矢代和樹の多忙なる生活〜《花より団子より○○○》編(上)〜PDFで表示縦書き表示RDF


 前作を読んでいなくても、大丈夫(なはず)です☆
矢代和樹の多忙なる生活〜《花より団子より○○○》編(上)〜
作:イヌズキノネコ


 春の緩やかで暖かい風に運ばれて、

 一片の桜の花びらとほんのりと甘い香りが、

 俺の身体を、その周囲の物を、

 そっと優しく包みこんだ。


 いや〜、春っていいですよね?
 最高ですよね? 最強ですよね?
 何といってもこの気候。何、この絶妙なバランスは!?
 暑すぎず、寒すぎず、ジメッとしすぎず、カラッとしすぎず……これって、もしやパーフェクト!?
 ……なるほど。俺が太刀打ちできないわけだ。

 最近、俺の周りに強敵が現れた。そいつは強いくせに、姿を見せない。

 それって、卑怯だよな?

 ――で、そいつと俺はいつも闘っているんだけど、今のところ俺の全敗中。黒星続きの俺に、先生はゲンコツと言う激励を与えてくれた。激励もらった俺は、目の前に幻覚の星を浮かべて“あのスターさえ手に入れば、無敵なのに”と思いつつ、再び意識を……。

 …………。

「ふぁあぁ〜ぅ……」

 ベンチに腰をかけてリラックスしながら、大きく口を開けた俺。どうやら、また奴が現れたようだ。でも、今回は素直に負けてやってもいいかもしれない。だって、今は昼休みなんだし。
 俺はかすみゆく意識の中で、目の前に広がる春について一句詠んだ。


 春風に 心が躍る 春木さん

 BY 矢代 和樹


 ……。

 …………。

 春木……さん?

 春木さん!?

 無意識に発された言葉を理解すると同時に、遠くから駆けてくる女の子の姿がハッキリと視界に映った。

「カズキ〜!」

 ……。

「カズキ〜!」

 来たよ……来ちゃったよ。今回もまた現れちゃったよ。
 俺の平穏をぶち壊す風雲児が……。

「カズキ〜!」

 前の話を見て下さった皆さんなら、もう察していらっしゃるだろう。
 そうです、アイツです!
 幼馴染のキヨミです!

 ……って、誰に向かってこの台詞を言っているんだ、俺は。もしかして、春の陽気さに頭をやられちまったのかぁ? それって、かなりヤバい状態のような……。

「カズキ!」

「うわぁ!?」

 色々と考え事をしている間に、キヨミは俺の目の前まで来ていた。

「そんなに驚かなくてもいいんじゃない?」

「いや……ごめん」

「もう〜ボーとしちゃって…………! も、もしかして、私の美貌に目がくらんでた、とか!?」

 いや、それは無いから……。

「そ、そんな目で見つめられたら……恥ずかしい」

 恥ずかしがるなら独りでやってくれ。見てるこっちまで恥ずかしくなるじゃないか!

 いつものハイテンションを維持しているキヨミに、俺はため息をついてガックリと肩を落とした。

「お〜い二人とも。僕を差し置いて、勝手に盛り上がるなよ」

「え?」

 声に導かれて、ふとキヨミの横に目を向ける。そこに黒髪のスレンダーな体形をした美女――カリンちゃんの姿があった。

「ちぃ〜す!」

「あ、うぃ〜す!」

「こんなところで何してるの? もしかして、昼寝?」

「え……と、そんな感じ」

「もう〜、そんなんじゃダメだよ! 世界じゃ、生き物たちがようやく目を覚まし始めてるというのに、今から眠りに入るなんて大罪だよ。世界に喧嘩売っているようなものだよ!」

 そこまで大げさに言う事は無いんじゃないかな? たかが昼寝ごときで……。

「まさかとは思うけど、反抗期?」

「反抗期と言えば……反抗期だけど」

「あ、やっぱり!」

「別に反抗したいがために、寝ようとしていたわけじゃないよ。単にこの春という季節が、俺をこんな風にさせているだけ」

「ふ〜ん、言い訳だね」

 違うわい!

