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作:つあぎ



#7


 国境まであと僅か。
 戦闘らしい戦闘はあれ以降ほとんど発生せず、難民の輸送列車は先行して中立国へと入った。
 同行している整備兵達に、これからのことを聞いてみれば、中立国に亡命するなり、敵に降伏するなり、そこは自由という通達があったらしい。早い話、もう軍属ではなくなっているということだ。そして、彼等はそのまま中立国へ亡命する道を選んだ。
「整備兵の方々、レーダーから消えました。どうやら、無事に中立国へ入った様子です」
『よし。これでワシらの仕事も終わりだ。名残惜しいが、祖国へ帰ろうじゃないか』
『無事、終わったねぇ……。……如月、こないだの約束、覚えてるだろうね?』
「約束? 何すか?」
『山田は黙ってな!!!!』
 上坂のかつてない剣幕にたじろぐ山田。地雷を踏んでしまった感じがしてならない。
「は、はぁ、すんません……」
「タロウ、大丈夫?」
 山田の背もたれの後ろからイリスが顔を出し、慰めるかのように頭を撫でる。
「スズ、タロウいじめちゃダメだよー!」
『だから、いじめてなんかないっつの!』
『しかし、イリスちゃんはホントに山田のこと心配してんだなー。こりゃいい嫁さんになれるんじゃねーの?』
『仲人なら、ワシが勤めてやっても構わんが。イリスも立派な鵺の隊員だからな』
「隊長まで何言ってんスか!?」
「うん、あたし、頑張ってタロウのお嫁さんになるー♪」
 嬉しそうなイリスの声で、無線が笑いに包まれた。
『だってよ、山田!』
『いやー、お互いモテる男は辛いねぇ! これで嫁の心配はしないでいいな!』
「だーもう、何が『お互い』ですか…………ッ!?」
 山田が一瞬言葉を詰まらせた。こういう時には、大抵敵襲がある。嫌な予感ほど当たるものだ。
『どうした、山田?』
「……レーダーに反応有ります。3つ。距離、35」
『『『!!!』』』
「識別信号は敵のすけど……推定機種、5号です」
『5号だって!?』
『何で連中が5号使ってやがるんだ!?』
 5号猟兵とは山田達の陣営の最新型機甲猟兵である。走攻守が非常に高い次元で纏まった機体であり、実際に操った者からは最高の機甲猟兵との評価もある。
『……大方、鹵獲した奴を使っているんだろう。こちらでも視認した。如月、上坂! これが最後、全力をもって仕留めるぞ!!』
『『了解!!』』
『山田、お前は先に中立国へ入れ』
「な、なんで俺だけが!?」
『相手が5号の以上、ベテランが乗っていたら非常に辛いところがあるだろう。こういう時には年寄りから体を張らねばな』
『そうそう。それにお前の機体にはイリスちゃんが乗ってるしね』
『なーに、5号相手ならまだやれる。不死身の如月をナメんなよ?』
「……それは命令ですか?」
『命令だ。もし夕方までにワシらと合流できなければ、お前は一人で帰るんだ』
「……」
 しばしの沈黙の後、山田の機体が180度旋回し、高速機動用の車輪を設置させた。
「では、先に失礼します。…………ご武運を。絶対に、港で会いましょう」
 山田はそれだけを言い残し、地面を滑走していった。
 柿原達3機で大丈夫なのだろうか。いや、大丈夫だ。彼等はトップエースなのだから。機体性能が一回り上の5号が相手とはいえ、絶対に勝ってくれる。
 そうだ、勝ってくれるはずなんだ。
「……タロウ、いいの?」
「……」
 山田は返事をせずに、ただひたすら滑走を続けた。
 怖いから逃げているんじゃない、命令だから逃げているんだ。そう自分に言い聞かせながら。


