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サントノーレ 作者:奈備 光

11章

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105 膨れ上がる気持ち

「タールツーの軍。実際は存在しなかったのではないでしょうか」
 ヌヌロッチは、ンドペキにとって、ほとんど関心の失せた話題を口にした。
「ああ」
「治安省の長官に任命されてから、私はその動向を探ることに全力を挙げました」
「そうしてくれてたな」
「ところが、どうしてもその尻尾が掴めなかった。おかしいと思いませんか」

 おかしなことではない、と思う。
 新任の長官が、直ちに実質的な権限を握れるはずもないではないか。
 しかも、治安省という、秘密を扱う部署。
 全職員が、はい、今日から新しい長官に忠誠を誓います、とはならないはずだ。


「結局、タールツーは自分の郎党を引き連れて暫定長官を名乗った。治安省にその残党はいなかったと思うのです」
「そういうことになるかな」
「しかし、タールツーは戻ってきたキャリーに粛清され、部隊は解体された……」
「……」

 キャリー。
 その名を聞いたことはあるが、前長官に会ったことはない。
「戻ってきた……」
「ええ、そうとしか考えられません」

 長官の死後、レイチェルが長官職に就いたのではなかったのか。
「なんだか、ややこしそうな話だな」
「いいえ。単純な話だと思うのです」
「そうか?」
 キャリーは死んではいなかった。ヌヌロッチはそう言うのだ。


「じゃ、そういうことにしておこう。で、どうなる?」
「一般的に、アンドロの兵は、次元移行の際の緩衝地帯で武装し、帰ってくればそこで武装を解きます。ベータディメンジョンで武装することは禁じられていますので。あ、アンドロの場合は、です」
「ふむ」
「緩衝地帯も調べました。しかし、あの真っ白な装甲は見つからなかったのです」
「ということは?」
「あの白装束の装甲は、かつてのキャリー騎士団のものです」
「うーむ」

 純白の装甲を身につけたアンドロ兵と、まちまちな装備のアンドロ兵。
「エリアREFにちょっかいを出してきた兵、それに我々が以前、荒地軍と呼んでいた兵は、白装束じゃなかったぞ。あれは?」
 ヌヌロッチが、ちょっと意外だという顔をした。
 そう。
 もう関心はない。
 荒地軍。
 そう呼んでいたことが懐かしくさえ感じられた。

「ですから、荒地軍と呼ばれていた隊は、キャリーの騎士団に殲滅されたのだと思います」
 なるほど。
 そういうことなら、政府建物に侵攻したときにたいした抵抗にあわなかったことも頷ける。

 ヌヌロッチは、フッと溜息をつくと、意外なことを言い出した。
「しかし、根本的な疑問が……」
「ん?」
「そもそも、タールツーという人物、いなかったのではないかと……」
「ふむ」

 ンドペキの関心が薄れていることを察してか、ヌヌロッチは現実的な話題に移っていった。
 今後の市民生活について。
 そして、もっと先の事も。
「ルールさえ守っていただければ、自由にしてもらっていいのです」
 ヌヌロッチは何度もその言葉を繰り返した。

 ルールとは、街外れから先、つまり立ち入り禁止エリアに近づかないこと。
 ンドペキは、まだ構想でさえないがと断って、考えていることを話した。
 マトやメルキトとアンドロが共に暮らしていくためのアイデアを。


 しかしンドペキは、自分でそれを口にしながら、しっくりこないものが心に沈んでいることを感じていた。
 先ほど、あの池を覗きこんだときに、そのしっくりこないものの正体を気づいていた。
 ただ、それを今、まだ口にすることはできない。


「ヌヌロッチ、悪いが、これからはパキトポークと相談しながらやってくれないか」
「いいですよ。その方がいいのなら」
 ヌヌロッチはあっさり承諾はしたが、疑問は隠せない。
「でも、なぜです?」
 と、単刀直入に聞いてきた。

「なんというのか……」
「疲れすぎているんですよ」
「まあ、それはそうだが……」


 そもそもこの次元に来たのは、フライングアイのイコマに代わってユウを追うためだった。
 しかし、この次元に来たパリサイドはユウではなかった。
 他方、ここへ来たことで、失ったもの。
 アヤ。


 彼女のことを思うと、居ても立ってもいられない気持ちだった。
 太陽フレアが吹き荒れる地球で、無事にしているだろうか。
 ニューキーツの政府建物内にまだいるのだろうか。
 それともエリアREFに移動しただろうか。
 ないしはその下に広がるといわれる避難所に。
 そもそも、地球は人が生きていける環境をまだ維持しているだろうか。

 あるいはパリサイドの宇宙船に移動しただろうか。
 ユウはアヤを放ってはおかないはず。
 力づくでも連れて行こうとするだろう。
 しかし、父であるンドペキを待って、決めきれないでいるかもしれない。


 今、ンドペキは何の躊躇もなく、心の底からアヤを「娘」と呼ぶことができた。
 いったい、どうしているんだ。
 会いたい。
 無事な顔を見たい。
 傍にいたい。
 できることなら、言葉を掛けたい。
 アヤ……。


 地球に戻りたい!
 その気持ちが、膨れ上がっていた。

 ここの市民を捨てていく?
 パキトポークに押しつけて?

 そう。
 もし、地球が消滅しかかっていたとしても、戻りたい!
 そこで、アヤを探したい!
 たとえ、瞬時に命が無くなったとしても。
 火の玉になった地球を一目見るだけのことになってもでも。
 そこにパリサイドの宇宙船が浮かんでいるのを確認するだけでもいい!


 この気持ちを、ヌヌロッチが気づくはずもない。
 愛という感情の薄いアンドロだ。
 今も、淡々と、今後のことを話している。
 ンドペキの頭には、すでに入ってこなかった。

「パキトポークと……」
 頭が真っ白になった。
 倒れる……。
 スゥ……。
 その意識だけを残して、ンドペキは倒れた。
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