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サントノーレ 作者:奈備 光

11章

102/118

102 徘徊

 ンドペキが目覚めた時、辺りは薄暗かった。
 ヌヌロッチが言ったとおり、クリスタルの輝きは失せ、それぞれのピースがかすかに発光しているだけだった。

 スゥもすぐ横で、装甲を身につけたまま横たわっていた。
 まだ、意識が朦朧としている。


 夢を見ていた。
 その断片が、脳裏に残っている。

 スゥの洞窟の部屋で、イコマが推理を展開したあのシーン。
 ただ、それがイコマではなく、自分だったという意識。

 それに、話の内容が異なっていた。
 それは、現時点での思考。
 いくつもの謎が、謎のまま残り、何一つ、解決していないという……。

 そんな焦りが、夢の中の自分を苦しめていた。
 いや、本当にそうだろうか。
 手詰まりなのだろうか。
 糸口さえないのか。

 部屋の隅に蹲ったチョットマの視線が痛い。
 もう少し待ってくれ。
 もう少し……。

 セオジュンとアンジェリナ、ハワードはどこに。
 ニニはこの次元にセオジュンとアンジェリナがいると言ったのではなかったのか。
 そういえば、マリーリは今どこに。

 そうだ。
 あの荒地軍の正体は。
 そもそも、エーエージーエスでオーエンに殺されたあの軍は。
 統一された装備で、荒地軍やエリアREFに出没した軍とはかなり様相が異なっていたが……。

 レイチェル……。
 生きているのか……。
 では、どこに。
 なぜ、姿を見せない。
 なぜ、情報がない……。

 夢の中の自分は、そんなことを、あの洞窟の部屋でチョットマを相手に聞かせていた。


 ンドペキはやっとの思いで立ち上がった。
 確かめなくては。

 何を確かめたいのか判然としないまま、部屋を出た。
 そうだ。
 チョットマはどこに行った。
 市民の様子は。
 隊員達はどうしている……。

 意識が定まらない。
 目に見えるものがかろうじて判別できる程度にしか、頭は働いていなかった。
 自分が今何としようとしているのか、どこに行こうとしているのかわからないまま、ンドペキは街を彷徨った。


 いくつかの部屋を通り過ぎた。
 市民が毛布にくるまって眠っていた。
 それぞれの部屋に十人ほどが、てんでばらばらの方を向いて、床に転がっていた。
 テーブルには食べかけの食事が積まれていた。

 いくつ部屋を覗いても、チョットマやライラの姿はない。
 寝ているのを見つけたら、それだけで安心できる。
 そう思って探すのだが、見つからない。


 後ろの足音を聞いて、振り返った。
「こんなところで一人にしないでよ」
 スゥだった。
「悪い」
「チョットマ?」
「ああ。いないんだ」
「朝になれば、顔を見せるんじゃないかな」
「そうかもしれない。でも、少し気になる」
「あんなチョットマ、初めてだもんね」
「ああ」


 ンドペキとスゥは、次々と部屋を覗いていった。
「あれ、ここ、さっき見たか?」
 どこも同じような作りで、区別がつかない。
「ンドペキ、戻れる?」

 ハッと気づいた。
 戻れない!
「しまった!」
「はあ!」

 迷ってしまった。
「困ったな」
「しっかりしてよね」
「やれやれ」
 急速に頭が動き始めたが、後の祭だ。


 ぼんやりした意識のまま歩き回って、迷子になってしまった。
「とりあえず、大通りはどっちかな」
 大通りを横切ってはいない。
 出さえすれば、帰り道が分かるのではないか。

「出たね」
 プラタナスの並木道。
 東西に走る大通りは二本。
「なんて名だっけ」
 聞いたはずだが、記憶になかった。
「どっちが東?」
「さあ」

「看板もないし」
 ストリート名を書いたようなサインもなく、大通りに出たところで何の意味もなかった。
「参ったな」
「どんな花が咲いてた?」
「うーん。黄色い花だったような気が……、紫だったかな……」
「当てにならないな」

 とりあえず、右手へ行ってみることに。
「俺たちの部屋、大通りに面してたよな」
 思い返せば、ここへ来てからのすべての記憶が曖昧だった。
 疲れ果てていた。
 まだ取れてはいない。
 頭はまだぼんやりしたままだった。


 違う。
 そう感じ始めた。
 なんとなく、かなり歩いてきていた。
 誰にも会っていない。

「ん? あそこ」
 アンドロの溶岩が道端に蹲っていた。
「聞いてみるか」

 近づいていくと、何も言わないうちから、手を出してきた。
 そして指差した。
「ありがとうございます」
「こっちね」


 示された方向に、どんどん歩いていった。
 しかし、自分達の部屋らしき建物はない。
「どこも同じだ。目印、なんかある?」
「さあ」
 参ったな、ばかりを繰り返しても、どうなるものでもなかった。


「街はずれか」
 クリスタルの建物が、なんとなくまばらになったように感じた。
「そうみたい」
「ん?」
「ほら」
 見れば、もう少し先で建物が途切れ、真っ暗な道がまっすぐに続いているだけになった。

 遥か彼方に小さな明かりが見えた。
「戻ろう。あいついったい、どこを教えてくれる気だったんだ?」
「私達が行き過ぎただけかも」
「まあな」


 戻るにつれ、クリスタルの放つ光が増してきた。
 夜が明けてきたのだ。
「妙な感覚だな」
 建物の明るさで時刻を知るというのは。

 やっとのことで、自分達の部屋に辿り着いた時には、すっかり明るくなっていた。
 顔を見るなり、パキトポークが噛み付いた。
「デートはしばらくお預けだ! 居場所を明らかにしておけ!」
「すまん」
「何時だと思ってるんだ! もう、昼を回っているぞ!」

 えっ。
 ンドペキとスゥは顔を見合わせた。
 迷ったとはいえ、うろついていたのはせいぜい二時間少々。

 そういや……。
 場所によって時間の流れるスピードが異なると言ってたな。
「凄まじいな。この時間差は」
「慣れるしかないってことだったけど、なかなかそうはいかないみたいね」
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