 二人の女の子の登場に、俺は眠気を失った。まあ何もする事がなかったから、眠ろうとしていたわけだけど。

 話し相手が出来た俺は、残りの昼休みを談笑して過ごす事にした。

「カズキ、“春”っていいよね?」

「ん? まあ、な」

「暖かくて、健やかで、心地良くて――」

「うんうん」

「優しくて、綺麗で――どこか私に似ている」

 自画自賛?
 いや、それよりも……似ても似つかぬ存在だぞ、キヨミと“春”は。

「キヨミちゃんと“春”って、雰囲気がそっくりだもんね」

「でしょ?」

 “でしょ?”じゃねぇよ!
 カリンちゃんも余計な事を言わない方がいいよ。こいつ、その気になるから。

「キヨミちゃんが“春”なら、僕は“夏”かな?」

「えぇ〜! カリンちゃんは“秋”じゃない?」

「そう?」

「だって、暑苦しいイメージじゃないし、どっちかと言うと清々しいイメージだよ」

「そうなんだ。なら、僕は“秋”で!」

 俺たちはいったい何の話をしているんだか……。

「で、カズキは――」

 俺?
 俺は……別になんでもいいや。
 まあ喩えてくれるなら、“夏”とかがいいな? 情熱的な一面があるわけだし。
 でも暗い過去があるから、“冬”と言われるかもしれないな。

「えっと……カズキは……」

「……」

「……」

「カズキは……」

「……(ゴクン)」

「………………」

「えっと…………闇?」

 季節のカテゴリから大幅に飛んだぁ!?
 し、しかも、や、やみって……。

「何となくカズキって、闇っぽくない?」

「う〜ん、確かに……そうかも……」

 何納得してるんだ、カリンちゃん!
 この情熱大陸まっしぐらな男を、闇なんて表現したらいけませんよ。

「よし、カズキは闇で決定!」

「うん。KY君もこの決定に異論はないよね?」

「異論有りまくり――って、KYって言うな!」

「どうして? Kazuki Yashiro だからKYで合ってるよね?」

 カリンちゃん、今のご時世KYはタブーなんだよ。
 たとえイニシャルでもKYなんて呼んじゃいけないんだ。

「みんなだってKY君って呼んでるし」

「いや、確かに呼ばれてるけど……」

 そうでした。
 俺は今KYと学園の皆から呼ばれているのでした。

 なんでそんな愛称がついたのかと言うと、話は少し遡る事になる……。




     ◇




 入学2日目。まだ希望に満ち溢れていた頃。
 俺はキヨミとカリンちゃんに誘われて、体育館で『笑って健康になる体操』を実施していた。提案者は《春木 代美》。それに無理やり付き合させられた被害者《矢代 和樹》と《三日月 歌鈴》。とはいえ、俺は企画実行に当たって微力ながら協力してしまったので、被害者と言うよりは協力者になるかもしれない。
 早朝誰もいない時間帯から始まった体操は、“コーヒーを啜りながら芸能ニュースを見る”という俺が楽しみにしている朝のひとときを無情にも奪った。体操は約1時間行われ、その後俺たちは教室で談話して、授業が始まるまでの時間を有意義に過ごした。

 翌日、俺は昨日と同様体育館に赴いた。この日も朝早くから登校して、女の子2人と一緒に笑って時間を過ごした。笑いながら俺は、この行動が日常の一部と化していく事を少しだけ不安に、また2人と過ごせる時間を幸せに思っていた。


 そして……体操3日目。この日、悲劇は起きた。
 いつも通り6時半に学校へ来た俺は、いつも通り体育館へと向かった。しかしこの日に限って、キヨミとカリンちゃんは寝坊をし、後から駆けつける事になった。
 一人寂しく体育館に佇む俺。そこに、突然乱入者が……。

 制服に身を包んだ凛々しい女の子。右腕には《風紀委員》のワッペン。朝日を浴びて黄金に輝く髪に、左右へ揺れるポニーテール。吊り上がった碧色の目、ほのかに桃色をした肌。

