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サントノーレ 作者:奈備 光

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プロローグ

※注意:前編「ニューキーツ」のネタバレになります。

前編「ニューキーツ」のあらすじ

六百年後の地球、二十一世紀の末に絶望的な人口減少をみた人類は、生殖による人口増を諦め、いくつかの人造人間によって社会は構成されていた。ニューキーツの街もその例外ではない。
人造人間の形式は、次のとおり。
ホメム=通常の生殖によって生まれた人間。もはや地球上に六十七人しかいないと言われ、六十七の街はホメムによって統治されている。この物語に登場するホメムは、ニューキーツ長官レイチェルただ一人。
マト=元は普通の人間だった。再生され続ける肉体を持つが、記憶は失われていく。再生時のミスで、異形となった者もいる。スジーウォンやコリネルス、アヤなど、その多くがマト。
メルキト=マトとマトの子供。あるいはマトとメルキトの子供など。普通の人間だったことがない。男女が恋をすることがなくなって久しく、メルキトの数はそれほど多くない。
アギ=肉体を得るより記憶が失われないことを優先した人類。電脳の中で生きる存在であり、思念の人と呼ばれている。すべての記憶が失われることはないが、肉体を持たないことからフライングアイという小飛行体によって、リアルな世界と接触を持っている。記憶が失われていくマトメルキトの会話相手としての役割を与えられている。主人公イコマはアギ。
アンドロ=使役するために生み出されたアンドロイド。真面目で勤勉。人類に奉仕することを当然と考えている。肉体、思考共に生身の人間と遜色はないが、友情や愛情など、感情の面でプログラミングされていない面があることが彼らの悩みとなっている。通常は、別次元であるベータディメンジョンを住みかとし、こちらの次元に「通勤」している。食料生産といった基本的な役割も含め、街の機能はほぼすべてアンドロによっている。レイチェルのSPであるハワードもアンドロ。
クローン=製造が禁止されているが、少なからずいるようだ。

ある日、ニューキーツ東部方面攻撃隊の女性兵士サリが死んだが、通常の再生期間を過ぎても戻って来ないことを不審に思った、チョットマを始めとする兵士仲間達が騒ぎ始めた。しかし、そんな騒ぎはひとつの出来事によって吹き飛んでしまう。宇宙に飛び立った神の国巡礼教団の生き残りが、姿かたちを変えて数百年ぶりに地球に帰還したのだった。彼らは自らをパリサイドと呼んだ。
彼らが敵か味方かわからないまま、アンドロの一グループによってニューキーツの街は実質的に占拠されてしまい、長官であるレイチェル、そしてイコマの娘アヤが、巨大な科学的装置の遺物エーエージーエスの中で殺されかける。そして、ハクシュウ率いるニューキーツ東部方面攻撃隊の兵士達は謎の女性スゥに導かれて、街の北部にある地下洞窟に立て籠もることを余儀なくされてしまう。
ニューキーツ地下のスラム街、エリアREFでサキュバスの庭の女帝を呼ばれる呪術師の老女ライラと接触を持つが事態は快方には向かわない。そればかりか、再生システムの崩壊により、攻撃隊の隊長であるハクシュウが刺客クシによって殺されてしまう。

ハクシュウに代わってンドペキが指揮を取ることになった東部方面攻撃隊は、レイチェルとアヤの救出に成功し、荒地軍すなわちアンドロ軍と対峙する。パリサイドの援助を得て、荒地軍との戦闘には勝利を収めるが、戦局は膠着状態に陥ってしまう。その間、イコマはパリサイドのリーダーとなっていた最愛の人ユウと六百年ぶりの再会を果たした。
そんな中、ユウによってひとつの事実が告げられる。ンドペキはイコマの、スゥはユウ自身のクローンとしてユウが生み出した人間だった。そして、イコマとンドペキ、ユウとスゥはそれぞれに記憶や思考を同期させることになった。これは戦況を有利にはしたし、崩壊した政府軍の生き残りが味方として参集してきたが、かといってアンドロ軍を蹴散らすことはまだできず、スゥの洞窟での籠城が続く。

手をこまねいている中、ようやく姿を見せたサリによって、レイチェルが刺されてしまう。ユウの部下であるパリサイドのKC36632がサリとそっくりな姿をしていたため、完全に油断してしまっていたのだ。
サリはレイチェルを道連れに水系に落ちていった。そして二人は死んだ。
悲しみに暮れる中、イコマによって解き明かされた謎。
死んだサリは再生はされてはいたが、再生の過程でアンドロによってレイチェルを憎むように思考がねじ曲げられていたこと。そして、サリもチョットマも、ホメムであるレイチェルが、自分に子供を宿してくれる男性を探すために違法に生成したクーロンであったこと。
しかし、攻撃隊にはレイチェルを無くした悲しみに沈んでいる暇はない。ニューキーツの街を奪還しなければいけないのだから。
「パパ! 大変! セオジュンが!」
 チョットマが駆け込んできた。
「パーティに来ない!」
 慌てふためいて、イスを蹴っ飛ばしている。
 狭い部屋だ。
「いないって! どこにも!」
 チョットマは武装した姿だ。
「ライラが!」
「ちょっと冷静におなり。何を言ってるのか分からないよ」
「ああーん、もう! だから! 行方不明!」

