挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
サントノーレ 作者:奈備 光

12章 解決編1

110/118

110 アンジェリナの居場所

「セオジュンとアンジェリナの姿が見えなくなったのは、エリアREFのハイスクールの卒業式に姿を見せない、というところがスタートだった」
 情報が何もない中で、ばかげた話だが、心中説や、同級生の嫉妬説まで飛び出す始末。
 真剣な話ではなく、あてずっぽうという程度の推理だった。
 チョットマは、セオジュンとアンジェリナの親友、ニニと知り合ったが、彼女からもこれといった情報は得られなかった。
 あくまで、その時点では。

 呼応するかのように、ハワードも消えた。
 ハワードが先だったのか、セオジュンとアンジェリナと一緒にだったのか、わからないままだ。
 まず、もう話してもいいと思うので、ハワードが最後にチョットマに残した言葉を紹介しておこう。

 私は貴方といつも一緒にいます。
 これからもずっと身近なところで。
 でも、私の姿は見えなくなるでしょう。
 心配しないでください。

 ハワードはそう言った。
 愛の告白?
 そうとも取れる。
 別れの言葉とも取れる。
 いずれにしろ、セオジュンとアンジェリナはともかくも、これまで親しくしていたハワードの失踪については、隊にとって痛手だったし、疑念を持ったことは事実だった。


 ただ、アンドロ軍と戦い、巨大太陽フレアが今にも地球を襲うという状況下で、彼らの失踪事件のことは意識から遠ざかっていった。
 しかし、チョットマが目撃したんだ。
 政府建物の正門でチョットマ隊が前線を張っているとき、マリーリが血相を変えて駆けこんでいくのを。
 続いてニニも。

 ニニは二人の失踪をとても悲しんでいた。
 どこに行ったのか、知りたいとも思っていた。
 心からそう思っていたと思う。
 だからチョットマは、ニニが太陽フレアから逃れるためにアンドロ次元に戻るとは思えなかった。
 なにか理由があると。

 チョットマの問い掛けに、やはりニニはこう答えた。
「レイチェルを探すことより、アンジェリナの救出の方が優先するかなって」
 そして、アンジェリナの居場所の見当がついたと。
 そこにセオジュンもいるかもしれないと。
 彼らを助けに行くのだと。


 いずれにしろ、この三人が失踪した原因について、これ以外に、まとまった情報は全くと言っていいほどなかった。
 あるのは断片的な情報ばかり。


 ンドペキは部屋を見回した。
「この調子で話していたんじゃ、時間がいくらあっても足りないぞ。どうする?」
「いいんじゃないか」
 スジーウォンが、どうせ暇なんだし、と応えた。
「では、隊長のお言葉に甘えて。眠たくなったら寝ててもいいぞ」


「聞きたいことがあるんだけど」
 と、ンドペキはライラに顔を向けた。
「なんだい」
 仮定に基づいた推理を展開するより、単刀直入に切り込んだ方がいいと思った。

「ある仮説を持っている」
「ん?」
「ライラ、あんたの夫、今はホトキン、その前はブロンバーグ、そしてその前はゲントウ。だよね」
「やなことを思い出さすんだね!」

「ハハ。あんたの思い出話を聞きたいんじゃないよ。聞きたいのは、マリーリのこと。あんたは、マリーリにいい感情を持っていなかったよな」
「本人がいないから言うけどね。そのとおりさ」
「あんたの後か先かはわからないけど、マリーリはゲントウといい仲だった。どう?」
「だから、やなことと言ったんだよ!」
「はい。もう一つ、マリーリは本気だった。なんていうのかな、つまり一途だった。アンドロ流かもしれないけど。どうです?」
「まあね」
「マリーリは、ゲントウとの子を産んだ」
「さあね」
「それが、アンジェリナ」
「どうだかね」
「あるいは、産んだと思っていた」
「わからないさ」
「ですね」


 妊娠もしていないのに、子を産む?
 そんな野暮な疑問は持ちっこなし。
 精子と卵子、いや、お互いの髪の毛一筋あれば子は作れる。
 ましてそれがアンドロとしてなら、技術はとうの昔に確立されている。