『この学園に入ったら、彼女には気をつけて。彼女に目をつけられたら、楽しい学園生活は待っていないわよ』

 入学式の時、誰かが言っていた。ついでに、その人の名前と顔写真を公表してくれた。

 ――2年F組《天ヶ崎 ティアラ(あまがさき てぃあら)》――

 まさにその人が目の前にいた。

「――あなたね、早朝から不快な音を発していたのは」

「え?」

「学校周辺に居を構える住民の方々から、色々とクレームが来てるのよ」

「え? え?」

「全くこんな時間に何してるんだか……。朝も早い時間に学校へ来なければならない私の事を、少しは考えてほしいわ。
 ……と、個人的な意見はこれくらいにして。そこのあなた、大人しく往生しなさい!!」

 俺に向かって人差し指を付き出す金髪少女。何が何だか分からない俺はオドオドしながら、壇上の前でただ立ち尽くしていた。

 彼女がこっちへ歩み寄ってくる。俺は迫りくる女の子に対してうろたえている。
 彼女がこっちへ足早に近づいてくる。俺はただその姿を静観していた。

 その後の出来事は一瞬だった。彼女が目の前まで来て手を掴んだと思ったら、次の瞬間には身体が宙を舞っていた。そして無抵抗の俺は、そのまま体育館の床に叩きつけられた。

「午前6時45分。犯人逮捕」

 彼女は真面目な顔でそう呟いて、俺の両手を縄で縛った。地面とぶつかった衝撃で全身に力の入らない俺は、為されるがまま彼女のいいように扱われた。




 お縄を頂戴された俺は彼女に連れられて、学園内のある部屋に連行された。そこは一対の机と椅子が部屋の中央に置いてあるだけの、何とも淋しい空間だった。
 彼女は縄を解いた俺を机の前に立たせて、机を挟んだ向かい側にある椅子に腰をかけた。

「さて、色々と事情を聴きましょうか。まず、あなたの名前から教えてちょうだい」

「名前……ですか? 俺は矢代 和樹と言います」

 金髪少女は腕組をして鼻を鳴らしながら、興味なさそうな顔で俺を見据えていた。

「では、矢代君。なぜ体育館で笑い声を立てていたのか、それを説明して」

「えっと…………」

「……」

「え……と……」

「モジモジしない! シャキッとする!」

「は、はい!」

「で、どうして朝から笑っていたの? もしかして病気?」

「いえ、そういうわけじゃないんですが……」

「やっぱり理由があるんでしょ? なら、それを説明して」

「……説明しないと、ダメですか?」

「もちろんよ」

「理解できないかもしれませんよ?」

「安心しなさい。大概の事じゃ驚いたりしないから」

「……それじゃあ――」

 俺は事の全てを彼女に打ち明けた。




 ……。

 …………。

「わ、笑って健康になるぅ!?」

 ほら、予想通り。予想は当たったのに、なんだかハズレ馬券を引いた気分だ。

「馬鹿じゃないの? そんな事で健康になるなら、この世の中に医者なんていらないわ」

「……そうですよね」

「あなた、下手な言い訳して誤魔化そうとしてないでしょうね?」

「いや、そんな事は……ハハハ……」

 冷たい視線が俺に突き刺さる。

「さあ、正直に言いなさい。どんな理由があろうとも、お姉さん偏見を持ったりしないから」

「あの〜本当の事なんですが……」

「へぇ〜、まだしらを切るつもり? これ以上の悪ふざけは、さすがに許さないわよ」

 彼女から発せられるプレッシャーに、心が砕けてしまいそうになる。他の言い訳をして納得してもらった方がいいかもしれない、と思えてきた。だけど、都合良く“笑っていた”理由が思いつくほど、俺の頭は優秀じゃない。結局何も思いつかない俺は、『笑って健康になる体操』の立証に踏み入るしかなかった。

