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作:つあぎ



#2


―10年前


 地響き。
 深夜の静寂の中、地響きのみが一定の周期ごとに聞こえてくる。
 そう、森の中を、4メートルほどの巨人が4体歩いていた。巨人、とは言うが、その膝は大きく逆方向へ折れ曲がっており―鳥の脚を想像して頂きたい―、腕は膝までの長さがある。異形の巨人。
 巨人の赤い単眼のみが、暗闇の中で輝いている。不気味な光景だ。
『山田、敵さん捕捉したか?』
 巨人の胸部の中に、人間の声が響く。その中にいた男は、眼前のモニターから目を逸らし、隣のレーダー表示部へと目をやった。
「いーや、まだっスね。まぁ、基地までも大分距離あります」
『そうか。悪いが、お前だけは気ィ張っとけよ。お前のレーダーだけが頼りなんだからな』
「了解っス」
 山田はやる気なさげに返事をし、少しあくびをする。
 彼らが乗っているのは、鋼鉄の巨人。「機甲猟兵」と呼ばれる、人型戦闘兵器である。元々は作業用重機であったが、この戦争が始まる少し前に、戦闘用へ改造されたものが最初だ。
 彼らが使用している機種は、3年前に配備が開始された「4号猟兵『カッツバルゲル』」と呼ばれる機種だ。新型の「5号猟兵『ツヴァイハンダー』」「6号猟兵『カットラス』」には性能面で劣るが、整備性は格段に上であり、なおかつ敵の機甲猟兵にも充分対抗できるため、各地で主力として運用されている。
 そもそもこの戦争の発端は、この国の国王の勘違いから始まった。
 各国から敵視されているとの勘違い。各国を相手にしても充分にやっていけるとの勘違い。
 それによって起こった戦争は、瞬く間にこの大陸を戦火で覆った。序盤のうちは、その巧みな戦術と、高性能な兵器によって各地で勝利を収めていたのだが、人間の欲望には果てがないもので、国王は次々と戦線を広げていった。
 そして、この国にはそれを戦い抜けるほどの国力は無かった。
 各地から次々と届く敗北の知らせ。国王はやがて、退却不許可の厳命を出した。
 どうせこの戦争が終われば、自分は死ぬんだ。それならば、道連れは多いほうがいい。
 兵士達にとっては迷惑な話であるのだが、命令は命令である。多くの精鋭が、戦地で命を落としていった。
『今日の飯はなんかねー? またジャガイモか?』
『だろうなー。ったく、米の飯が恋しいぜ』
「食わなくなってもう5年スもんね」
 彼らは開戦からしばらくして、東国から送り込まれた義勇兵。海の向こうの東国は、この戦争には中立の立場を取っていたが、友好のあったこの国のために、義勇兵という名目でパイロットを送り込んだのだ。なお、東国は初めて機甲猟兵を実用化した国である。
 第3機甲師団所属、第20夜間戦闘隊。
 それが彼らの名前である。濃紺と黒のまだら模様の4号猟兵を駆り、肩にはでかでかと「ぬえ」という文字と、それぞれ「忠」「魂」「義」「信」という漢字一字が書かれていた。無論、彼等以外に読める者はいないのだが。
 義勇兵でありながら、隊員全てがエースパイロットという猛者揃いであり、味方からは敬意を、敵からは畏怖をその身に集めている。
 そして彼らは現在、夜間襲撃任務から帰る途中であった。
「……隊長、ちょっと待ってください」
 山田の通信で、先行していた3機が足を止めた。
「生体反応有ります。俺から見て9時方向」
 山田の乗っている4号機「信」は、他の機種よりもレーダー機能が強化されており、ジャミング機能も有する電子戦タイプである。その反面、携行装備は40ミリ機関砲が1門と、対人用の12ミリ機関砲が2門のみ。他の機体よりも火力はかなり劣る。
『生体反応? 数は?』
「……一つです。反応も小さい。子供スかね」
『子供? こんな所にか?』
『地図にゃあ街があったって書かれてますねぇ。俺が持ってんのは3年前のだけど』
『そういや、何日か前、この辺で戦闘があったって聞いたな』
