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サントノーレ 作者:奈備 光

11章

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103 科学の産物

 パキトポークの状況説明によると、市民は落ち着いているという。
 朝食も振る舞われたらしい。
「昼飯は抜きだ。準備が間に合わないそうだ」

 ベータディメンジョンに残ったアンドロは、総勢千八百名ほど。
 急に、三万人以上の市民が押し寄せてきても、対応できないらしい。

「シャワーはなかなか勇気がいるぞ」
 個室ではない。
「一応、トイレは仕切られているがな」

 パキトポークは装甲を身に着けていた。
「脱ごうかと思ったんだが、まだな」
 動きやすいから、とパキトポークは言うが、武装姿の方が市民に押しが効くと判断したのだろう。
 武器さえ発射可能な状態で携行していた。


「ここに慣れるには時間がかかるだろうな」
 アンドロには所有という概念がないということは聞いた。
 どこで過ごそうが、どこで寝ようが、自由だ。
「昨夜は、とりあえず手近なところで寝たが、これからどうする?」

「アンドロに倣う。それでいいんじゃないか」
「そうかな」
 一人ひとり、所在地を決めてやらないと、都合が悪いのじゃないか、というのだ。
「その方が、連中も落ち着くと思うが」

 ンドペキは賛成できなかった。
「絶対にだめだ。アンドロの流儀でいくんだ」
 この世界での社会構造が定まらないまま、所有の概念を持ち込むことは争いの元になる。
 争いどころか、これから造られる社会構造がいびつなものになりかねない。

 アンドロ達がなぜいないのか、その理由を市民はまだ知らない。
 それに、市民の中にはアンドロに差別感を持っているものが少なくない。
 使用人と思っているならまだいい。
 人によっては極端に、奴隷ロボット風情が、という意識もあるのだ。
 むしろ、それが一般的な意識だともいえる。


「部屋割りは決めない。決めさせない。毎日、シャッフルするんだ」
「面倒だな」
「面倒であろうが、文句が出ようが、そうするんだ」
「うーん」

「パキトポーク。俺たちの役割も決めよう」
「ん?」
「隊員それぞれの」
 市民には、組織というものがない。
 当面は、東部方面攻撃隊が取りまとめる役を担うしかなかった。

「まず、全隊員で、夕食の準備。というより、夕食を準備する市民を募ろう」
「アンドロに頼ってばかりじゃいけないってことだな」
「そう。最初が肝心だ。アンドロは使用人じゃない。この場所を提供してくれた人々なんだということをわからせなくては」
「了解だ」
「今すぐ取り掛かってくれ」
「よし」
「俺は、ヌヌロッチと今後のことを話してくる」


 ヌヌロッチは、彼が指定した部屋にはいなかった。
「今度は迷わないように」
 探すしかない。
「そうね」
 スゥと共にいる。
 本来なら、一人でも手が欲しい状況だろうが、これだけは譲れない。
 スゥと必ず一緒に行動する。
 ンドペキはそう心に決めていた。


 食料チップを口に放り込みながら、再び歩き回る。
 今回は、あちこちで聞いて回ることができる。
 最初は、すぐに見つかると思った。

「いったい、どこへ行ったんだ」
 アンドロからようやく得た情報は、ンドペキを迷わせるものだった。
 東の街はずれに向かうのを見た、と。


 行ってみるか、それとも、帰ってくるのを待ちながらパキトポークを手伝うか。
「行ってみよ」
 スゥが決めた。
「昨夜の溶岩さんに、文句言わなくちゃ」
「は?」
「冗談よ。でも、なぜあっちを指差したのか、気になるじゃない」
「それこそ悪い冗談じゃないのか」
「知りもしない人に? それも、アンドロが? ありえないでしょ」

 嘘をつくことが苦手なアンドロ。
 溶岩のアンドロがあの状況で、そんな悪戯をするはずがない。
 悪意があるはずもない。
 なんとなくそんな気がした。

「で、俺たちが彷徨ったのは、東か?」
「そうよ。しっかりしてよね」
「まだ、なんとなく朦朧としているからな」
「じゃ、もう少し寝る?」
「いや、それはできないな」
「そうよね」


