<後編>
毎日テレビをつけるたび学校の事、そして、今までの事件が順番に流れていく。
司会者はコメントしながらこの事件の残虐性を喋っている。
しかし、俺は何も気にならない。そんな気にもならない。
自分が当事者であるにもかかわらず他人事のように見ている。
退屈な毎日を退屈でなくす・・・その楽しみだけに興味があるだけ・・・。
そして、警察の動きもさほど気にしていなかった。
どうせ犯人にたどりつけるわけもないし、俺自身で手にかけたわけでもない。だから証拠は何もない。そうふんでいた。
クラスメイトを犠牲者に使う楽しみに自分自身がどっぷり浸かるとは考えもしなかった。手っ取り早く使えるというだけ・・・。
特に仲が良いと言ってもいずれ学校を卒業すれば終わってしまう関係。
俺はそう考えていたのだ。だからためらいも躊躇も何もない。
ただ、刺激が欲しい。退屈な毎日に飽き飽きしていた。
そして、いつものように自宅の自室で誰にするかを考えていた時、部屋のドアをノックする音がした。
「はい。何?母さん。」
「あのね。ちょっといいかしら。」
「― う・・・うん。分かった。」
俺は机の上に置いていたクラスの集合写真を机のひき出しにしまうと、椅子から立ち上がりドアの方に歩いていった。
ドアの鍵を開け、扉を開けると目の前には母親と刑事が2人立っていた。
「えっ?なんで刑事さんがここに?」
「あのね、もう一度聞きたい事があるらしいの。一応皆さんのお宅に順番に回ってるそうよ。」
「ふ〜ん。で、何を聞きたいんですか?刑事さん。」
「ああ、じつはね、あるクラスの生徒の被害が一番多いと言う報告を聞いてね。それで、クラスメイトのみんなに何か心当たりがないかを聞いて回っているんだ。君には何か心当たりはないかい?」
「そんなの知らないですよ。俺、知ってたらとっくに話してるって刑事さん。」
俺はいかにも不安そうに刑事に答えた。
「そうか…君も知らないか。―――じゃあ、何か分かったら連絡してくれるかな?」
「はい。」
刑事はそう言うと母と一緒に部屋を出て行った。
いや、出て行こうとした時、最後にもう一度振り返った。
「君も何かおかしな事があったらすぐにご両親に言うんだよ。」
「あっ、はい。分かりました。」
それだけ言うと刑事は俺の家を後にした。
俺は玄関のドアが開いて刑事達が出て行くまでジッと聞き耳を立てていた。
「はっはっはっ。全く分かってないね、刑事って。―――ホント鈍いよ。まっ、それだけ俺が頭いいってことだけど。ったく、…ちょっと絞りすぎたかな。まっ、いよいよって時には俺も被害者になれば言いだけだけどね。未遂の被害者にね。」
俺は一人ブツブツ言いながら引き出しから例の本を取り出した。
今度の標的は慎重に選ばないといけない。
それから数日はおとなしくしていようと決め、普段通りの生活をして過ごしたが、やはりあの時の感触は忘れられずにいた。
「そろそろいいかもな。けど、学校内の生徒はまずいだろう。」
俺は一瞬そう思った。しかし、ここで急に生徒以外の被害者が出てしまえばよけいに怪しまれる可能性が大きくなる。ならば生徒以外―――教師にしよう。そう決めると持っている写真の中から教師だけが写っている写真を取り出した。これはもしものためにと写真が保管されている部屋からこっそりとくすねてきたものだ。誰にも見られることがないよう最新の注意を払いながら…。
そしてそこに写されている教師の中で選んだのは体育の男性教師の本田。
こいつは俺が体調が悪いと言っていた時、俺の話を聞かないで無理やり校庭を走らせた事があった。あの時は酷い腹痛でほんとに辛かったのに―――。クラスメイトは保険医に言ってくれたが、本田はそういう生徒は気がたるんでいるからだと言って保険医の言葉も聞かなかった。後で聞いた話によると前日に付き合っていた彼女が突然別れて欲しいと言い出し別の男の元に行ったらしい。そんなの俺には関係ない話だ。俺を鬱憤を晴らす的にした事がむかついた。
ある日の夜、いつものように机の中に隠していた【悪魔の本】を取り出してペラペラとページをめくっていき、残りがどれだけあるのかを見てみるとイラストがあとたった二つしかないことに気がついた。