「さ、さっきの話の続きなんですが……」

「何?」

「“笑って健康になる”というのは、あながち間違ってはいないと思うんですよ」

「へぇ〜、なに? 笑う事が健康につながると言いたいわけ?」

「ええ」

「さっきも言ったと思うけど、そんな事で健康になるなら医者はいらないでしょ?」

「それはそうなんですが、古から伝わることわざに《病は気から》とあります。つまり気持ちが前を向けば、病気も軽減できると……」

「確かに、それはそうよね」

「はい。ですので、笑う事により気持ちを前に向かせて、健康を保つ事は可能なのではないかと」

「でも、それって気休めでしょ? それだけじゃ、健康になるとは言えないわ」

「そ、そうですよ……ね。で、でも、笑う行為には人をリラックスさせる効果もありますし、精神的な負荷を取り除く事も出来るのはないでしょうか?」

「無理して笑って、リラックス? そんなことでリラックス出来るわけないでしょ! 余計ストレスがたまりそうだわ」

「で、ですよね……」

 頑張って反論してみたが、もうそろそろ厳しい。俺はこれ以上の抵抗は無駄と判断して、溜息を吐きながら項垂うなだれた。

「はぁ……。やっぱり、アニ○浜口の言っていた『笑って健康になる体操』なんて……」

 どこにぶつけていいのかわからない不満は、俺の口から零れるしかなかった。

「――え!? 今……何て言ったの?」

「ん?」

 彼女の言葉に引き戻されるよう、俯きかけた顔をゆっくり上げる。そこには、椅子から腰を上げて机に手を付き、身を乗り出している女の子の姿があった。

「あなた、今何て言ったの?」

「え?」

「だ か ら、今何か言ったでしょう? 『笑って健康になる体操』がどうとかって」

「アニ○浜口が考案したって事ですか?」

「――――!!」

 彼女の表情が固まっている。いったい何がどうしたのだろうか……。

「あ、あの〜それがどうかしたんですか?」

「アニ○浜口大先生が……考案した……?」

「?」

 彼女の表情に戸惑いの色が見える。今まで強気で攻めていた女子生徒が、初めて隙を見せた瞬間だった。

「ちょ、ちょっと!!」

「は、はい!」

「今の話、本当?」

「え、ええ……」

「そっか……そっかぁ〜♪」

「あ、あの……」

「わかったわ! あなたの話、信じる!」

「え……えぇぇぇ――!?」

 一体どういう心境の変化なのか。理解できない俺は、疑問の追及を行った。

「あの〜すみませんが、どうしていきなり信じる気になったんですか?」

「ん? だって、先生がそう言っているんでしょ? それなら信じるしかないじゃない!」

「せ、せんせい?」

「そう、アニ○浜口大先生! 私の人生の師匠よ」

「え、えええぇ――!!」

 さすがにこれは驚いた。芸人並みのリアクションをとらずに居られるほど、俺の肝っ玉は大きくない。
 俺は顎が外れてしまうくらいに口を広げて、腹の底から大声を上げた。

「先生……私は先生がいたから、ここまで成長出来ました。先生が常におっしゃられている《気合》という言葉。あの言葉が、私を何度救った事か……。“気合があれば、乗り越えられないモノは無い”まさにその通りです! あの憎き生徒会長《吹雪 玲奈(ふぶき れいな)》に対抗するため、風紀委員会を作る事ができたのも先生の言葉があってこそ。今は私一人だけですが、いつかきっと生徒会を上回る最大派閥にして見せます。
 ……先程は失礼なことを言ってしまいました。先生、どうか許して下さい」

 驚嘆している俺の目の前で少女は両手を組み、恋する乙女のような瞳で懺悔していた。祈りを捧げるポーズをとる彼女は、まるで聖女のように美しかった。




     ◇




 しばらくして両手をおろした彼女は、満面の笑みを浮かべて俺の方を向いた。

「矢代君、さっきは変なこと言ってごめんなさい。わたし、あなたの事を誤解してたわ」

 ティアラ先輩……。俺は先輩の事を誤解してしまいそうです。

「先生の事を崇拝する素晴らしい人だったのに……。朝から奇声を上げる本当の理由も知らず、ただの変人と思ってしまっていた。ごめんね、矢代君」

 謝ってもらえるなんて恐縮です。
 ……ですが、一つ言わせてください。

 “俺は崇拝者ではありません!”

