前編
<前編>
退屈な毎日にうんざりしながらも、それでも何かを求めている自分がいた。
「あ〜あ。暇だなぁ〜。」
俺は何かをしたいと言うわけではなかった。ただ退屈で退屈でつまらなく、友達と遊ぶ気にもならない。やりたいことも分からないまま一人ブラブラと街を歩いていた。
知り合いに会うでもなく、ただ歩いていても退屈しのぎにもならないので、たまたま目に入った古本屋に足を向けた。
その書店は個人の店らしく小さくて、店内にはあふれそうな程の本が置かれていた。
俺は何も考えず、店内をぶらっと歩き回り、ある本を見つけた。
その本は【悪魔の本】と題されており、少し興味を持った俺は本を開いた。
中はなぜか真っ白。
何も書かれていないのである。
普通は中に何か書いてある。しかしこれには何も書かれていない。いくら中古でもこれはひどいと思い、店の人に文句を言おうとしたが、カウンターには誰も立ってはいなかった。
周りを見ても自分一人しかいなかった。だから俺は思わずサッと服の内側に隠してしまった。
ドキドキして、このままここにいるきになれなくなってその本を持って店から出てしまった。しかし、誰も追ってくる者はいない。
それでも気が気でなく、足早でそこから離れた。途中、知った顔に出くわすことは無く、回りの景色を見る余裕もなく、ただ、足元を見ながら少し早足で自宅へと歩いていった。
家に着くとそのまま自室へと入り込み、母親が何か言っていても無視して部屋の鍵をかけた。
「どうかしたの?」
ドア越しに母親の声が聞こえてきた。
「なんでもないよ、母さん。悪いけどちょっと勉強するから一人にしてくれる?」
「はいはい、分かりました。じゃあ、何かあったら言ってね。」
母はそれだけ言うと他の部屋に歩いていった。
足音が完全に聞こえなくなった所で俺はようやく服の中に隠していたその本を取り出した。
「【悪魔の本】かぁ〜。けど、何も書かれていないってのが変だよな。」
俺は独り言をブツブツ言いながらもう一度本を開いてみることにした。すると今度は字が書かれているではないか。さっきは確かに何も書かれていなかった。目を疑い、こすって見直してみてもやはり字が書かれている。
何が書かれているのかじっくり見てみたくなり、椅子に座り、机に向かった。
しばらくはただジッと表紙を眺めていた。
さっき見たものを直ぐに見る気にもなれなかったからだ。だがゴクリと唾を飲み込んでゆっくりと両手で表紙をめくった。
表紙の裏に描かれている不気味な絵は血溜まりの中にある髑髏。その空洞の目が光り、すぐ傍には目玉が一つ転がっている。
あまりに気持ち悪く、両手がガタガタと震え出し、それを止めようとしたが、自分の意志に反して止まらない。それどころかページをめくっていく。――――まるで誰かに操られているかのように――。
目次らしきものはない。ただ書かれていた・・・。
【手にしたものは契約者とす――。
契約者は自由に使うことが可能。
ただし、一定期間がすぎれば代償を払うことを強要する。
一度手にした者は放棄する事は出来ない。
放棄をしたければ代わりの契約者を用意しなければならない。】
そして、次のページをめくるとイラストが載っていた。
イラスト以外は何も書かれておらず、それは最後まで続いていた。
俺はどういう意味か理解できず、とりあえず引き出しにしまった。
それでも心臓はドキドキし、両手は汗でベットリとしていた。
「すっげー!気持ち悪い悪魔ばっかじゃん。これ、みんなに見せたら受けるぜ。」
俺はそう思い、その日は家族に内緒にしたまま朝を迎えた。
そして、学校に行く前にもう一度見てみたくなり、【悪魔の本】を手にした。
そして表紙を開けた時、俺はビックリした。
そこには昨日書かれていなかった言葉が書かれていたのだ。
【この本を他人に見せてはならない。
その時点で契約者に災いをもたらす。
もちろん話す事もである。】
「な、何だよ、これ。昨日書かれてなかったじゃん。」
俺が独り言をブツブツ言っていると、その本から何かが染み出てきた。
―――そう、『血』である。
「ひっ、ひっ?!」
俺は恐怖を感じた。この本は持ってきてはいけなかったのだ。
このとき初めてこの本は普通の本ではないと実感したのだ。しかし、時すでに遅し・・・始めに読んだ『契約者』となってしまっているのだ。今更どうしようもない。