「なんだよ、もう終わりなのかよ。まだ本田が終わってないし、まだやりたい奴が出てくるかもしれないってのに…あ〜あ、つまんねーな。最後のイラストは誰にするかゆっくりと考えないとな。」
その日の夜は残されたイラストの一つを使い、本田を狙った。
次の日の学校は教師が犠牲となったことで、更なる恐怖が広がり、校内のいたるところで取り乱したり、泣き始めたりする生徒が出てきた。生徒だけではない。教師の中にも動揺が隠せずに泣き始めるものもいる。皆授業どころかここにいると言うだけでも嫌がる者も出て、皆来たばかりだというのに一目散に帰りだした。次の犠牲者になりたくなかったのだ。それは教員達も同じで、職員会議を開くまでもなく、校長からの一声で教師も帰り支度をはじめると、我先にと帰っていく。
残った校長や教頭は震えながらも、それでも生徒の前だけは気丈に振る舞い続け、皆帰ったのを確かめると二人揃って学校をあとにした。
テレビのニュースはこの残虐な事件をメインに放送し、警察がいまだに犯人を絞りきれていないというアナウンサーのコメントに皆警察の無能さをなじった。
俺は自宅でその放送を見ていた。
俺の机の引き出しには×をつけられた生徒達の集合写真が…その写真の中の生徒は半分がしるしがつけられており、教師の集合写真の中で唯一×がつけられた本田が写る写真も隠してあった。
最後の一人を誰にするか、俺は考えた。
退屈ばかりの毎日に刺激を求めて今回の事を始めた。
しかし、あと1人分しかない。
誰にする?誰にする?俺はじっくりと考えた。
試しで俺にしてみるか?
なに、未遂にすれば警察も俺に目を向けることはない。そうなれば捕まる心配もないのだ。
その日は少し早めに自室に戻った。いつもの母ならば黙っているが、今回の事件で息子を一人にするのにためらいがあったため、心配で仕方がないのだ。
「どうしたの?心配事でもあるの?」
「ううん、母さん、なんでもないよ。ちょっと調べ物があってさ。友達に頼まれたんだよ。」
「そ〜う?ならいいけど、母さん心配だわ。」
「大丈夫だって。自分の部屋なんだよ?何にも起こらないって。」
「でも、部屋からいなくなって死んだ子もいたって…。」
「心配しないで。ちょっとだけだから。」
母の心配をよそに俺は自室へと入っていった。そして、行動に移すことにした。
俺は【悪魔の本】の最後のイラストのページを開き、自分自身を標的にと願った。しかし、それは未遂として…。
ジッと見ているとイラストがグニャリと動いたような気がした。
そして―――。
「うわ――っ!!」
その叫び声に母親は大急ぎで息子の部屋へと走った。しかし、息子の姿はどこにもなかった。さっきまでいた部屋から忽然と姿を消したのだ。
母親からの通報で警察がやってきたが、近隣の聞き込みをしても目撃者はおろか部屋から指紋さえも出てこなかった。
なにか手がかりをと部屋の中を捜索した結果、机の引き出しからクラスメイトと教職員が写っている二枚の写真が出てきた。その写真には×印が。それは死んだ人間のしるしか…。
そして、机の上にあるパソコンに日記らしきものが入っていた。
“【悪魔の本】を古本屋から盗んでしまったこと。そして、その本が本当に悪魔の本であり、そこに描かれている悪魔のイラストに願うと、その絵から抜け出して人間を襲うということ。
毎日の退屈な生活が退屈でなくなり、楽しくて仕方がなかったことなどが書かれていた。そして、警察が自分に目を向けてきたので未遂で悪魔に襲わせることを計画している事を書いてあった。”
その事を知った母親はその場に泣き崩れ、警察は少年の行方を追った。
マスコミは今の世の中がこの少年の心を歪めてしまったのだと放送し、あれこれと社会を非難した。しかし、少年は依然として見つからなかった。
それから一週間後、ゴミ処理場の中に腐乱した遺体が見つかった。それは行方がわからなくなっていた少年だった。検死の結果全身の骨が砕けている事がわかった。
少年は恐怖と苦痛でゆがんだ顔のままだった。
事件は被疑者死亡により幕を閉じた。
パソコンに書かれていた少年が盗んだと言う【悪魔の本】はどこにもなかった。少年が捨てたのか燃やしたのか、それとも…それはどうしても見つけることは出来なかった。
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