ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第53話
 放課後、蓮は美緒を自分のマンションに連れて帰った。
 イメージトレーニングを始めてから数週間、まったく変化のない美緒の様子に蓮は少々焦っていた。

 別の方法を考えた方が良いのかもしれない―――――。

 じっとハニー人形を見つめる美緒の肩に蓮は手を置いた。
「休憩しよう」
「わぁい、休憩!ジュースとケーキ!」
「用意するから待ってて」
 微笑み立ち去る蓮にヒラヒラと手を振り、美緒はベッドに寝転がる。
「疲れたでしゅ」
 毎日の修行は美緒にとっては負担だった。
 勉強、調教、イメージトレーニングのハードな毎日。
 特にイメージトレーニングはまったく成果が得られないので、疲れも倍増する気がした。
 蓮の言う通りイメージしてはみるものの、頭の中の自分はもう少しで変身するという所でポンと弾ける。
「何か足りない・・・んー、違う足りないんじゃなくて、こう・・・」
 言葉に出来ないもどかしさ。
 コントロール出来るようになれば美緒としても都合が良いので、一応頑張っているつもりなのだが・・・。
「うーん・・・」
 ゴロゴロとベッドの上を転がり、美緒はそのまま床に落ちた。
「うぎゃ!イタタタ」
 打ち付けた腰を擦りながら身体を起こそうとした時、ふとベッドの下に何かがある事に気付いた。
「DVD?」
 積まれたそれはDVDケースのようだった。
 そういえばテレビを観る蓮の姿を自分は見たことがない。
 どんなものを観ているのかと軽い気持ちで手を伸ばす。
 そしてベッドの下から出て来たDVDのパッケージ見て、美緒は目を見開いた。

 『うちの子一番』

 少し首を傾げた茶色い犬の写真が載っている。
「―――――!」
 美緒はベッドの下に再び手を伸ばし、そこにあったDVDをすべて出した。

 『肉球百連発』、『ハピー母さんは大忙し』、『可愛い赤ちゃん大集合』、『世界名犬劇場』・・・・・。

「な、な・・・!」
 プルプルと美緒の身体が震える。
 ちょうどそこに、ケーキとジュースを載せたお盆を手に持った蓮が部屋に帰って来た。
「え・・・」
 蓮はベッドの下にあった筈のDVDが床に散乱している状況に驚く。
 二人の視線がゆっくりと合った・・・。

「なんですかこれはーっ!!」

 美緒の投げたDVDがお盆を直撃し、ジュースとケーキはお盆ごと床に落ちた。
「美緒・・・、いや、これは・・・」
 視線を泳がす蓮に、美緒は次々とDVDを投げた。
「何これは!いったいなんなの!?素人ものにマニアもの、人妻、ロリ、感動もの!?これでいったい何をしてたの?いやらしい、最低!」
「美緒!待って、話を聞いて!」
「私というものがありながら・・・、最低男!馬鹿!変態!!」
 蓮は小さく舌打ちすると、飛んでくるDVDを叩き落として美緒に躍り掛かり、暴れる身体を組み敷いた。
「美緒!」
「・・・・・」
「その・・・、これはあくまで単なる映像で、愛しているのは君だけだ」
 プイと横向く美緒に、蓮は溜息を吐く。
「仕方ないだろう。僕だって男なんだから、そういう・・・欲望が溜まる時もあるんだ」
「・・・私がいるのに」
「だって変身出来ないだろう?」
「・・・・・!」
 美緒の身体がカッと熱くなる。
 それは確かにそうだが、でも、そうじゃなくて・・・!
「・・・・・」
「・・・・・」
 大人しくなった美緒の身体から蓮が離れた。
「ケーキ、駄目になったな。新しいの用意するから―――――」
「いい」
 美緒が身体を起こす。
「美緒?」
「要らない。帰る」
 美緒は鞄を持つと、足下のDVDを避けて部屋から出て行く。
「美緒!」
 慌てて追い掛けた蓮が玄関で美緒の腕を掴んだ。
「美―――――」
 蓮はハッとした。
 美緒の頬を流れるのは、間違いなく・・・。
 蓮の手を振り払い、美緒はドアを開けて出て行った。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。