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サントノーレ 作者:奈備 光

11章

107/118

107 現時点へ遡る

 案の定、ヌヌロッチは眉間の皺を深くした。
「戻りたいと」
「そう。頼む」
「……む」

 ちらりとヌヌロッチの顏に怒りが浮かんだ。
 治安省長官のプライドを傷つけたような気がした。

 しかし、構ってはいられない。
「家族が、俺の娘が取り残されているんだ。頼む」

 見る間にヌヌロッチの顔から怒りが消えてゆく。
「娘、ですか……。あの、登録上はバードとなっている女性、アヤが」
「そうです!」


 アヤがバードと名乗っていたことは知っているはずなのに、ヌヌロッチはあえてその名を挙げた。
 アヤはもうその名を使おうとはしない。
 イコマやユウを忘れていた時の名前だから。
 忘れてしまったからこそ、そんな名に変えてしまったのだからと。

 しかし、ヌヌロッチは以外にもあっさり、「では、案内しましょう」と言った。
「家族」、「娘」という言葉に、アンドロなりに敏感に反応したのだろう。
「ありがとう。恩に着るよ」


 ヌヌロッチが案内してくれたのは、意外にも近い場所だった。
 大通りを少し西に進み、細い通路に入っていく。
「ここがいいでしょう」

 小さな門があった。
 これ以上、行ってはいけないといわれている門だ。
 門は開け放たれ、脇に小屋がある。
 もちろん、クリスタルで作られていて、小さいながらも光り輝いている。

 ヌヌロッチが入れと手招きする。
 中は思った通りの狭さで、小さなテーブルが一つ。
 テーブルの向こうに小さな可愛い女の子が座っていた。


「今日は珍しいね!」
 女の子が、ンドペキとスゥを代わる代わる品定めするような目で見て、二人かい、と聞いた。
「そう。頼みます」
「やれやれ! せかっくこっちへ来たというのに、何が不満なんだろうね! これで七人目! アンドロ以外の連中を通過させるのは! 今日はむちゃくちゃな日だ!」

 女の子の姿とは裏腹に、言葉遣いはライラそのものだった。
「あたしゃね! こんなに活きのいい体になった途端に、なにが太陽フレアだい! よってたかって右往左往しやがって! で、名前は!」
「ニューキーツのンドペキとスゥだ」
「で、どこに!」
「どこって、ニューキーツに」
「おい! ヌヌロッチ! どうするんだい!」

 ヌヌロッチが聞いてきた。
 現時点でいいですね。
「現時点?」
 それとも、少々遡りますか。
「遡る?」
「忘れましたか?」
「えっ、なにを?」

 大通りを西に進むと、時間はゆっくりと流れる。
 行けばいくほど、その差は大きい。
「この辺りは、それほど西でもないので、過去というほど昔には行けません」
「ほう! そういうことなのか!」
 さらに西のゲートを使えば、数年前でも、数百年前でも遡ることが出来るというのだった。

 ンドペキは少し迷った。
 現時点、あるいは数時間前?
「ただし、決まりごとがあります。遡ったとしても、起きてしまった出来事を大きく変えることはできません」
「変えたら?」
「出来ない、ということです」


「現時点で」
「あいよ」
「さあ、行ってください。門を通れば後戻りはできません」
「わかった。ありがとう」
「最後に忠告しておきます。マトが通過するのはこれまでにないことです。何が起きるか、保証はできません」
「ああ」
「それから、もうここへは戻って来れません。いつかまた、ベータディメンジョンへのゲートが開発されるまでは」
「分かっている」


 門を通り抜け、歩いていった。
 現時点でよかっただろうか。
 数時間前の方がよくはなかったか。
 しかし、わずかなそんな過去に立ち戻ったとして、なにができるのだろう。
 きっとアヤはユウに助けられて無事だ、と信じることにしたのだった。


 一瞬にして、次元を移行した。
 ここは……。
 暗い……。

 あっ!
 エーエージーエスのチューブ!

 なに!
 いたるところ死体がうず高く積みあがっていた。

 これはいったい……。
 尋常な数ではない。
 見渡す限りの死体。
 アンドロか……。

 まさか、オーエンが。

 手を伸ばす者があった。
「大丈夫か! 何があったんだ!」
「突発的な熱波が……」
 燃え盛る炎がチューブを駆け抜け、折り重なって倒れたという。

 ンドペキは叫んだ。
 オーエン!
 オーエン!
 何とかならないのか!

 しかし、声は空しくこだまするだけだった。
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