俺は慌てて机のひき出しにしまい、慌てて自宅を出た。母親が朝食を食べていきなさいと言っていたが、そんな事よりも少しでも早く自宅から―――いや、あの本から逃げたかった。
俺は怖くて怖くて誰とも話す気になれず、真っ青な顔をして教室に入っていった。
その様子を見たクラスメイトは心配そうに俺を見ている。
けれど、俺は周りを見ている余裕もなく、自分の席に座り、教科書類を机にしまった。その時何かが手に当たった。おかしい―――。先週はすべて持ち帰ったはず・・・机には何も残されていないはずだった。いや、もしかして先生に預けてあったノートが帰ってきたのかも―――、そう思い俺は机の中を覗いた。そして―――。
「うっ、うわっ!!」
俺は思わず椅子から滑り落ちた。
そう、あれがあったのだ。――【悪魔の本】が―――。
確か家の机にしまってきたはずだった。けれど、それがここにあるという事は――――本がここまで来たという事。ありえない。本が一人でここまで来たという事か?それとも・・・。
「おい、どうかしたのか?」
「い、・・・いや、何でもない。」
真っ青な顔をして、ガタガタ震えているのになんでもなくはないだろう。
友達は心配そうにして俺の顔色を見ている。
「い、いや、本当になんでもないんだ。ちょっと疲れてて・・・。」
そんな言い訳が通用するわけはない。けれど、友達はそれ以上何も言ってこなかった。言いたくないことがあるのだろうと思ったのだろう。それはそれでありがたかったが、その日はもう授業どころではなかった。少しでも早く家に帰りたかった。
だが、そういう日に限って良くない事に出くわしてしまった。
校内での不良に捕まってしまったのだ。
喧嘩っ早く、みんなから嫌悪されているグループだ。
「おい、ちょっと金貸してくんね〜?俺達ちょっと手持ちなくてよ。遊べねーんだ。」
ニヤニヤしながら顔を近づけてくる。口臭が臭くて思わず俺は顔を背けてしまった。
「おい、シカトしてんじゃねーよ!」
いきなり殴ってきた。俺は避けるまもなくそいつに殴られ続けた。
「グワッ、ガッ、イテー、止めろ!」
しかし、不良達は殴る蹴るを止めなかった。耐え切れなくなり、俺は意識をなくした。
暫くして俺が意識を取り戻した時にはもう不良達はいなかった。
俺は腹が立ち、憎しみを感じた。
その時ふと思った。あいつら許せない・・・と。
頭に本の事が横切った。
【悪魔の本】だ。
自宅に帰った後、自分で傷の消毒をし、自室に入り、鍵をかけた。
そして、本を開いた。
もし、この本の悪魔が使えたら…そう思いながらページをペラペラとめくっていき、あるページに目がいった。
そこに描かれている悪魔が使えたとしたら―――。
あいつらに仕返し出来たら―――。
そう思った時、その絵が少し動いたような気がした。
「まさか…な。」
その日の夜遅く、ある場所で事故があったことを知らないまま俺は眠りについた。次の日、重い足取りで学校に行き、教室に入るといつもと違う雰囲気でへんだなぁ〜と思って一人に話しかけた。
「なあなあ、どうしたんだ?なんかみんな変だけど――。」
「ああ、実はさー・・・。」
そう言いながら話し始めた。そして、俺はビックリした。
昨夜遅く同じ学校の生徒が事故に巻き込まれたと言うのだ。
その被害者は昨日絡んできた不良の一人だった。
ことの真相はこうだ。
昨日、夕方不良仲間と一緒に街中で女性にしつこく絡み、それを見ていた通行人から警察に連絡が入った。駆けつけた警官2人に気付いた仲間達は散り散りに逃げ、他の仲間は逃げおおせたが、俺に絡んだ不良は警官に追いかけられた。そして、逃げている途中から様子がおかしくなり、そのまま踏み切りをこえて線路に入ってしまったのだ。
その時運が悪くちょうど特急の電車がやってきて、轢かれてしまったのだ。
運転手も気付くのが遅く間に合わなかった為スピードが出たままだった。
体はズタズタに引きちぎられ、ミンチになっている部分もあった。
現場は見るも無残な状態で、長年経験しているベテランの鑑識も気分が悪くなるほどだ。
目撃者の証言で逃げていた不良は何かに怯えていたと話していた。
警官ではなく違う方向を見て「来るな!寄るな!」とも聞こえたとも話している。
俺は心当たりが一つだけあった。そう、例の【悪魔の本】だ。
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