 イコマは、
「さあ、そこに座って」と、穏やかに言った。
 言われたとおりに、チョットマは自分が蹴っ飛ばしたイスを起こした。
「さあ、順に話して」
 ヘッダーをはずしながら、
「うん」
 と頷き、椅子にちょこんと座った。
 緑色の長い髪が揺れた。

 今日はセオジュンが通うハイスクールの卒業パーティだという。
 街のハイスクールと違って、ここ地下エリア、REFの学校の卒業生は例年十人どまり。
 今年は特に少なく、わずか三人。
 エリアの住民が持ち寄ったものを並べてささやかに祝うのだが、卒業生のひとり、セオジュンが姿を見せなかったという。

「部屋には?」
「いないって」
「ライラは?」
「心当たりないみたい。心配してる!」

 セオジュンは孤児ということになっている。
 この少年だけでなく、この世界に住む子供達のほとんどは親の顔を知らない。特に、エリアREFでは。
 幼少のときから、ライラが面倒を見てきたらしいが、真偽は定かではない。
 この世界では、個人の過去を穿り出そうとするような人間はいない。
 何回も自動的に再生され、生まれ変わることが義務付けられた社会では。


「で、パーティは?」
「彼がいないのに、開けるはずないじゃない!」
 セオジュン以外の二人には気の毒だが、延期となった。
 卒業生がひとりいなくなったからということもあるだろうが、この街の状況がそれを許さなかったのだろう。

 ここニューキーツの街は、アンドロが支配を強めつつある。
 街を治めてきたホメムのレイチェルが死に、人造人間であるアンドロのひとり、タールツーが暫定長官を名乗っている。
 そんな状況下での卒業式だ。
 しかも、もうひとつ、外憂がある。
 数百年前に地球を飛び立った「神の国巡礼教団」が解体し、そこから発展した「パリサイド」が地球に帰還し、定住を要求しているのだ。

 地球全体の問題であるパリサイドへの対応はさておき、アンドロとの攻防は喫緊の課題である。
 まずは街を奪還するべく機会を窺っている東部方面攻撃隊、いわゆるンドペキ隊。
 このエリアREFの住民の支援を受けて立て篭もっているが、何度かアンドロの襲撃を受け、緊迫した臨戦態勢にあるのだ。
 卒業パーティどころではないのだろう。

「主役はやっぱり、セオジュンなんだから」
 確かに、セオジュンの成績は飛び抜けている。
 二年飛び級で卒業し、十六歳という若さで政府機関、それも治安省への就職まで決まっているという。
 卒業パーティに主役というのも妙な表現だが、チョットマがお気に入りの少年なのだ。

「まあね」
「もう! 気のない返事!」
 そう言ってチョットマは口を尖らすが、ンドペキ隊の隊員である彼女こそ、エリアREFでは一目置かれる存在である。
 いわば、噂の人。

「関心がないわけじゃないよ。いつからいないんだい?」
「昨日の朝。もう、丸一日経ってる!」

 イコマは部屋を眺めた。
 バーチャルで作られた部屋に、コンフェッションボックス経由でチョットマが訪ねてきたのではない。
 窓のないエリアREFの実体のある小さな部屋で、フライングアイとして対面している。


 思い出す。
 これと同じような会話をこの娘としたのは、わずか二ヵ月ほど前。
 あの時は、サリの失踪が腑に落ちないといって、バトルシーツを着たままの姿で駆け込んできたのだった。
 今日と同じように。

 あれからさまざまな出来事があった。
 イコマの身にもチョットマの身にも。
 そしてニューキーツの街にも。
「じゃ、チョットマ、君がしっかりしなくちゃ」

 チョットマ自身、わかっているのだ。
 仲良しになったセオジュンがいなくなったからといって、そのことにかまけている時ではないことを。


「じゃ、パパ。私、なにをすればいい?」
 しかしイコマは、この娘自身が隊員として、なにをするべきかを敢えて言いはしなかった。
 明日の生死もわからない今、それは彼女自身が考えることであり、隊長であるンドペキが伝えるべきことだからだ。
「ライラのそばにいておあげ」
 イコマは、ンドペキの意識としても、こんな風に言って、チョットマをできるだけ柔らかく包んでおいてやりたいと思った。
「うん」

 サリの失踪の謎を解いてみせたあの夜以降、チョットマの立場に変化が起きた。
 周囲の見る目が大きく変わったということではない。彼女が大きな責務を背負ったというわけでもない。
 しかし、いずれそのときが来るかもしれない、という予感。
 そんな空気感である。

 チョットマの無邪気ともいえる振る舞いも、裏を返せば、そのストレスから自分を解放させようとしてのことかもしれなかった。
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