 偏見はご遠慮願います。

「はぁ〜。色々と酷い事をしてしまったあなたに、どう償えば…………」

 頭を抱える先輩に、俺は“償わなくて良いから、早く解放して”と言いたい気持ちでいっぱいだった。

「う〜んと……。あ、そうだわ!」

 くすんでいた碧の瞳が輝きを取り戻す。すごく嫌な予感がする。

「矢代君、風紀委員会(アニ○浜口支援団体)に入りなさい!」

「はぁ〜!?」

「お腹の中にあるモノは?」

「胃(い)」

「はい、決定♪」

「……え?」

「快い返事ありがとう、矢代君! わたし一人で地道にやってきたけど、本当は心細かったの。一人しかいない風紀委員会に寄せられる悩みや相談なんてなくて、いつも生徒会に横取りされてた。人数が多い方に信頼が傾くのはわかるけど、やっぱり納得できる事じゃなかった。だからいつも生徒会を盗聴…………じゃなくて、話を又聞きして行動を起こしてきた。それはそれは、すごく……切ない行為だった。
 でも、同じ志を持つあなたが入会してくれれば、信頼を勝ち取る事も夢じゃない。きっと“情報が来ない”なんて心配はなくなる。心の底からお礼を言うわ、ありがとう矢代君♪」

 ウインクしてくる先輩はとても可愛らしくて、話の内容に同情してしまいそうになった……が、

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 素直に従うほど、俺は弱くなかった。

「なに?」

「“なに”じゃなくて! 勝手に事を進められても、俺は風紀委員にはなりませんよ!」

「ど、どうして!? はっ! ま、まさか……生徒会に寝返るつもり!?」

「ち、違います!」

「そうなのね……。あの極悪非道の生徒会に、吹雪 玲奈の手下に成り下がろうって気なのね……」

「ち が い ま す! って、どうして俺が生徒会に入る事になっているんですか。俺は、生徒会に入るつもりはありません!」

「じゃあ――」

「風紀委員にもなりません!」

 キッパリと自分の意見を主張した。目の前の少女はガックリと肩を落とした。どうやら俺が思っていた以上にショックが大きかったようだ。先輩の身体からどす黒いオーラが出ている。

「先輩……」

 俺は落ち込んでいる先輩を励まそうと、一歩彼女に近づいた。
 ――次の瞬間。

「……ヤシロクン」

 先輩の発した言葉と共に、俺の身体に戦慄が走った。

「それなら……あなたは、どこに入るつもりなの?」

 背筋を流れる冷たい雫。体が動きを失っている。かろうじて動く唇が、心の声を外に運んだ。

「ど、どこにも入るつもりは……」

「どこにも入るつもりはない?」

「え、えぇ……」

「ふぅ〜ん」

 こ、怖い……。
 せ、先輩! 殺意が表に出ています!

「矢代君はどこにも入らないんだぁ〜。それなのに、風紀委員にもならないんだぁ〜。それって、どういう事なのかな? わたし、わかんない」

 先輩、察してください!
 俺の想いに気づいてください!

「あれ? 人を殺すのって、いけないんだっけ? 良かったんだっけ? わたし、わかんない」

 それくらいはわかってください!!
 ダメに決まってるじゃないですか!?

「そういえば、この学園に調理室があったわね。色々な生徒の指紋が付いた“包丁”が」

 メチャクチャ計画的!?
 ちゃんと頭働いてるじゃないですか!

