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サントノーレ 作者:奈備 光

12章 解決編1

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 十日ばかりが過ぎた。

 パリサイドの宇宙船は、まだ地球にあった。
 多くの人が移り住んでいた。
 巨大な船は、そこが海中深く、陽の光も届かない場所だということを感じさせることはなかった。

 生き残った者は、それぞれの体験談を交換した。
 他人を襲った苦難や不幸。
 自分を苦しめた出来事。
 それを秤に掛けて、互いにねぎらい合った。


 チョットマは元気を取り戻し、隊のアイドルぶりを発揮していた。
 しかし、さまざまな経験が彼女を変えているはず。
 そんなことはおくびにも出さずに。
 宇宙船の甲板に出ては、海の生物を観察していた。

 その傍らには、いつもスミソかプリブがいて、チョットマがはめをはずさないように見守っていた。
 シルバックと一緒にスミソの懐に入って、海中の散歩を楽しむこともあった。
 男だからとスミソに断られているプリブは、女装してきては「これでどうだ」と笑わせているのだった。

 船内でもチョットマは新しい友人を見つけていた。
 中には、昔の親友サリに似た可愛い女性や、パキトポークのように親分肌の中年男も。

 時には思い出すことがある。
 セオジュン、アンジェリナ、ニニのことを。
 ニニは、あの次元に残った。
 その時のニニの言葉が忘れられない。
「私の仕事はアンジェリナの傍にいて、彼女を見守ること。だから、ごめん」



 レイチェルはニューキーツ長官として、多忙だった。
 昔と同じように、すべての決済事項が彼女に集中していた。
 しかし、ここはパリサイドの宇宙船の中。
 全権限がレイチェルにあるわけではない。
 むしろ、パリサイドの船長からは、客人としての扱いを受けていた。

 まだ、傷は癒えきってはいない。
 サリに刺された傷。
 そして地下水路を流されたときにできた傷。
 失った血液。
 弱った体。
 日に何度も、傷が痛むという。
 高熱に苦しみ、寝込んでしまうこともあったが、常に朗らかに、天真爛漫さを振りまいていた。
 カリスマ性が増し、レイチェル命、という若者が増えていた。
 ンドペキと話す機会は減ったが、それでも会えば昔のように嬉しそうに話すのだった。

 相変わらず恋人探しはしているようだった。
 ただ、もうクローンを使って、などという手は使わず、船内に開店したバー・ヘルシードに顔を出しては、グラス越しに客を眺めるのだった。
 そして、常につき従っているマリーリに、「たまにはひとりにさせてね」などと言うのだった。


 スジーウォンやコリネルスは、ベータディメンジョンに残ったパキトポークの穴を埋めて、隊を機能させていた。
 東部方面攻撃隊は解隊され、同時に「あけぼの丸」自警団が結成されていた。
 あけぼの丸とは、この宇宙船の名前。
 あまりにつまらない名前だという声も多かったが、案外気に入っているものも多いという。

 ニューキーツに留まり、守る者のいなくなった街を襲ってくる殺傷マシンを相手に、最後まで闘い抜く覚悟だったスジーウォンにも、もう悲壮感はない。
 ただ、スジーウォンはもがいていた。
 ハクシュウへの思いを断ち切れないで。
 そんな彼女に、チョットマがハクシュウの手裏剣を贈ろうとしたが、「ふざけるな!」と突き返した。
 しかしその直後、スジーウォンが静かに涙を流すのをコリネルスは見ていた。
 そして、パキトポークの豪胆ぶりに少しでも近づこうと、スジーウォンは装甲のデザインを変え、突き放したものの言い方に磨きをかけた。

 コリネルスは、パリサイドの船員たちからも厚い信頼を得ていた。
 一挙に膨れ上がった搭乗者に対し、コリネルスがいてこその的確な対応ができていた。
 時々、チョットマを呼んでは仕事を言いつけ、チョットマを喜ばしていた。
 もちろん、チョットマに自信を取り戻させるために。