「さて、5号相手か。どんなものかね……」
 徐々に如月のレーダーにも敵影が映り始めた。その動きは速く、キレがあった。明らかに今までの腑抜け達とは違う。
「如月、上坂。これより支援砲撃を始める。貴様等は散会して、敵を各個撃破せよ」
「「了解!!」」
 前衛の二人が滑走を開始し、徐々に敵との距離を詰めていく。次第に5号猟兵の姿が見えてきた。よく見れば、細部が異なる。敵が鹵獲後に改修したものなのか、生産タイプの一種なのか、その判別はよく出来ない。
 相手を確認した5号3機もそれぞれ散開し、1対2の状況を作ろうとしていた。直後、後方より砲弾が着弾する。柿原機の150ミリカノン砲から発射された、対機甲猟兵用徹甲弾である。
「隊長、おっしい!!」
 着弾の際に生じた砂埃に紛れるように、如月機が5号の側面に回りこむ。直後、如月機の腕部から大量の銃弾が吐き出された。それらのほとんどは命中している。が、全て大した損害にはつながっていないようだった。
「効いちゃねぇか! 上坂、40ミリで側面は無理かもしれねぇな! 背後に回るか、ロケットでもブチ込むぞ!」
「解ってるッ! ったく、噂にゃ聞いてたけど、なんつー装甲だい!」
 その間にも、後方の柿原が次々と援護射撃を行う。何れも命中はしていないが、回避行動が中心となるためか、どうしても機動が制限されてしまう。鬱陶しいことこの上なかった。
 いい加減に鬱陶しくなってきたのか、5号猟兵の1機が乱戦から抜け、後方の柿原のもとに詰め寄ろうとする。
「上坂! あの野郎、隊長をやる気らしいぜ!?」
「解ってる! 追うよ、如月!!」
「馬鹿者! 眼前の敵に集中せんか!!」
 乱戦から抜けた1機の背後をカバーするかのように、2機の5号猟兵が如月達の行く手を阻んだ。4号猟兵よりもやや大きなその姿は、威圧感たっぷりである。
 5号猟兵が手に持った巨大なライフル銃が火を噴いた。その射撃は正確であり、如月機の装甲をいくつかかすめていく。直撃ではないが、神経がすり減らされる。形状的に、敵陣営で使用されている。、貫通力に定評のある70ミリライフルであろう。
「野郎、やりやがる……ッ!」
「如月、大丈夫かい!?」
「大丈夫だ! 約束したろ、帰ったら……ってな!」
 如月がトリガーを引く。再びガトリングガンが大量の銃弾を吐き出した。それらは一部命中し、小さな火花とともに微かな爆発が起こる。
 が、被弾したはずの5号は、何の問題もないかのように依然弾幕を張っている。胸部サブカメラが損傷した程度だ。如月と上坂はこの2機を突破できずにいた。機体性能の違いもあるが、このパイロット達はなかなか腕が立つようだ。如月の機動に、徐々に焦りが見え始めている。
 一方、突出して柿原機を仕留めにいった5号は、柿原機との距離を確実に詰めていた。柿原機の所持武器である150ミリカノン砲は射程と貫通力を高めるためにかなり砲身が長くなっており、接近戦での使用は不可能に近い。
 接近戦に持ち込み、勝ちを確信した5号のパイロットが近接兵装であるパイルバンカー(杭打ち機)をセットする。重装甲の機甲猟兵や要塞砲などを想定した武器であり、これが直撃した場合、生き残れる機甲猟兵はまず居ない。
 が、柿原は動じなかった。射撃用のプログラムをカットし、手動にてカノン砲をゆっくりと構える。その間にも5号は照準を定めさせないように機動を左右にずらしながら接近してきていた。もうすぐパイルバンカーの距離である。
「若いな。……長筒には、こういう使い方もあるっ!!」
 柿原機が5号にカノン砲を横殴りに叩きつける。高威力だが重いのがこの砲の特徴だ。その衝撃力は半端ではない。転倒する5号。そして柿原は先の攻撃のせいで砲身が歪み、使い物にならなくなったカノン砲を5号の体に預けるように廃棄した。その後、固定兵装の12ミリ機関銃でカノン砲のマガジンを狙い撃つ。12ミリ機関銃は基本的に対人用の装備であるが、マガジンを撃ち抜く、いや、過度の衝撃を与える程度なら十分であった。必死で体勢を立て直そうとする5号を、爆発が包み込む。
「如月、上坂! こちらに来ていた敵機は仕留めた! が、援護射撃はもう不可……」
