウが助け舟を出した。
「ええ、その、パリサイドといえども元の体にはできなくて、こういう体で……」
「ということで、ハワードはパリサイドに再生を頼むという方法を断念したんだ」

 そのときのハワードの気落ちした表情。
 今は既に、ユウから耳にしていた。
 ハワードは肩を震わせ、大粒の涙をこぼしたそうだ。


「ところで、マトやメルキトの俺達が全く知らなかったことがある。いや、知らなかったというより、関心がなかったというべきだな」
 ベータディメンジョンに行って、俺達がいかにアンドロのことを知らなかったか、思い知らされたよ。
「驚いたことに、あの次元は、我々の時空とは構成が違う」
 時間の流れさえ、流動的だったんだ。
 ヌヌロッチが教えてくれたよ。
 地球で消費される食料や様々な物資を生産することなど、容易いことだと。
 時間の流れが速いエリアで生産すれば、あっという間に大きなブロッコリーが育つんだとさ。

「さて、思い出してくれ。ハワードがチョットマに言った言葉。ちゃんと意味があったんだ。もう一度繰り返そうか」
 私は貴方といつも一緒にいます。
 これからもずっと身近なところで。
 でも、私の姿は見えなくなるでしょう。
 心配しないでください。


「どう? わかったかな? ハワードは、姿を変えてチョットマの前に現れるつもりだったんだ」
 きっと、その時には既に彼は計画を持っていたと思う。
 レイチェルを生身の体で救い出す計画を。

 ベータディメンジョン。
 時間の流れはコントロールできない。
 しかし、流れに乗ることはできる。
 増加する一方のホメムやマトやメルキトの要求に応えるため、アンドロは時間を遡っていく。
 そうやって、実質的な労働力を増やしてきたんだ。


「どういう意味か、わかる?」
 誰からも声はない。
「マリーリは言ったんだ。何代も前から長官のSPをしていると。アンドロも歳を取るのに?」

 時間を遡ればなにが起きる?
 たとえば俺が時間を遡れば、どうなる?
 簡単なこと。
 俺が二人いることになる。
 もう一回、遡れば?
 俺が三人。
 世界中にアンドロがこんなにたくさんいるって、おかしくないか。
 いつ、誰が、どれだけ製造したんだ?
 数百年前ならいざ知らず、今、地球上のどこでアンドロが製造されているんだ?
 結婚もしない、子供も産まないアンドロがなぜこんなにたくさんいるんだ?

 ということ。
 もう、疑問はないよな。


 時間を遡ることは、アンドロにとって特別なことではなかった。
 その証拠に、あの次元の門のところで、少女の門番やヌヌロッチは、現時点でいいか、少々遡るかなどと聞いてきたのだ。

「ハワードは時間を遡るつもりだった」
 では、どの時点に?
 レイチェルがサリに刺され、水系に落とされた時点?
 そのことをなかったことにする?

 大きな歴史は変えられない。
 これはルールだ。
 ルールは曲げられない。
 ハワードがルールを曲げるようなことをするはずがない。

 もし、レイチェルがサリに刺された、あの出来事を変えることができたとしよう。
 しかしその後、どうなるかわかったものじゃない。
 何が起きるのか、誰にもわからない。
 ハワードはそんなリスクを冒す気はなかった。
 だから、もう少し前に遡り……。
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