「ひょっとしたら、その戦闘の生き残りかも……」
『山田よ。その反応は近いのか?』
「はぁ。近いっスね」
『よし。少し待つ。確認して来い』
「了解っス!」
『美人だったら、紹介しろよ?』
『子供だって言ってただろう? そんな趣味があったのか?』
 隊員間の通信を背に、山田は機甲猟兵に降着体勢を取らせ、胸部上面のハッチより身体を出して周囲を確認する。特に気配は無い。そのままタラップに足をかけ、地面へと降りた。
 懐中電灯で周囲を照らし、もう片手には護身用の拳銃。静かな森の中に、自分の足音だけが不気味に響いた。
 最近は狼が増えていると聞いた。気を付けなければ。
 しばらく進んだ後、懐中電灯が何かを照らした。丸くなっている子供。山田はそっと近づいてみる。
「おい、坊主かお嬢さんかよく知らないけど、何してんだ?」
 先ほどまで隊員と交わしていた祖国の言葉とは違う、この国の言葉で喋りかける。ややイントネーションはおかしいが、日常で不十分しない程度には言葉を覚えた。
「……おじちゃん、だれ?」
 子供がゆっくりと顔を上げる。10歳にも達していないであろう少女だ。
「おじちゃんじゃない。おにいちゃんだ」
 子供という事に安心した山田は、拳銃をしまって、代わりに無線機を取り出して耳に当てる。
「隊長、子供でした」
『子供? 難民か?』
「詳しい話は聞いてないスけど、そんな感じス」
『本当に難民の孤児なら、保護してやるべきかもな。山田、その辺は任せた』
「ちょ、隊長!?」
 一方的に無線は切られた。隊の中で一番若い故に、山田には雑用がよく回される。山田は頭をかきながら、その場にしゃがみこんで少女に話しかけた。
「一人なのか? 親御さんは?」
 少女が首を振った。先程隊員の一人がこの近くで戦闘があったと話していた。その生き残りか。
「……なるほどなー。そいつは大変だったな」
 山田が少女の頭を撫でる。少女は少し眼を細めた。
「あのね、みんなね、いなくなっちゃったの。おうちも、ぜんぶ……」
 声を震わせながら、少女は山田を上目遣いで見る。山田は当惑しつつ、手を握った。
「大丈夫だ。お兄ちゃん達が助けてやる。だから、元気出せ。な? とにかく、泣きたいんなら泣いてもいいから。な?」
 この周囲には彼女以外に生体反応は感知しなかった。おそらく、泣き声を上げられても大丈夫なはずだ。
「……うん」
 そのまま少女は山田の胸に顔をうずめ、泣き出した。山田は軽く少女の背中を撫でつつ、無線機からの声を聞く。
『やっぱり難民か?』
「そうらしいっスね」
『仕方あるまい。ひとまず基地まで連れて帰ろう。スパイかもしれんが、今となっては見られて困るような物もないしな』
「了解っス。で、誰が?」
『お前に決まってるだろう。お前のコクピットは若干広めに作ってあるからな。後ろに座らせとけ』
「……了解しましたー」
 ふと少女を見ると、大分落ち着いたのか、泣き喚くような声から、すすり泣くような声になっている。山田は軽く背中を叩いて、少女の顔を覗き込んだ。
「よく聞いてな。今からお兄ちゃん達が、あんたを基地まで連れてってやるから。ほら、おんぶしてやる」
「いいの……?」
「あぁ。俺達ゃ誇り高き戦士だからな。ほら、乗った乗った」
「……ありがと……」
「いーっていーって。気にすんな」
 とは言うものの、面倒ごとを抱えてしまったという気分が抜けない山田である。ひとまず少女に背を向け、おんぶを促した。しばらくして、背中に重みを感じた。
「よっしゃ、行くか」
 立ち上がる。これぐらいの少女をおんぶするなど、何年ぶりだろうか。祖国にいた頃も、そんな経験は無かった。実に軽い。戦時中ゆえか。
「そういえば、名前聞いてなかったな。俺は山田。山田太郎(やまだたろう)だ。あんたは?」
「……リス」
「リス?」
「イリス。イリス・リフェルト」












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