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サントノーレ 作者:奈備 光

11章

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104 サンダル

「ここか……」
 門を前にして、ヌヌロッチが躊躇している。
 まぶしい光が扉の隙間から漏れ出していた。
 開けてみるべきなのだろうか。

 門は、高さ三十メートルはあろう。
 これは建物と呼んでもよいものだろうか。
 壁の石材は天高く積まれ、この世界、つまりカプセルに天井というものがあるなら、そこに到達しているように見えた。

 と、スゥが近づいた。
「待て。俺が」
 ンドペキは門に手を掛けた。
「ん」
 施錠はされていない。
 ドアレバーは軋みながらも軽々と回り、巨大な門がゆっくりと開いていった。



 門の先には円形の広場。
「眩しい……」

 ンドペキはこの種類の明るさをどこかで見たような気がした。
 そうだ。
 ユウを追って金沢に行ったとき……。
 光の柱の足元で……。
 あの白い砂……。
 そこでユウと再会し……。
 なぜか、そんな記憶が甦ってくる。


「ここも芝生……」
 誰も手入れなどしていないだろうに、綺麗に生えそろった芝生。
 ここも巨大な石壁に囲まれている。
 三人は恐る恐る、広場に脚を踏み入れた。

 なんの物音しない。
 踏み締める土の音さえ聞こえるような静寂に覆われていた。
 空気はそよりとも動かず、まるで演者を待つ能舞台のように張り詰めていた。
 中央に丸い小さな池があった。

 透明度の高い水が、さざ波ひとつ立てずに湛えられている。
 底知れない深さに不気味さがある。
 ただ、水はあくまで清涼だった。

 ンドペキは、イコマが記憶の泉を覗いていたあの情景を思い出した。
 ユウやアヤと暮らした思い出に身を委ねるために。
 ふと感傷的な気分になったが、「ふーん」と、さりげなく自分の心を隠し、あの時と同じように縁石から身を乗り出した。
 しかし、深い記憶に仕舞い込まれた光景が具現化することはなかった。


「これが……」
 ベータディメンジョンを安定化させるための装置。
 いかつい巨大なものを想像していたが。
「こういうシチュエーションが好きだったのね」
 スゥの呟きは、ゲントウのことを言っているのだろう。

 池は小さい。
 自然と一周することになった。
「あ」
 サンダル。

 街で普通に見かけるサンダルが二足。
 池の縁にきちんと並べられていた。
 スゥが手を伸ばしかけたが、ヌヌロッチがすかさず声を上げた。
「何も触れないように!」

 ンドペキは辺りを見回した。
 高い壁に囲まれているが、他に何もない。
 窓もなければ他の扉もない。
 この明るさがどこからもたらされるのかもわからない。

「禁断の苑」
 そんな言葉が浮かんだ。
「ここは立ち入り禁止にしなくちゃいけないな」
 急速に現実に戻った。
「言うことを聞かない人もいるだろうから」


 早々に広場を後にすると、ほっとしたようにヌヌロッチが話し出した。
「さっき、マリーリに会いましてね」
 ンドペキはその名を思い出すのに、少し時間がかかった。
 それほど泉の広場の空気には緊張感があった。

「ワークディメンジョンに戻るそうです」
「そうですか……」
「彼女の仕事はレイチェルのSPですから」
 そういえば、アヤの話によれば、マリーリはレイチェルを探す気はないようだと言っていたな。
「捜索を?」
「さあ。それは知りませんが、彼女の任務はまだ解かれていないので」

 レイチェルSPか。
 そういえば、他の者はどうしているのだろう。
「ここにいるのは誰と誰です?」
「私だけです。他の者は皆、ワークディメンジョンにいるはずです」

 皆とはいうが、ハワード、アンジェリナは行方不明。
 残るは、ヒカリ、スーザク、ユージン、そしてマリーリということになる。


 遠くにクリスタルの街が望めた。
 これから先、あそこで暮らすことになる。
 食料は物資はふんだんにある。
 なにしろ、ベータディメンジョンは地球上の人類を養ってきた生産基地だ。
 きっと、エネルギーも安定し続けるのだろう。
 しかし、ここのことをまだ何も知らない。
 どんな暮らしが営まれ、どんな社会が生成されるのか。
 まだ、なにも見えてはいない。


「ヌヌロッチ」
「はい?」
 ンドペキは不安を口にした。
「頼りにしてます」
「何をいまさら。仕事ですから。それはそうと」

 ヌヌロッチはあっさり話題を変えた。
 照れからではないだろう。
 そんな感情はないのかもしれない。
 むしろ、仕事を遂行すしようとする冷徹な義務感が勝るのだろう。
 特に、このアンドロは。

「早くお話せねば、と思っていたのですが」
 ヌヌロッチはゆったりと歩いている。
 自然とンドペキもその歩調に合わせることになる。
 こちらが思うほど、ヌヌロッチは今後のことを心配していないのだろう。
 なにしろ、自分達の次元なのだから。
 そして、マトやメルキトとここで暮らしていくことも、楽観的に考えているのかもしれない。
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