 ンドペキとスゥは街はずれまで来た。
 浮遊走行が可能だった。
 瞬く間に、移動ができる。
「これは役に立つな」

 昨夜の場所に、溶岩はいなかった。
 その代わり、街はずれの先、昨夜は暗闇だった道を歩いていく男の姿がある。
 今は、例の一面灰色の世界を。
「追いついたかな」

 振り返ったヌヌロッチは、あからさまに顔をしかめた。
「迷惑そうだな」
「そういうわけじゃないですが……」
「今後のことを話し合っておこうと。申し訳ないが、昨日は疲れ果ててて」


 歩きながら話すことになった。
「どこへ向かっているんだ?」
 街外れから先には行くな、そう言われた記憶がある。
 ヌヌロッチが微妙に笑った。

「私も始めていくのです。ンドペキも見ておいた方がいいかもしれません」
「何を?」
「この次元のエネルギーに安定をもたらしている仕組みを」


 ヌヌロッチは昨夜、調べてみたという。
「あれを作った技術者がいるはずなんですが、全員、ワークディメンジョンに行ってしまったようで、聞く人がいないのです」
「何百年も前に作った人が?」
「そうですよ」
 ヌヌロッチは少し驚いた顔をしたが、すぐに調べたことを説明し始めた。

 装置の全容は目に見えない。
 隠されているという。
「不要な者が弄れないようにするためでしょう」
 大通りの東端部から先にあるという。
 そこから先も次元に浮かぶカプセルの中で、装置はカプセルの約半分を占める大きさらしい。
「巨大なものらしいです。見えるのはそのほんの入り口だけらしいですが」


「そういや、昨夜、明りが見えた」
「えっ、そうですか。装置が本格稼動したからでしょうか」
 装置は次元のエネルギーに対して、正対するエネルギーをぶつけることによって制御されている。
「きっと、ものすごい力なんだろうな」
「ええ。でも、ここには無限ともいえるエネルギーが渦巻いていますから、その向かう矛先を変えるというようなことなのでしょう」

 ヌヌロッチは、詳しくはわからないといった。
「ただ、そのエネルギーを、というかエネルギーの向きを厳密にコントロールするためには、意識の力が必要なんだそうです」
「意識の力か……」
「コンピュータシステムで厳格にコントロールするのではなく、むしろ、人の意識のようなあいまいな部分のある意識がいいそうです」
「あいまいな部分か……」

「それに、デジタルによる指示は、どんなに瞬時に発信されても、どうしても隙間が生じます。人の意識はそれこそ連続的で途切れることはありません」
「そうか……?」
「そうですよ」
 人間の脳も、微弱な電気信号によってものを判断している。
 タイムラグがあるものだが……。

 人間が目で見たものを判断するには、コンマ数秒の時間がかかる。
 今見た、と思っていても、実際はコンマ数秒前のものだと聞いたことがある。
 ん?
 待てよ。
 アンドロは……。

 アンドロの生体がどのように作られているのか、ンドペキは知らない。
 案外、人より、その意識形成のシステムは精巧にできているのかもしれない……。


「人の意識。それが継続して働くことによって、常に変化し続けている膨大なエネルギーをコントロールし、遮断することができるそうです」
「なるほどねえ」
「ゲントウという科学者、なかなか凄いものを作ったんですね」
 この装置も、カイロスも、ゲントウの作。
「人間も、捨てたもんじゃないですね」
 振り返ってみれば、アンドロも、その次元への移行も、科学の産物ではある。
 オーエンが嘆いたように、その進歩は停滞して久しいが。

「いよいよですね」
 ヌヌロッチが呟いた。
 声に緊張感があった。
 大通りの東端部に到達した。
 クリスタルではない。
 地球に存在する石材と鋼鉄でできたゲートがそびえていた。
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