「アンジェリナはマリーリの娘。俺は、そう言い切っていいと思う」
 本当に産んだのかどうかなんて、どうでもいいこと。
 互いがそうだと思っているなら、親子だし、家族だから。
「だろ?」
「そういうことになるだろうね」

 ただ、マリーリはアンドロ。
 子があるということは、ご法度ではないにしろ、極めて稀なケース。
 公表するのは憚られたのかもしれない。
 あるいは、ゲントウから口止めされていたのかも。
 いずれにしろ、マリーリはアンジェリナが自分の娘だとは言ってはいなかった。
 ただ、頻繁にエリアREFを訪れてはいた……。

 そうだとすれば、チョットマが見たマリーリの行動には説明がつく。
 あの熱波の中、マリーリはやっと気がついたんだ。
 娘、アンジェリナの居場所を。


 彼女は考えたんだ。
 ベータディメンジョン、アンドロの次元にゲントウが作った装置がある。
 あの次元を人が住める環境に整えるための装置。
 渦巻くエネルギーを鎮静化させる装置のことを。

 その装置を起動させるには誰かが操作し、パスワードを入力しなくちゃいけない。
 パスワードってったって、数字が何桁かなんてものじゃないはず。
 アンジェリナの肉体に組み込まれた何か。
 あるいはアンジェリナのDNAそのもの。
 そんな類のもの。
 アンジェリナ本人でなければいけないもの。

 そして、安定的に運転し続けるためには、意思を持った人が必要だった。
 では、ゲントウはその役割に、誰を選んだのだろうか。
 やっとマリーリは気づいたんだ。

 あの次元に行くためには、アンドロでなければならない。
 しかし、自分にその役割があるわけではない。
 となれば、アンジェリナしかいない、と。


 ところで俺は、向こうで道に迷ったことがある。
 その時、一人のアンドロに出会った。
 それはマリーリ。
 その時は彼女だとは気づかなかったけどね。

 マリーリは、こちらが何も言ってないのに、その装置のある方角を指差してみせた。
 今にして思えば、向こうにアンジェリナがいる、と言いたかったんだろうね。


 現に、そこに行くと、その装置があった。
 それとは気づかないけど。
 きれいな芝生広場に、小さな池がポツンとあるだけ。
 カイロスを起動させたのも芝生の広場。
 カイロスの刃を守っていたのは円形の泉。
 ゲントウはそういうシチュエーションが好きだったんだね。

 そして池の縁に、サンダルが二足。
 街で普通に見かけるやつ。

 アンジェリナとセオジュン。
 彼らが残していったもの。
 彼らはあの中にいる。
 俺はそう確信している。

 もう二度と出てこれないかもしれない。
 きっと、そうなんだろう。
 あの次元にアンドロでない人がいる限り。


 俺はこの推理に自信を持っている。
 でも、マリーリに確かめようとは思わない。
 娘の傍に居たいだろうに、レイチェルSPの仕事を選び、こっちの次元に戻ってきた。
 もう、娘がいる向こうには戻れないのに。
 仕事に忠実なアンドロだから?
 そうかもしれない。
 でも、そんな彼女に、真相はどうなの、なんて聞きたくはない。
 そういうこと。


 ンドペキはふうっ、と息を吐き出した。
 会場からも呟きひとつ聞こえてこなかった。
 チョットマは目を潤ませているが、涙をこぼしはしなかった。

 さて、じゃ、なぜセオジュンは?
 そんな野暮な質問をする人はいないよね。
 彼はアンドロだったんだから。
 それで十分だよな。

 それに、もし質問が出ても、答えないよ。
 次の話に、少しばかり関係するから。


 ンドペキはもう一度、会場を見回した。
 そして、飲み物を手にした。
「こんなにおいしいワインなんて、かれこれ三百年は飲んでないよな。すごいね、パリサイドは」

 次は、ハワード失踪の真相を話す時だ。
 まだ、約束の時間には間に合う。
cont_access.php?citi_cont_id=706025280&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