「調理室の場所が、鮮明に浮かんできたわ。それじゃあ――」

 犯行に向かって足を踏み出す先輩。このままだと俺の命が危ない。
 悟った俺は先輩の前に立って、慌てて自己の弁護に入った。

「せ、先輩! 俺は、別にどこにも入らないって言っていたわけじゃないんですよ!」

「ちゃんと言っていたわ。しっかり記憶に残っている」

「そ、それは……言葉のあやといいますか……誤りと言いますか……」

「一度口にした言葉は訂正できないわ」

 俺の供述は、悪魔の前では無力だった。

「それとも他に何か考えがあるの? たとえば、自分で委員会や部活を設立するとか」

「え……」

「そうじゃなかったら……フフフ……」

 悪魔の口から、この状況を打開する一筋の光が現れた。俺はわらをも掴む気持ちで、それに飛びついた。

「そ、そうです! 部活を設立するつもりなんです!」

「へぇ〜。どんな?」

「……」

「……」

「……」

「ねぇ、どんな?」

「…………」

 考えなしの行動では後が続かない。返す言葉の見つからない俺は、死刑台へまた一歩近づいた。

「や し ろ く ん?」

「……」

「ねぇ?」

「……」

 沈黙の間も、13階段を上る俺の足は歩みを止めない。このまま行けば、最後まで行ってしまう。
 焦りと恐怖に蝕まれて、思考がうまく働かない。絶体絶命の大ピンチ。場の緊張感が最高潮に高まり、俺は人生の瀬戸際を感じた。


 その時だった。
 目の前で殺意を振りまいていた彼女に、変化が訪れたのは。

「……矢代君」

「は、はい!」

「あなた……もしかして……」

「な、何ですか?」

「もしかして……そういうことなの?」

 どういうこと?

「あぁ、やっぱり。そっか……そっかぁ〜、そうなのね♪ どうも様子がおかしいなぁ〜って思っていたけど、そういう事だったんだ。やっと、あなたの行動のすべてがつながったわ!」

 何が、どう、つながったんですか?

「またわたし、あなたの事を誤解してた」

 いえ、誤解なんてしてませんでしたよ。むしろ今が誤解中です!

「やっぱり、矢代君は素晴らしい人間だわ!」

 生と死の狭間から抜け出した俺だったが、またとんでもない嵐が近づいている……ような気がした。

「よし! それならわたしが――」


 ピン、ポン、パン、ポーン


『皆さん、おはようございます。本日は全校集会となっております。生徒の皆さんは速やかに、体育館まで移動してください。繰り返します。本日は全校集会になっております。生徒の皆さんは速やかに、体育館まで移動してください。以上、放送を終わります』


 ピン、ポン、パン、ポーン


 部屋に設置されているスピーカーからアナウンスが流れる。どうやら今日は全校集会があるらしい。という事は、この修羅場ともおさらば?
 状況を理解した俺は、胸の内でガッツポーズを握りしめた。

「ぜんこうしゅうかい? …………あっ!! 全校集会!」

 何か閃いた様子の先輩。悪い予感しかしないのは、なぜだろう……。

「矢代君、チャンスよ! 今すぐ体育館に乗り込むわ!」

「へぇ?」

「ほら、急ぎなさい! すぐに行くわよ!」

 そういうと先輩は俺の手を掴み、有無を言わずに走りだした。腕を引っ張られる格好となった俺はよろけながら、先輩の後を走る事を余儀なくされた。


 俺は今走っている。体育館に向かって走っている。わけもわからない状況だが、とりあえず先輩に連れられて走っている。
 この先待ち受ける事に不安はあるが、どうやら回避出来そうにない。

 こうなったら、腹をくくってやろうじゃないか!

 覚悟を決めた俺は勇気と言う名の光を胸に抱き、何が起こるかわからない体育館へと走り続けるのだった。




 貴重な時間を割いてこの作品に目を通して頂き、本当にありがとうございます。そして物語が終わらないという事に関して、深くお詫びを申し上げます。
 本作品は、短編と思えぬ長い文、短編ではあるまじき《続く》という行為、その2つのタブーを犯しております。作者がK(型破りな)Y(ヤツ)で申し訳ありません。どうか許して頂きたいと思います。

 早めに続きを投稿しますので、そちらでまたお会い致しましょう。
 本作を読んで頂きまして、ありがとうございました☆
 













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