 サブリナ、そしてオーエンの妻サーヤの命は助からなかった。
 ヘルシードのマスターに連れられてこの地球に戻ってきた時、着いた先はエーエージーエスのチューブの一角だった。
 そこは凄惨を極めていた。
 折り重なるアンドロの死体。
 太陽フレアに焼かれた肉体の山。
 その中に、サブリナとサーヤを見つけた時、サブリナは薄っすらと目を開き、お母さん、お父さん、と声を絞り出した。
 そして、それきりだった。

 ライラとホトキンには、サブリナの死を乗り越えようという意識が生まれ始めていた。
 サキュバスの庭の女帝、と呼ばれたころのライラに戻ろうとしているように。
 このぼんくらには飽き飽きしたよ!と毒づきながら、ホトキンを連れまわしていた。
 自分の事務所にふさわしい部屋はないかと。
 そして、チョットマを訪ねては、小言を並べ、アヤを訪ねては、聞き耳頭巾の布に触れさせろとねだるのだった。


 そのライラの希望に、アヤはいつも喜んで聞き耳頭巾を出してくる。
 貸してあげるよ、と言うのだったが、ライラは滅相もない、と断るのだった。
 アヤは義足を外した。
 パリサイド流の治療によって、やっと足が再生されたのだ。
 足が完全に治ったことで、オーエンに対する憎しみも完全に消えていた。

 ンドペキをパパと呼ぶことに決めた。
 スゥにはママ。
 ユウ、つまりJP01のことはユウお姉さん。
 そして、イコマのことは、昔ながらの呼び方、おじさん。
「そうとしか、言いようがないじゃない!」

 アヤの家族は、ンドペキとスゥ。
 それは誰もが知るところとなった。
 隊員の中には、ンドペキ一家などと呼ぶものも多かった。


 ユウ。
 パリサイドとしてのJP01。
 忙しく、日に一度顔を見せればいい方だった。

 しかし表情には、大仕事をやり遂げた喜びが溢れていた。
 かつて、二十世紀最後の頃、キタやミナミ、天王寺で遊んで回った頃、イコマとユウが知り合った頃の三条優にすっかり戻っていた。

「ノブ!」と呼んでは駆け寄ってくる。
 そんなユウに戻っていた。
 イコマは走馬灯のようにあの頃のことを思い出す。
 自分の思いを真っ直ぐに伝えられない、ふがいなかったあの頃を。


 イコマ。
 かろうじてパリサイドの体を持つことができた。
 きっとユウが、最後に捻じ込んでくれたのだろう。

 もうアギではない。
 これからは、記憶は普通に失われていく。
 しかし、忘れることはない。
 何百年経とうとも。
 ユウ、ありがとう!


 スゥ。
 ユウが作ったクローン。
 ニューキーツ近くの海岸でユウに襲われ、ユウの意識と同期した。
 それからというもの、彼女は苦しみ続けてきた。
 自分の意識と、ユウの意識との間で。
 なんとか自分を保とうと。

 既定だったとはいえ、ンドペキを愛し、それが成就した。
 もしかすると、ユウ本人より幸せになったといえるかもしれない。
 ささやかではあるが、船上で結婚式まで挙げたのだ。

 ンドペキとアヤとの家族。
 これ以上の幸せがあろうか。
 あっさりした顔をしながらも、人知れず喜びに震えて泣くことがあることを知っている人はいない。


 ンドペキ。
 ユウが作ったイコマのクローン。
 死にたい。自分の無為な生を終わりにしたい。そんな考えに取りつかれていた自分に、新鮮で薫り高い風を送り込んでくれたスゥ。
 今にして思えば、洞窟で見せたスゥの涙。
 あれが生きる希望になったのだった。

 ンドペキは思う。
 自分が今あるのは。
 スゥだけではない。
 チョットマ。
 隊のみんな。
 ハクシュウ。
 感謝してし過ぎることはない。

 家族の時間を持つため、隊のリーダーはスジーウォンに代わってもらうことにした。
 ありがとう、スジーウォン。引き受けてくれて。
 今から、発表させてもらうよ。
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