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死の境に棲まうモノ
作:都築景



四章:死神のカタチ


ベランダとつながっている窓のカーテンを開くと眩しい光りが部屋に差し込んだ。
「今日もいい天気みたい」
目を細め、イザはテーブルに突っ伏している人影へと笑いかけた。
「それはよろしいことで」
昨日も夜中までイザに遊ばれ、寝不足になっている暁が地の底から響くような声で応じる。目元にはしっかりと黒いクマが。
「というか、あんたはなんでそんなに元気なわけ?」
「それはもう、体の作りが違うから」
胸を張って言うイザに気の抜けた返事をし、ため息をつく。
イザを含む死神たちと会ってから五日、暁は何もされる事なく、ただ彼等と生活していた。あのナンパ男も話してみると中々いい奴で、他の三人も裏表がないので下手なクラスメイトよりもマシかもしれない。
「他の三人は?」
「サノ以外は寝てるわ。あの子は今、『デキソコナイ』を探してるの」
「できそこない…?」
「ほら、五日前に貴女が見たあの黒いの。ややこしい話の大元」
「ああ、アレ…。というか、そのややこしい事情は話してくれるの?」
「ああ、すっかり忘れてたわ。ところで紅茶飲む?」
「うん、もらう。じゃなくて、話してくれるの?」
「そのつもりよ。ただ、話すと喉が渇くからね」
コンロにヤカンを乗せ、イザは髪をかき上げた。
機嫌良さそうに紅茶の準備をするイザはそこらにいる少女達とまったく変わらない。
紅茶をいれ、イザは暁の正面に座った。
「それじゃ、始めましょうか。まずは…暁さんは死神がどうやって生まれると思う?」
「はぁ?………やっぱそういう死神の組織があってそこで普通に…」
「それはそれで良いかもね、けど違うわ。私たちは…昔は貴方達と同じ人だったの。貴女達の教科書に載る程の時代だけどね」
「元は人間…?」
「そう、人間だった。死神の条件を満たしていて、今に至るという訳」
「人間が死神になる、まぁ納得はできるけど…。それよりも、条件って何?」
イザは紅茶で喉を潤すと自嘲するかのように唇を歪ませた。
「愛する人を失い、自らも死にかけているのに復讐を望む者、それが死神になるための資格。その上で覚悟があるのなら契約し、きっかり一年の間に千人殺せば晴れて死神になれるわ」
「千人…。あんたもそんなに殺したの?」
「ええ、そうよ。正直死神になんかなりたくは無かったけどね。皆もそうよ」
「じゃぁ、どうして?」
「…メリットがあるから。もしね、千人殺せたら愛しい人を殺した者を自分の手で殺させてくれるのよ」
「たった…それだけの為に?」
「貴方達には解らないかもしれないけど…私達は選んでしまったの。人である事を捨てでも…あの人の仇を討ちたかったから」
ゆっくりと言い聞かせるように語るイザの表情は何も映しておらず、暁は言い様の無い何かを感じた。
「…」
「ま、そんな訳で私達は貴女の前にいるの」
さらっとイザは言っているがどこか無理しているように見えた。あくまでも暁の感じたものだが。
正直に言って今の話を聞いて彼女に恐怖を覚えたが、けれど……だけれどもイザという少女に対しての好意が崩れる事は不思議と無かった。
「…死神ってのは他にもいるの?」
気を取り直して暁がそう問い掛けると、
「他の国には居るかもしれないけど少なくともこの国では私達四人だけよ」
「四人だけで…?」
「そ、一年で千人ってのは案外難しいのよ。それこそ戦でもない限り」
「教科書に載ってるって言ったけど、イザって何時の時代の人なの?」
「ん?…私はね、平安から鎌倉位までの人。因みにナギとツクがが戦国でサノが幕末辺りよ」
まるで自分の名前を言うかのようにさらりと答えるイザに暁は目を丸くした。せいぜい百年程だと思っていたのだ、平安といえばその10倍。
呆然と見る彼女はどう見ても普通の何処にでもいる少女。町ですれ違っても死神だとは夢にも思わないだろう。
「そんな風に見て、どうしたの?」
「いや、実はコレ新手のドッキリだったりして、と思って」
「ふふ、確かにそうだったら私達ももっと気楽なのにね」
しみじみと呟くその姿は何とも言えない哀愁を含んでいて…暁は何も言えなかった。
いや、言ったところでどうしようもないのだ。彼女と暁は決して同じ立場ではないのだから。どんな言葉も本心までは届かない。
「話を戻しましょうか。…もちろん、失敗する人もいてね、それが『デキソコナイ』なの。たぶん、そっちの方が私達より多いでしょうね」
イザはすっかり温くなった紅茶を流し込み、手を組み直す。
「彼らの、『デキソコナイ』の目的は死神の標的を彼らの手で殺すこと。つまりは死神の邪魔をするって事ね」
「って事はアレは私を狙ってたわけ?」
「ま、そういう事。因みに私達はアイツらに標的をやられたらペナルティが課せられるの。だから、私達も必死で動かなきゃなのよねぇ」
「でも、どっちにしろ私は殺されるんでしょ?」
「まあね、でもアイツらよりかは苦しませずにやれるわよ。『デキソコナイ』と私達じゃあ差が有り過ぎるのよ」
「いや、そんなこと言われてもわかんないし。…そもそも『アレ』って一体何なの?」

