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作:つあぎ



#3


〜10年後


「とまぁ、10年前の戦争の時、俺を拾ってくれた人に憧れててな。こういう口調なんだ」
「ふーん」
 二人で仲良くストーブの前に陣取りながら、イリスは簡単に昔話をした。
 10年前の戦争で両親を亡くし、東国の義勇兵に助けてもらったこと。そして、それがあったからこそ、今の自分があるということ。
 ノーラが少し退屈そうにしていたので、イリスは話を切り上げる。
 その少し後、ドアが開く音がした。
「あ、お母さんだよっ!」
「あー、なら、ちょっと挨拶しとかないと」
 嬉しそうに玄関へ向かうノーラの後を、イリスが追う。
 玄関には、ノーラとよく似た、30歳前後に見える女性が居た。イリスは彼女へ向けて頭を下げる。
「お母さん、おかえりーっ! この人はね……」
「あ、ちょっと雨が降ってたのでお世話になってます。バイクで旅してる、イリスっていいます」
 イリスが母親へ礼をする。かすれるような声の後、人が倒れる音がした。慌てて頭を上げる。
「お、お母さんっ!?」
「大丈夫ですかっ!?」
 ノーラとイリスが慌てて母親へ駆け寄る。母親の顔は上気しており、やけに色っぽく見えた。イリスは自分の額と母親の額にそれぞれ手を当てる。
「……すげー熱だっ! ノーラ、手伝って! 早く寝かさないと!」
「う、うんっ!!」
 二人で母親を抱え上げ、応接間のソファーへと寝かせる。母親の呼吸は荒い。
「ノーラ、毛布持ってきて! 俺、頭冷やすから!」
「うんっ!!」

 しばらくして、母親は目をうっすらと開けた。
「よかった、起きたぞっ!」
「お母さん、どうしたのっ!? 大丈夫!?」
 ノーラが慌てて母親にしがみつく。母親はノーラの頭を少し撫でて、イリスの方へ視線を向けた。
「すみません……。昨日の晩から風邪気味でして……。イリスさん、ですか?」
「あ、はい」
「すみません、ご迷惑を……。まだ外は雨ですので、ゆっくりしていってくださいね……」
 母親が力の無い笑みを浮かべた。可愛らしいノーラに似て、母親も結構な美人である。
「今、夕飯を……」
「いや、いいっスよ! 俺がやりますから!!」
 立ち上がろうとする母親をイリスが制する。母親は申し訳なさそうな表情を浮かべ、数回咳をした。ノーラはその様子を不安そうに見つめている。
「病気の方に仕事させるのはダメっスよ。俺、世話になったんだから、そんぐらいはやりますから」
「すみません……。ノーラ、手伝ってあげなさい」
「うん、わかったっ」

 夜半、母親―ドロテアと名乗った―の部屋の中にイリスはそっと入る。
「ノーラちゃん、寝ましたよ」
 雨はまだ止まなかった。結局イリスは一泊する形となっている。申し訳ない気持ちはあるが、仕方ないといえば仕方ない。
「そうですか……。すみません」
 ドロテアが再び申し訳なさそうな表情を浮かべる。イリスはそれに対し、笑顔で手を振る。
「いいっスよ。俺、子供の相手、好きですし」
「家は見ての通り、父親がいませんので、私が代わりに働いているんですが……無理しすぎなのかもしれません」
「かもしれないっスね。いい機会と思って、ゆっくり休まれたほうがいいと思うっスよ?」
 確かにドロテアは勤勉に見える。そして、苦しみを表に出さないタイプにも見えた。今回のも、溜め込んで、溜め込んで、溜め込んだ末のことのように見える。
「あの、イリスさんは、どうして旅を……?」
「え? あぁ、今度俺、家業を継ぐんスよ。だからそれまでに、世界を回っとこうかなって」
「家業?」
「小さな雑貨屋スよ。俺、養子なんスけどね……」
 イリスが苦笑した。
「10年前の戦争で、俺、家族を亡くしたんスよ。戦争が終わった後に、親切な人が養子にしてくれて」
「そうなんですか……。すみません」
「いやいや、謝ってもらう必要無いっスよ」
 しばらく部屋の中を沈黙が包む。少し気まずくなったイリスが部屋を出ようとすると、ドロテアが小さな声で喋りかけた。
「あの戦争は、色々な悲しいことばかり残していきました……」
「……確かにそうスね……。でも俺、あの戦争があったからこそ、貴重な出会いを経験できたと思うんスよ」
「出会い、ですか?」
「『ヌエ』の人達です」












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