 炎上する5号を横目で見ながら、柿原は無線で指示を飛ばそうとする。5号の腕はこちらへ向けられていたが、あれだけの爆発から逃れられる機甲猟兵はいない。そう、柿原は仕留めたと確信していた。現に5号は動こうとしなかった。
 が、次の瞬間、5号が構えていたパイルバンカーが起動し、先端が射出された。
 それはパイロットの意地か、それともただの誤作動か。
 とにかく、それは柿原機のコクピットを見事に貫いた。しばしの沈黙の後、力なく崩れ落ちる柿原機。しばらくした後、射出されたパイルバンカーの先端部が落下した。
「隊長ッ!? どうしたんすか!?」
「隊長、応答してください!! 隊長ッ!!!」
 柿原からの返答はなかった。無理もない。
 彼はすでに、その命を絶っていたのだから。
 如月達がその事実を知るまでに、そう時間はかからなかった。
「……畜生ッ!!!」
 如月がヤケクソ気味にガトリングガンを乱射する。興奮のせいか、如月の機動は直線的なものへと変わっていた。
「如月、落ち着きなッ!! 動きが悪いよッ!!」
 かく言う上坂も動揺を抑えることができなかった。レーダーにはまだ柿原機が映っているが、その影は微動だにしていない。おそらく、コクピットをピンポイントで貫かれたのだろう。
 次の瞬間、爆音が聞こえ、柿原機が完全にレーダーから消えた。生体反応も無い。
 柿原が、死んだ。
「クソッタレッ!! 殺すッ、殺すッ!! 殺してやるッ!!!」
 如月機が乱射気味に、ひたすら弾丸を吐き出していく。全く狙いを付けていない、完全な乱射。彼は明らかに冷静さを失っていた。
 柿原は凡人だった如月をずっと見守っていてくれていた人だ。柿原から受けた恩の数は両手では足りない。祖国へ帰ったら恩返しをしようと思っていた。
 が、結局何もできなかった。目の前の敵が、それを奪ったのだ。
「如月ッ!!」
「落ち着けるかよッ!! 隊長が……隊長が、死んだんだぞッ!?」
「だからこそだよッ!! アンタ、いつもの動きじゃないよッ!! そんなんじゃ、倒せる相手も倒せないよッ!!」
 異常なときにこそ平常心。焦りと怒りはミスを誘発する。
 それが、今まで戦場で学んできたことだった。異常時にパニックを起こす奴は、大抵死ぬ。
「……ッ!」
「悪いクセだって何回も言ったろッ!! アンタまでやられちゃ、元も子もないよッ!!」
 如月には激昂しやすい部分がある。今までも、戦友がやられた時にはいつも取り乱していた。そして、何かしらの損害を被っている。
「わかったんなら、いつもどおり……」
「……ッ!?」
 振動。ライフル弾が如月機の頭部を撃ち抜く。如月の眼前のモニターが乱れ、エラー音がコクピットに鳴り響く。
 頭部にはメインカメラとセンサーが詰まっている。それの大半が失われた。如月は舌打ちをしつつ、モニターをサブカメラに切り替え、一部センサーをカットする。サブカメラは解像度が低く、視界も狭い。また、射撃用のセンサーもいくつか失われているため、精密射撃もほぼ不可能となった。
「言わんこっちゃないッ!! 如月、大丈夫かいっ?!」
「頭がやられた。メインカメラが完全に死んでやがる……。頭冷えたよ、本当に……」
「早く下がんなッ!! あたいがなんとかしてみせるからッ!!」
 なんとかしてみせる。そう口にはしたが、上坂は勝算を見出すことができなかった。相手は4号の程度を知っている。5号の装甲でどこまで攻撃を防げるかの。そして、その間合いに上坂達を入れないように、常に一定の距離を取っていた。逆に、5号の攻撃はどの間合いからでも4号にダメージを与え得る。
 数は同じ。技量もほぼ同等。
 が、条件はこちらのほうが明らかに悪い。如月機はメインカメラが大破しており、視界を奪われている。実質1対2だ。
「……山田の奴、無事に逃げたかな……」
 上坂は無線に入らないような小声で呟いた。



ちょっと詰まっておりました。


若干冗長になってきていますが、もうちっとだけ続くんじゃ。













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