「呼び名の通りよ。契約したのに一年で千人殺せなかったモノ。殺した人間が多いほど人の形に近いわ。それに…彼等は私達の標的を殺せたら褒美が与えられるの。コレは…」
一旦言葉をきり、イザは不快そうに眉をひそめて息を吐く。
「つまり、ゲームなの。貴女達を配当金にした最低の、ね」
「なに、それ…」
「不快なのは私達も一緒よ。それでも選んだ以上やり切るしか無いわ、たとえどれほどの苦痛が待ってようと」
眉をしかめたままイザは答えた。暁の方を見ている彼女の視線はしかし、遥か遠くを見つめていた。
「この体はね、特別なの。この千年間私は年をとらずに不老で居たし、どんな大きな怪我をしてもすぐに直るのよ」
自嘲の笑みを浮かべ、イザは腕を組み直した。
どこか声をかけ難い彼女の雰囲気に暁はすっかり冷めてしまったカップを両手で包んだ。
「便利な体よ、けど治るときの痛みはその怪我の約二倍になるのよ」
「うわ、痛そう」
「契約したからとはいえ、人殺しをしてる事にかわりはないって、死んでからも楽に転生させてくれないしねぇ」
眉をしかめたまま、イザが愚痴る。
「死神でも死ぬの?」
「当たり前よ、死神とはいえ体の構造は人と変わらないんだから。頭をやられたり心臓を傷つけられれば死ぬわ」
「転生って…?」
恐る恐るといった感じで暁は問いかけた。所在無さげに目を徨わせる。
「もちろん、貴女が知ってるあの輪廻転生よ」
「そう、何だ…」
「本当にある事なのよ。…私達の場合は、極悪人と見なされて…千回様々な方法で死を受け入れ、黄泉の業火で千年間焼かれ続けて…やっとなれるの」
「…」
自嘲の笑みを浮かべてさらりと告げるイザに暁はただ引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
「まぁ、貴女達の場合は罪人じゃないし、すぐに生まれ変われるけどね」
「あ、そうなんだ…」
イザの話にわずかに不安を感じていたがその一言に小さく安堵のため息をついた。
「死神の講座はこれで充分かしら?」
「え…あ、うん」
にっこりと微笑んで問いかけてくるイザに気圧されたかのように暁はぎこちなくうなずいた。
優雅に立ち上がり、イザが空になったカップを手にする。
その時、まるで見計らったかのように玄関でドアが開く音がした。
「帰ってきたわね」
すっと目を細め、イザがつぶやいた。

そして、彼女の終わりまでの時は回る。まるで石が坂を転がるように急速に、止まる事なく……


我ながらややこしい設定です。暁の性格がは毎に違うし、そもそも普通の人はあんなあっさりと受け入れないよ…。
次はもうちょっと早く出来るといいなぁ











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