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アロエ
作:小日向雛



第17話 原因追求


「咲があんな風になってしまった原因は分かっています」

「は……?」

美浜咲の依頼についての質問をしている時だった。

『原因を我々が見つけて解決すればいいのですか』と質問した時に返ってきたのがこの言葉だ。

「原因は学校です」
あまりにもきっぱりと断言する父親にびっくりしながら2人で顔を見合う。

「家庭では咲が不自由なく過ごせるように心がけています。したいことはさせ、食べたいものは食べさせています」

こんなにも優しい微笑みを見せる父親が嘘をついているなんて到底考えられなかった。

2人はそれを信じて『うんうん』と頷く。

「では、ご家庭と学校以外で何か咲ちゃんの興味をひく物や場所はありますか?」

「そうですね〜、これといっては思い付かないです」

「そうですか」

「私はただ、以前までの咲の可愛い笑顔をもう一度見たいだけなのです。あの子が再び笑ってくれるなら、これ以上の喜びはありません」

優しい言葉をすっかり信じて会話は終了した。



その場で納得したものの、寺門の中では何かが突っかかっていた。


それは咲ちゃんが言っていたわけではない……?


寺門は咲の面倒を見るという仕事が任された。

「咲ちゃん、学校は楽しい?」

咲は上品に正座をして、目はしっかりと寺門を捕らえていた。

相変わらずの無表情に思わず苦笑するほどだ。こんなことはもう慣れっこだ。

「おじさんに教えてくれないかな」

咲の態度は変わらない。

ただ、何か言いたそうに口をわずかながらパクパクさせていた。

いつもはしない行動に驚き、さらに寺門は質問を続けた。

「言いたいことがあるなら、言ってくれて構わないんだよ?」

すると今度は不服そうに顔をしかめた。

寺門はふと、咲に和菓子を与えた日のことを思い出した。

最初は人見知りが激しいのだろうかと考えたものだが、こんなにも他人の顔を凝視できる人見知りなんて聞いたことがない。

もしや、という考えが寺門の脳裏に浮かぶ。

「学校には楽しいか、教えなさい? 言いたいことがあるなら、言うんだ」

すると咲の表情が一変した。

姿勢は依然として美しさを保ってはいるが、目は大きく見開いてこちらに興味を示している。

「学校では、皆と遊ぶの。みどりちゃんとようちゃんとだいきくん」

「何をして遊ぶの?」

「鬼ごっこだよ。それからかくれんぼ、おままごと。学校のブランコとうんていも楽しいんだよ。みどりちゃんはブランコがお上手で、ようちゃんはうんてい、だいきくんは足がとっても早いのよ」

咲との初めて交わした言葉に寺門は興奮し始めていた。

「咲ちゃんが得意なのは?」

「かくれんぼ! ぜったい誰にも見つからないの」

咲の顔は赤く火照り始め、口の両端は少しずつ上がってきている。

しかし、咲の話だと学校に原因があるとは考えにくい。

では、父親が嘘をついているのか?

寺門は質問を続ける。

「お父さんについて教えてみなさい?」

咲の表情はいつものものに戻っていた。

ただ、火照った顔は中々すぐには元通りにならないものである。

そうして口を開く。

「お父さんは……」



夜の7時を回っても、咲の父親はなかなか来なかった。

「寺門くん。ちょっといいかな?」
そう唐突に呼ばれたのは、咲に晩御飯を食べさせ、一眠りさせている時だった。

内容は「昼間寺門が咲に命令口調で何か問いただしていた」というようなことだった。

「はぁ」
何とも情けない相づちをうつ寺門に、立脇はさらに参ったような声を出した。

「あのね、いくら方法が無いからといっても脅しは一番やっちゃあいけないことなんだよ?」

「しかし咲ちゃんは……」

「例外はない」

人の話を聞こうともしない立脇に、ついに寺門の頭の中で何かがキレた。

「聞いてください! 原因は……原因は学校ではないんです!」

立脇は寺門の叫びに驚いて目を丸くする。

しかしそれ以上に驚いたのは、寺門の背後でドサリと何か重たいものが落とされる音が聞こえたことだった。

「原因は学校ではない……?」

明らかに咲の父親の声だった。
いつもより小さく情けないか細い声で、まるで小鳥が鳴くように呟いた。

寺門に「しまった」という焦りが生まれた。

「寺門さん。あなたもしかして私に嘘をついて咲のことは適当に誤魔化そう、なんてお考えではないですよね?」
横で立脇が疑いの眼差しを寺門に向けている。

「いえ。すべて咲ちゃんの証言によるものです」

父親はさらに愕然とした。
目の焦点は寺門ではなく空を見つめていた。

「では……では何処か私の知らない所で何かが起こっていると言うのですか? そんな……咲には変な所に1人で行ってはいけないと耳にタコが出来るほど言っているのに」

「それです」
父親は一度ピクリと体を反応させると、すぐに動かなくなった。
目の焦点は寺門に合っている。

「どうやら美浜さんのお宅では子供のしつけが厳しいようですね」

「勿論です。美浜家の娘とあろうもの、何処に行っても恥ずかしくないような教養を身に付けなくてはいけません」

「そうして、事あるごとに咲ちゃんを家の倉に閉じ込めてはいませんか?」

その質問にも父親は何一つ同様を見せない。

「無論。覚えが悪い子供には体で覚えさせろというのが我が家の代々の教育法です。私も何の例外なく同じように育ってきました」

「ではもう一つ。そんな厳しい美浜さんが咲ちゃんに着物を着せているのは分かります。では、なぜ髪を結わせないんですか?」

父親の表情が固くなり、片足は少しずつ後退している。

核心をついた、と寺門は思った。

「どうしました。何故答えないのですか」

父親の頬に汗が伝う。

そして閉じられた口をおもむろに開いた。

「咲には言ってあります。『髪結いさんに、綺麗に髪を結ってもらいなさい』と。そして髪結いには『咲の注文通りに結いなさい。それ以外は決して結ばないように』と」

「何故です?」

「女性は気難しいものだと存じています。咲も子供といえど女。好きなように髪を結わせてあげたいのです」

そんな繊細な気配りのある父親に、本当のことを話してもよいものかと口をへの字に曲げる。

しかしそれではらちがあかない。

「髪結いさんもそれを考慮して咲ちゃんに返事を求めるが、咲ちゃんは何一つ答えない。だから髪結いさんは結局あなたの言いつけを守って髪を結わない」

徐々に父親の顔が蒼白としてきている。

「違いますか?」

父親の体は小刻みに震えている。

「何故それを……」

「それが、咲ちゃんが感情をひた隠しにしている原因です」

「!?」

全員が一様に寺門を凝視する。

「――――――っ」

遠くで光っている目はこぼれそうなほど父親を見つめていた。







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